10月3日、食品安全委員会化学物質・汚染物質専門調査会は加熱時に生じるアクリルアミドについて、次のように正式に遺伝毒性を有する発がん物質であると評価をした。

「トランスジェニックげっ歯類等を用いた遺伝子突然変異試験、マウス特定座位試験及び相互転座試験など多くの試験で陽性あるいは弱陽性を示した。

これらの結果からアクリルアミドは遺伝毒性を有すると考えられた」
「アクリルアミドの発がん性については、マウスを用いた試験において、ハーダー腺、乳腺、肺、胃等で発がん頻度の有意な増加が見られており、ラットを用いた試験において、乳腺、甲状腺、精巣等で発がん頻度の有意な増加が見られている。これらの結果から、発がん物質であると考えられた」
「従って、本調査会としては、アクリルアミドは遺伝毒性を有する発がん物質であると判断した」

 食品中のアクリルアミドについては、スウェーデン食品安全庁とストックホルム大学が02年、炒める・焼く・揚げるなどの処理をした馬鈴薯や穀類の加工品に含まれていると発表し、以来全世界で食品中のアクリルアミドの毒性と食品の安全性について研究が開始された。もともと、アクリルアミドは合成樹脂の一種で、土壌強固剤など工業用途に使われており、国際がん研究機関(IARC)が1994年に「ヒトにおそらく発がん性がある物質(グループ2A)」に分類していた。食品中のアクリルアミドは、食品中のアミノ酸アスパラギンと還元糖(ブドウ糖や果糖など)に対して120度以上の加熱が行われると、化学反応により生成されることがわかっている。経口摂取された食品中のアクリルアミドは、腸管で吸収され、全身の組織に移行し、母乳や胎児にも移行するとされている。また、神経毒性もあることが確認されている。

 食品添加物などのリスク評価を行っているFAO/WHO合同食品添加物専門家会合(JECFA)は11年、食品中のアクリルアミドのリスク評価と勧告を行い、神経毒性については、「平均摂取量では神経への影響はないと考えられるが、摂取量が多い場合には神経に形態変化が生じる可能性は無視できない」とし、遺伝毒性及び発がん性については、「遺伝毒性及び発がん性を有する化合物としては、暴露マージンが小さく、健康への悪影響が生じる可能性は無視できない」(暴露マージンが小さいほど健康影響が生じる可能性が高い)としている。そして、食事からの暴露の原因になる食品に含まれるアクリルアミドを低減する方法の、さらなる開発及び実施を勧告した。
 
●該当する食品

 では、食事からのアクリルアミド暴露の原因になる食品とは、具体的にどのような食品なのだろうか。農林水産省は13年11月、「食品中のアクリルアミドを低減するための指針」を発表した。そこで対象とされている以下の食品が該当するといえる。

(1)馬鈴薯の加工食品、調理食品
 ポテトフライ、ポテト系スナック菓子(ポテトチップスや成型ポテトスナック)

(2)穀類の加工食品、調理食品
 即席めん類、パン類(トーストなどの調理品を含む)、オートミール、パン粉、麩、朝食シリアル、ビスケット類、焼き菓子、米菓、油菓子、和菓子(焼きもの)、洋生菓子、コーン系スナック菓子、小麦系スナック菓子など(主に120度以上の加工を施したもの)

 また、欧州委員会(EU)は12年、主要品目にアクリルアミドの指標値(13年改定)を導入し、その指標値を超える場合は事業者調査をするとしているが、この指標値から品目ごとのアクリルアミドの濃度がわかる。


【品目ごとのアクリルアミドの指標値(単位:マイクロg/kg)】
 調理済みフレンチフライポテト(600)、ポテトチップス(1000)、馬鈴薯を主原料とするクラッカー(1000)、小麦を主原料とするソフトブレッド(80)、小麦を主原料とするソフトブレッド以外のソフトブレッド(150)、朝食用シリアル(400~200)、ビスケット、ウエハース(500)、クラッカー(馬鈴薯を主原料とするクラッカーを除く)(500)、焙煎コーヒー(450)、インスタント(ソリュブル)コーヒー(900)、乳幼児用ビスケット及びラスク(200)、乳幼児用穀類加工品(ビスケット及びラスクを除く)(50)

 このように指標値の高い食品は、アクリルアミドの含有量が高くなる食品である。

 アクリルアミドは、加熱温度によって生成量が異なる。フレンチフライポテトをオーブンで加熱した場合、120度以下であれば500マイクロg/kg以下であるが、220度で加熱すると2500マイクロg/kgまでの高濃度のアクリルアミドが生成された。また、冷凍フレンチフライの揚げ色とアクリルアミド濃度を比較した試験(農林水産省)では、揚げ色がつかないフレンチフライが147マイクロg/kgであったのに対して、全体に揚げ色がついたフレンチフライでは、2683マイクロg/kgもの濃度になっていた。

 日本ではアクリルアミドに対する取り組みについて、農林水産省が指針を発表しているものの、食品業界の自主的な判断に委ねられており、有効な規制措置はとられていない。明確に遺伝毒性と発がん性が認められているだけに、日本としての食品の残留実態調査と規制値の設定、さらにそれに基づく規制が必要である。現状では消費者は、自らの健康を守るために、アクリルアミド濃度の低い食品を選択して摂取するしかないといえる。
(文=小倉正行/国会議員政策秘書、ライター)

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