パイオニアはAV(音響・映像)機器事業の子会社パイオニアホームエレクトロニクスを、音響機器メーカーのオンキヨー(大阪市)と2015年3月をメドに経営統合する。統合してできる新しい会社の社名は未定。
新会社へ移管されるのはブルーレイディスク(BD)プレーヤーやホームシアターシステム、家庭用電話機などで、これらAV機器事業の14年3月期の売上高は400億円、連結売上高4980億円の8%に相当する。パイオニアホームについては今年6月、香港の投資ファンド、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジアに売却すると発表されており、ベアリングが株式の51%、残りをオンキヨーとパイオニアがそれぞれ保有する予定だった。だが、3社の事業運営をめぐる意見がまとまらずベアリングが買収を取りやめたため、オンキヨーとの経営統合となった。
オンキヨーの14年3月期の売上高は360億円で、最終損益は4億円の赤字。パイオニアの子会社との統合で収益の改善を狙う。赤字のAV機器事業を切り離すパイオニアは、売り上げの7割を占めるカーナビゲーションやカーステレオなど車載関連分野に特化して生き残りを図る。
パイオニアは音響メーカーとして輝かしい歴史を持つ。音響メーカーとして認知されるようになったのは、1962年に世界初のセパレート型ステレオを発売してからだ。高度成長期にオーディオブームが到来。アンプの山水電気、チューナーのトリオ(のちのケンウッド)と並び「オーディオ御三家」(サン・トリ・パイ)と呼ばれ、オーディオファンには「スピーカーのパイオニア」として親しまれた。
●テレビ事業で巨額赤字と大規模リストラ
パイオニアは黄金時代の1997年に、プラズマテレビを世界で初めて発売した。ブラウン管テレビに取って代わろうといったものではなく、あくまで高級品のニッチ市場を狙い、プラズマテレビで1兆円企業になる青写真を描いていたが、液晶テレビのシャープ、プラズマテレビのパナソニックが引き起こした価格競争の渦に巻き込まれ、資金力と販売力で劣るパイオニアは大敗を喫した。プラズマテレビ事業の不振が原因で、09年3月期決算で過去最大の1305億円の赤字を計上。その後、テレビ事業から撤退、1万人規模の人員削減など大規模リストラに追い込まれ、創業家・松本家による同族経営の幕は下ろされた。
パイオニアは筆頭株主のシャープ(持ち株比率8.0%)と2位の三菱電機(同7.4%)、メインバンクの三菱東京UFJ銀行(同1.7%)が支える体制となった。だが、経営再建中のシャープはパイオニアとの資本提携を解消し、9月11日付で同社株式3000万株をすべて売却した。シャープの持ち株を買ったのは三菱UFJモルガン・スタンレー証券。パイオニアは三菱グループとして企業再生に取り組むことになる。
●オーディオ御三家の栄枯盛衰
パイオニアの音響事業からの事実上の撤退で、「オーディオ御三家」は消滅することになる。同社創業者は松本望。牧師の次男として1905年に生まれた。
同社は同族経営だった。3代目社長は望の長男の誠也で14年間社長を務めた。次男の冠也は専務、会長になった。4代目社長は伊藤周男で、創業者・望の夫人の千代の姪と結婚して姻戚関係にあった。テレビ進出の失敗で大きなダメージを受け、松本家の同族支配は終止符を打つことになった。
御三家の1社、ケンウッドは、08年に日本ビクターと経営統合を余儀なくされた。11年10月、持ち株会社のJVCケンウッドとケンウッドを含む事業会社が合併し、ケンウッドは65年の歴史を閉じた。
もう1つの御三家、山水電気は今年7月に破産に追い込まれた。70年代にはアンプといえば山水電気というほどの人気を博していたが、アンプしか競争力のある主力商品がない山水は、オーディオブームが去った80年代後半から経営危機が表面化。
●「携帯型」普及の波に押される
音楽を聴く仕組みはレコード、カセット、CD、MD、HDDなどと進化してきた。今や、アップルのiPodに代表される携帯型音楽プレーヤーや、iPhoneをはじめとするスマートフォーン(スマホ)が主流だ。携帯型音楽プレーヤーやスマホの普及により、パイオニアが得意としてきた据え置き型のオーディオ機器の市場は急速に縮小した。電子情報技術産業協会の統計によると、CDが聴けるミニコンポなどの「ステレオセット」の出荷台数は2000年の303万台がピーク。iPodが登場した01年以降、市場は急激に縮小し、13年は48万台とピーク時の15%(85%減)に落ち込んだ。携帯型音楽プレーヤーとスマホの普及が、「オーディオ御三家」にとどめを刺した格好となった。
(文=編集部)