卒業アルバムを開いてみる機会は、そう多くはないかもしれない。同窓会の前後に開いて昔の仲間を確認したり、部屋を大掃除する時に、ふと懐かしんで見る程度という人も少なくないだろう。



 しかし、そんな卒業アルバムに収まっている写真の表情を見れば、その人の将来がわかる、という衝撃的な研究結果が話題となっている。写真を見ながら、「この人、将来○○な仕事をしそう」「きっと誰にでも好かれる人生を送るだろうな」などと勝手に推測することはあるが、それを統計的に実証した本が『卒アル写真で将来はわかる~予知の心理学』(マシュー・ハーテンステイン/文藝春秋)だ。

 今回、文藝春秋の本書担当編集者と本書翻訳者の森嶋マリ氏に

・幸せな人生を送れる顔はどのような顔か
・写真から相手の人物像を見抜くコツ
・初対面で相手に良い印象を与えるコツ

などについて話を聞いた。

●卒業アルバムの写真で将来の離婚率がわかる?

--本書が発行された経緯についてお聞かせください。

担当編集者 当社が翻訳本を出版するパターンは2つあります。ひとつは海外のエージェントから提案された企画書の中から採択するパターンで、その後、翻訳者の選定に入ります。もうひとつは翻訳者から出版企画として提案されるパターンです。

 本書は前者のパターンで出版に至りました。「卒業アルバムの写真から将来の離婚率がわかる」「男性は左右対称の顔がモテる」など、ふだん多くの人がモヤーッと思っていることが統計的に裏付けられているとの判断で採択に至りました。

 科学的な内容なので、ポピュラーサイエンス然とした書籍の作り方もできましたが、取り扱っているテーマが万人にとって気になることなので、柔らかいテイストでしっかりと訳していただいて“誰もが手に取りやすいポピュラーサイエンス”を狙いました。

--翻訳を森嶋マリ氏に依頼されたのは、どのような理由からでしょうか?

担当編集者 産業翻訳では一文一文を正確に和訳することが求められますが、一般書では「翻訳者が著者になりきれるか」「著者が日本人だったらどう書くか」というスタンスで翻訳できるかどうかが大切です。それを踏まえて、柔らかくて正確に翻訳していただける方という要件から、翻訳ミステリー大賞を受賞された経歴の持ち主である森嶋氏が適任と判断してお願いしました。


--販売部数はどのぐらいですか?

担当編集者 10月末時点で1万2000部です。この種の書籍としては、堅調な滑り出しといえるかと思います。

●初対面で良い印象を与えるコツ

--森嶋氏は翻訳を終えて、人の顔に対する見方は変わりましたか?

森嶋マリ氏(以下、森嶋) 変わったとまではいえませんが、注視するようになりました。人と会った時に、その人の心理的な特性を見抜くことは難しいですが、第一印象が大切であることをあらためて理解しました。

 先入観を持ってはいけないと思いますが、著者が述べているように、細長い顔の人に対しては「この人は、もしかして攻撃的になるのかな」とか、丸顔の人には「温厚な方なのかな」とか、そのあたりを意識するようになりました。それから幅の広い顔の人には頼りがいを感じるようにもなりました。

また、相手の印象だけでなく自分の印象についても、本書に書かれていますが数秒間で第一印象が決まってしまうのですから、その数秒間で良い印象を与えることを心がけるようになりました。

--良い印象とは、笑顔でいるということでしょうか?

森嶋 はい、笑顔です。ただし、つくった笑顔でなく、本当の笑顔でないと意味がありません。そこで、例えば初対面の方に対しては「どんな方にお会いできるのかな」と前もって気持ちを高めておくことで、本当の笑顔でお目にかかれるのではないでしょうか。そう思うようになりましたが、これは、この本を訳した副産物かもしれません。

 一方で、意識的に笑顔をつくることで、だんだんと心の伴った本物の笑顔になっていくのではないかと思っています。


--ソフトバンク社長の孫正義氏、楽天社長の三木谷浩史氏は顔の幅が広いですね。

森嶋 三木谷氏の顔はさわやかで、頼りがいがありますね。ビジネスで成功するには攻撃的な面も必要でしょうが、さらに男性としての魅力には、生物学的に申し上げれば経済力があること、大昔なら食べ物を獲ってくる能力が求められます。そういう男性は顔の幅が広く、これは男性ホルモンにも関係していると著者は書いていますが、「なるほど」と納得しました。

--本書には、子供でも選挙に当選する候補者は顔で判断できると書かれていますが、政治家の顔をどうご覧になっていますか?

森嶋 閣僚に就任するような議員に、貧相な顔の方はいないという印象です。本書ではリンカーンの顔が紹介されていますが、仮にリンカーンにヒゲがなかったら、貧相で悪人のような印象を与えてしまうでしょう。ケネディとニクソンの顔も比較されていますが、女性にはケネディの顔のほうが絶対に受けます。

 女性が政治家の顔を見る場合、さわやかな印象はポイントの高い要素です。その意味で安倍晋三首相はさわやかで、それに最近は頼りがいも出てきた印象があるので、人気が高いことがよくわかります。

--スポーツ界はいかがでしょうか。例えば、読売ジャイアンツの原辰徳監督はさわやかな顔立ちだと思いますが。

森嶋 もともとさわやかで誠実なイメージの顔でしたが、選手時代には線の細い印象がありました。
しかし監督になってからは、さわやかさだけでなく、頼りがいが出てきたと思います。

●写真から相手をどう評価するか

--社員を採用する場合、履歴書に貼られた写真をどのように評価すれば、戦力になる人材かどうかを見抜けるでしょうか?

森嶋 職種によって異なるのではないでしょうか。本書には、童顔と大人びた顔の比較が書かれていますが、お客さんと頻繁に接する職種なら童顔のほうがよく、厳しい判断が求められる職種なら大人びた顔のほうがよいと指摘されています。

担当編集者 著者は取引候補の社長や採用候補者との面談で、あまり相手に関する情報を知りすぎていると、かえって人物が見えなくなり、顔写真だけのほうが適切な判断ができると指摘しています。例えば採用では、まず顔写真の印象の良い応募者を選んで、その後に履歴書などの情報と面接での評価を組み合わせて、判断するという方法もあるかもしれません。

--文藝春秋社の社員採用では、顔はどう評価されているのでしょう?

担当編集者 それはわかりません。さっそく人事部にこの本を熟読してもらいます。私が面接を担当した経験を思い出すと、笑顔の応募者が印象に残っているので、そういう方が書類選考に合格しているかもしれません。

--日本には「福相」という言葉があります。運の良い人生を送れそうな顔というものもあるのでしょうか?

森嶋 それも、やはり笑顔でしょう。著者も述べていますが、笑顔は人を引きつけ、何か問題に直面した時にも誰かに助けてもらえて、それが幸せな人生につながるのではないでしょうか。

--結婚相手を選ぶには、卒業写真で笑顔の人が好ましいといえるでしょうか?

森嶋 著者は、「卒業写真が笑顔の人は離婚率が低く、長生きする」という結論を導いています。
そういう相手と結婚したほうが、幸せな家庭をつくれるのではないでしょうか。著者もテレビ番組のインタビューで「卒業写真がにこやかな笑顔の女性と結婚した」と答えています。

担当編集者 結婚を決意する前に、卒業アルバムを見たほうがよいかもしれません。

--ありがとうございました。
(構成=編集部)

編集部おすすめ