安倍政権は2020年までに指導的地位を占める女性の割合を30%に引き上げる「2030」目標を掲げている。これを受けて今国会に提出する「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」(女性活躍推進法案)に、女性管理職の比率など女性登用に向けた数値目標を義務付けるのか否かで与党は揺れた。
厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)では、経営側委員が数値目標の義務付けに「数合わせの人事になる」と強く反発したため、報告書段階では数値目標について「望ましい」との表記にとどめた。
だが、官邸が難色を示したため、一転して義務付けの流れが加速した。しかし、女性管理職比率の数値目標を義務付けることに対する経営側の反発は強かった。紆余曲折の末、女性の登用を計画に盛り込むことは義務付けるが、数値目標自体は企業の裁量にまかせるとして決着した。官邸は名を、経営側は実を、それぞれ取った格好だ。
個々の企業で女性社員の置かれた状況や課題は異なるため、一律の目標を定めることには無理がある。中には、数値目標を達成するために「部下なし課長」のような管理職の肩書を乱発して、数合わせをする企業が出てくるだろう。大事なのは、意欲と能力のある女性が力を発揮できる環境を整えることだ。
●そごう・西武は4店に1店が女性店長
百貨店は、テナントとして入居する専門店の売り場スタッフも含め、女性が圧倒的多数を占め、「女性の職場」の代名詞となっている。しかし、これまで店長はほとんど男性だった。
そんな百貨店の慣行に一石を投じたのが、そごう・西武だ。
女性店長会は堤真理・取締役自主商品部長、田口邦子・執行役員CSR推進室シニアオフィサー、野澤恭子・西武岡崎店長、釣流まゆみ・西武東戸塚店長、山本まゆみ・西武所沢店長、加納澄子・西武八尾店長、浮橋和美・そごう柏店長、岩波るり子・そごう西神店長の8人で構成され、毎月の全店長会のタイミングで開催されている。
そごう・西武の傘下の百貨店で初めて女性店長が誕生したのは、1997年2月。そごうと経営統合する前の西武有楽町店だった。経営統合を経て2006年にセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入って以降、女性の登用が本格化した。店長は13年8月に4人となり、今年9月には6人に増えた。
女性の活躍を促す実験店が、埼玉・西武所沢店だった。12年4月に女性中心の店舗運営に切り替えた。同店は女性の正社員比率を3割から8割に引き上げ、係長以上の管理職は全員女性にするなど、女性活用の成功例といわれている。店長を務めていたのは堤氏で、女性が働きやすい職場をつくり業績もアップさせた、百貨店改革のリーダーだ。
●三越伊勢丹は女性店長ゼロ
そごう・西武を含む大手百貨店4社の女性管理職の割合は2割程度で、女性店長の割合は微々たるものだ。
高島屋は早くから男女共同参画型企業への取り組みを行っており、マネージャーやバイヤーといった基幹業務の女性比率を年々高めてきた。12年には正社員に占める女性の割合が半数を超え、13年9月に肥塚見春取締役が代表取締役専務に昇格して大きな話題になった。大手百貨店の中で、生え抜きの女性社員が代表取締役に就任するのは初めてのケースだったからだ。
肥塚氏は、10年2月に岡山高島屋社長兼店長に就任。女性ならではの視点でさまざまな改革を行い、13年2月期には同社を5期ぶりに黒字転換させた。その手腕を買われ、13年5月には高島屋の取締役に抜擢され、わずか3カ月余りで専務に昇格した。現在は鈴木弘治会長、木本茂社長に次ぐ序列3位の専務で、営業本部長、ライフデザインオフィス長、購買本部、個人情報管理室担当を兼務する。そんな高島屋でも、17店のうち女性店長は玉川店の1人だけだ。
大丸松坂屋は19店のうち女性店長は、冨士ひろ子・執行役員大丸大阪・梅田店長、柚木和代・執行役員大丸神戸店長、香川暁子・執行役員大丸札幌店長の3人。大丸札幌店はローコスト経営のモデル店として開店以来10年間、連続増収を維持してきた。11年目の今期も、売り上げ増が確実視されている。
他方、高級化路線を強化する百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスが展開する百貨店は国内に28店あるが、女性店長はいない。
顧客、従業員の大勢を女性が占める職場において、女性店長が増える傾向にあるのは、むしろ自然な流れといえるのではないか。さらに女性店長が改革に成功する事例が生まれるたびに、それは加速するだろう。そして、百貨店業界にとどまらず、女性活躍のモデルケースとなる可能性も秘めているといえる。
(文=編集部)