●今年の宴会芸は「ようかい体操第一」で決まりなのか?

 いやはや、私は戸惑っている。『妖怪ウォッチ』ブームに関してだ。

間違いなく、今年のヒット商品といっていい。先日発表された2014年度の「ユーキャン新語・流行語大賞」でもベストテン入りしていた。おもちゃもゲームも大ヒット。特に玩具は品薄状態で、バンダイナムコグループは決算発表会やHP上でもお詫びしていたが、いまだに入手困難な状況のようである。
 
 いや、元玩具メーカー社員としては、新しいキャラクターがデビューし、しかも大ヒット商品になったのは嬉しい。今年はガンダム、戦隊もの、仮面ライダーなど既存のキャラクターも話題がいっぱいだし、商品も売れている様子だ。少子化、デフレなどといわれつつも、キャラクターや玩具も盛り上がっているということは嬉しい。

 ただ、この妖怪ウォッチが宴会まで侵食しているとなると、いろいろと言いたくもなる。そう、今年の忘年会の宴会芸も『ようかい体操第一』が大人気になりそうなのだ。筆者はこの春に大学院を出たので、25歳くらいの社会人1年目の友人が多数いる。彼ら彼女たちと会うと「忘年会のようかい体操第一の練習が大変だ」と漏らす。サンプル数が少なすぎるのでほかの会社員の知人たちにも聞いてみたが、宴会芸で『ようかい体操第一』を演じる会社はどうやら多いようである。
もちろん、正確に調査したわけではないのだが。

 これもまた、妖怪ウォッチの「商品」としての強さを感じる。どこを切っても売れて、長続きするコンテンツだと思う。

 そして、流行る宴会芸的なものは参加型、盆踊り型だと再確認した。昨年流行ったAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』も、10年くらい前に流行った松平健の『マツケンサンバ』も参加型だ。その要件を満たしている。あっぱれ!

 とはいえ、妖怪ウォッチ一色かと思うと、文句の一つも言いたくなる。もっとほかに宴会芸はないのか、と。

●宴会芸と私

「マルクスもケインズも吹っ飛んだ」

 これは、漫画『課長島耕作』(弘兼憲史/講談社)内で島耕作の上司、中沢部長(のちに取締役→社長→相談役)が発した名セリフである。大学院卒の中沢が大手電機メーカーである初芝に入社した時に待っていたのは、宴会芸の洗礼だった。家電ショップにおさめるノベルティのカレンダーに不具合があったことを詫びるために、中沢と島は新年会を訪問。そこで、中沢は自ら裸踊りを披露したのだった。
宴が終わった後で入社当時のことを振り返りつつ、島にこう語るのである。

 私は激しく後悔した。この漫画を学生時代に読まなかったことに。そう、この漫画を読み始めたのは、社会人3年目の頃だったのだ。自宅近くの漫画喫茶に通い、課長編を全巻読んだのだった。すでにこの漫画に描かれていたような宴会芸の洗礼を、私は受けていたのだった。

 私は15年間のサラリーマン生活で、残業、休日出勤、接待、宴会芸、希望外の異動、出向、転勤、過労・メンヘルなどサラリーマンらしいことをひと通り経験した。真性「社畜」経験の持ち主だ。学生時代、「会社に入っても、これだけはしたくない」と思っていた嫌なことを、ひと通り経験した。

 20代の頃、会社で、そして先輩や友人の結婚式などで宴会芸をやりまくっていた。実に屈辱的な体験をたくさんしたものだ。Tバック一丁でカラオケボックスに入り、先輩が飛ばす大量の吹き矢に撃たれる「少年ケニア」という芸、江頭2:50の真似、映画『マトリクス』の真似、プロレス実演、パンツ一丁で全身にポケベルを付け一斉に鳴らす『バイブマン』という芸などなど、思えば下品な芸をたくさんしたものだった。


 下品な芸だけではない。下品なゲームを仕切らされたこともあった。印象に残っているのは、先輩の結婚式2次会でやった「淫語DEビンゴ」というゲームだ。参加者全員に官能小説のページを破ったものを配り、新婦が淫語を読み上げ、ページ両面に5つ以上あったらビンゴというゲームだ。これをやりたいと言い出したのは新郎新婦だが、仕切っていてやや虚しくなった。

 今はコンプライアンスにうるさい時代なので問題になりそうだが、こんな宴会芸をやって私は育った。まさに、マルクスもケインズも吹っ飛ぶ日々だった。

●宴会芸は人を育てる

 しかし、私はすっかり会社の論理に染まり、いつしか宴会芸が大好きな人材になってしまった。宴会芸の準備が楽しみでしょうがなくなったのだった。いつしか、宴会芸を率先して行うようになったり、宴会を仕切るようになった。

「宴会芸は人を育てる」とさえ思うようになった。企画力、実行力、リスク管理、チームワーク、会計など、すべてのスキルがアップする。
だから、企業においては新人教育の意味も含めて宴会芸を新人に任せるのである。

 先輩をいじりすぎる、危険な行為をする、羽目をはずすと怒られてしまう。しかし、真面目なことをやってもウケない。このバランスの取り方、修羅場の乗り越え方などが、いちいち仕事に生きるのである。

 いつしか、宴会芸のデキない奴は、仕事がデキないとすら思うようになった。そして、自分の宴会芸に絶大なる自信を持つようにもなった。今では、そんな自分のことを、褒めてあげたい気分で胸がいっぱいだ。

 とはいえ、コンプライアンスには注意だ。某社では、小島よしおの「そんなのかんけーねー」が流行った頃、「宴会でやる際は、着衣のもと行うように」という通達があったという。リスク管理をしてこそ、デキる男である。

 というわけで、宴会芸シーズンである。妖怪ウォッチの「ようかい体操第一」を超える宴会芸に我々は取り組もうではないか。
ぜひ、宴会芸を新人教育に生かしていただきたい。そして、先輩たちは宴会芸でレベルの差を見せつけろ。宴会芸は、日本が世界に誇る文化なのだ。
(文=常見陽平/評論家、コラムニスト、MC)

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