前編では自主制作盤とメジャーからリリースした際の収入の差や、音楽ビジネスで感じた日本と海外の違いについて、海外ツアーの様子をうかがった。後編ではさらに踏み込んで日本の音楽ビジネスについてやミュージシャンになる心構えなど、Kelly SIMONZ(ケリー・サイモン)が感じることを超絶に語ってもらった。



――ツアーを終えてから、しばらく表舞台からは去り、アルバムのリリースをすることもなく、ギター講師として活躍されましたよね。

Kelly SIMONZ(以下K):ツアー直後は正直、今後どういう方向に自分が進めばいいのか分からなくなっていました。表現者として、ギターリストとして、何をすべきなのか、完全に見失ってしまいました。思い描いていた理想とあまりにも残酷な現実のギャップがありすぎたんです。だから、ライブや創作活動といったものに手を付けられなくなってしまったんです。

 そんなとき、音楽専門学校から講師の誘いをたまたま受けたんです。まさか自分がギターの先生になるなんて考えもしなかったから戸惑いました。僕が目指していた道とは大きく外れてしまいましたからね。自分で本当に務まるのか悩みましたけど、技術云々よりも、自分が経験したことを教えれば若い子たちのためになるかなと思って講師をやってみることにしたんです。

――いまの音楽専門学校は、かつて第一線で活躍されていた著名な方々が講師をされていることが多いですよね。講師業というのは経済的に安定するのでしょうか。

K:サラリーマン的な意味で言えば安定しますね。
だけどビッグチャンスはないと思います。公務員に近い感じでしょうか。

――講師になって新たに発見したことってありますか?

K:やたら現実的な生徒がいることでしょうか。はっきり言って僕は理解ができなかったんですが、初めから音楽講師になりたいと生徒がいるんです。

 ミュージシャンになる以上やっぱり人前に立って一番になり、みんなに自分の音楽を愛されたい、すごいと思われたいじゃないですか。だけど、最初から裏方に回りたいと思うなんて、少なからず僕がギターを始めたきっかけではありえなかったです。

 そういう生徒って、「このくらい年収があればやっていける」と夢を設定してしまう傾向にあります。だけど、金額を設定してしまうとそれ以上の年収は超すことができないだろうし、そもそもその額にも届かないよって話はしてあげます。

――だいたいどのくらいの額を夢見ているのですか?

K:300~500万円くらいですかね。かなり現実的です(笑)。

――本当に現実的ですね。夢見るような金額ではないかと思います。


K:それに、多くの生徒は2年頑張ってダメだったら音楽から足を洗うなんて言うんですよ。はっきり言って2年で結果を残すなんて絶対に不可能。僕だって最近ようやく名前が浸透してきたかなと思うくらいで、ここまで来るのに30年もかかっているんです。本気で音楽だけで飯を食っていくつもりなら、気がついたら30年経ってたくらいじゃないとダメですよ。

 自分で頑張っているって言ってしまう人は実際そんなに頑張っていないんです。そう人に限って、「俺はこんなに頑張ってんのになぜ報われないんだ」と言ってしまうんです。だけどそれは間違い。みんな頑張っているんですよ。

 正直、結果が出せる人はものすごく少ない世界です。努力すれば報われるわけじゃないですし、努力と同じくらいに運に左右されてしまうこともあります。運が自分に向いてくるタイミングまでやり続けられるかどうかってことも音楽の才能の一つです。

■高い技術を有しているだけでは生き残れない

――Kellyさんが思い描くようなミュージシャンになるためには何が必要と思われますか?

K:僕はイングヴェイ・マルムスティーンというギターリストが大好きで、彼を信じてここまで音楽をやり続けています。
僕以外にも彼を崇拝しているギターリストはたくさんいるわけで、彼の何が魅力かを考えたとき、彼の類まれなる技術だけでは人を惹きつけるのは難しかったと思うんですよ。ではそこに何がプラスされていたのかというと、カリスマ性だとか、人間性だと思うんです。だから技術以外のものを持っているミュージシャンじゃないとダメだと考えています。イングヴェイを見ていると、万人受けしなくていいんだと思いませんか? それを彼は教えてくれたんです。

――こういっては大変失礼なのですが、イングヴェイはアンチも大変多いですよね。

K:分かっています。だから僕はなぜ彼が嫌われるのかも必死に考えたんです。その結論は「すごいからじゃないかということです。すごければすごいほど、賛否が湧いてしまうんです。それはあるべきミュージシャンとしての、一つの解答なんだと思います。

――さらに失礼ですが、Kellyさんも常に賛否両論を湧かせるギターリストですよね。

K:そうですね(笑)。
僕も畳みかける速さが“すごさ”に変換され、リスナーに強烈なインパクトを与えるから湧かせてしまうんでしょう。それに、見た目を含めたキャラが立っているからってこともあると思うんですよ。

――ミュージシャンにキャラ作りは大事ですか?

K:大事ですね。日本人はアーティストに人格者であることを求めるじゃないですか。良い人であるべきだ、みたいな。でもぼくは作品でしかアーティストを判断しません。アーティストの評価は音楽でされるべきだからです。アメリカから帰国したとき、そこにも日本と欧米のずれを感じました。

 ぼくは日本人の中ではゴツイ体型なので見た目が怖いと思われがちですが、話をした人からは、印象が違うと言われるんです。だけど、僕の音楽を聞いて良い人だと感じてしまったら、それは違うなと思うんです。自分で出す音は極悪でありたい。

 それに対してアンチの存在が湧いて出るのは仕方がないんです。
アンチの人が燃えればファンも燃えて、その逆もあるわけです。僕が見た目を怖そうにするという仕掛けをし、そこにアンチの方々が食いついてきたらそれはそれで成功ってことでもあるんですよ(笑)。

■なんでも弾けるは有名にならないと通用しない

――講師という充電期間の後、再び表舞台に戻ってまいりました。この理由は何かあったのですか。

K:『超絶養成ギプス』というとんでもなく難易度の高い教則本を出したんですが、これが10000部くらい売れたんです。こんなめちゃくちゃ難しい本を誰が買うんだと驚きました。

 それを機に教則本を計5冊作りました。累計50000部くらいに売れたんです。もうミュージシャンじゃなくて作家ですよね(笑) 。それが自信につながり、表舞台に戻ろうと考えたんです。

――あの教則本はギターリストからすれば常軌を逸した難易度だそうですが、同業者の方からの反応はいかがでしたでしょうか。

K:本当に演奏できるのか、半信半疑という目を向けられていたと思います。
いま僕は積極的にYouTubeにプレイ動画をアップしてセルフプロモーションをしているのですが、そういうこともあって、本当に弾けるぞってことをアピールするためにやり始めたのもきっかけの1つです。

――出版や動画の効果で知名度がグンと上がったのではないでしょうか。

K:若いギターキッズから支持を想像以上にたくさん得ましたね。それに、NHKに出演したり、Googleから連絡がきたりもしました。この辺りは動画の効果がかなり大きいと言えます。

――職業としての講師業からは離れたとはいえ、最近ではギターセミナーも積極的に行っていますよね。

K:セミナーではこれまでに全国津々浦々130カ所回りましたね。

――130カ所!? すごいですね。大成功じゃないですか。

K:ここでキャラ作りにもつながることですが、超絶ギターリストというイメージを世間にさらに植え付けるチャンスでしたし、実際に成功したと思います。とにかく僕は速いプレイに集約したんですよ。人が真似できない速度で弾いて、最大のインパクトを残してやろうと。それでイメージが固定しても構いませんでした。

――でも、実際Kellyさんは昨年末にインストでカバーアルバムを出すくらい様々な音楽への造詣が深く、演奏もなんなくこなすマルチなギターリストです。速さにだけこだわらない方が良かったのではないでしょうか。

K:おっしゃる通り僕はアメリカで一通り勉強してきたし、研究もしてきたのでどんなジャンルにも対応できます。実際そういったなんでもできるマルチなギターリストになりたかったんです。でもそれって日本じゃ通じないんですよ。

 日本ではやっぱり何かしらカテゴライズされる必要性が不思議とあります。「なんでもできる」は有名にならないと通用しません。いまの僕の知名度じゃ、まだまだ飛び道具がないと相手にされない。だから“超絶的な速さ”に振り切る必要があったんです。

――最初の話に戻りますが、昨年、十数年ぶりにメジャーからKelly SIMONZ’s BLIND FAITHとしてアルバムをリリースしました。過去の経験を踏まえた上で、なぜいま再びメジャーに戻ったのでしょうか。

K:理由は大きく分けて2つあります。まず、もう印税に頼らなくていいミュージシャンとしての基盤ができたことです。メジャーから出せばプロモーションもやってもらえるので、プロモーション手段として割りきることができました。

 2つ目は若手をデビューさせるためです。バンドには若手のミュージシャンを入れているんですが、リリースされるアルバムに名前がクレジットされれば、必然とメンバーはメジャーデビューになるわけじゃないですか。彼らに肩書を持たせることができる。これって大事なんです。僕は若いころに散々思い知らされました。でも不思議と肩書があるだけで周囲に人はよってくるんですよ。だから若いうちから背負っておいたほうがいいんです。

――過去にメジャーで出した頃と比べて、いまの音楽業界の状況はどうですか?

K:全然違いますね。かつては20000枚売っていても、いまじゃ正直2000枚売れるのがやっとという状況です。

 レーベルからすれば、2000枚という数字は十分に合格点らしいのですが、その感覚がもう昔とは全く異なりますよね。2000枚で大丈夫となってしまう価値観は、業界がどうかしてしまったと思わざるをえません。だけど、音楽不況が叫ばれる中、自分がどうこう言える立場でもないのは分かっているので、やれることをぼくはやっていくしかないんですけどね。

■今の音楽業界は制作側の価値観が薄れている

――Kellyさんから見て、なぜCDが売れなくなったと思いますか?

K:誰もがCDを出せるようになってしまったのは大きいでしょう。CDはもっと価値があって、誰もが出せるものではなかったはずなんですよ。正直、巷には「こんなクオリティでいいの?」と首をひねりたくなるようなCDがたくさん転がっています。楽曲の質を上げようという流れではなくて、とにかくリリースしようという流れになってしまっているんです。

 誰でもCDを出せる世の中になったのなら、プレス屋はCDをどんどん出してほしいわけだから商売をしていくわけですよね。そして、全国流通させますよって言葉に乗って若い子たちがササッとCDを作り、それを流通に乗せていくわけですよ。CDを作ることも流通に乗せることも悪いことではありません。でもプロモーションの意味を考えてほしいです。流通に乗せて全国で買えるという事実に満足してしまってはなんの意味もない。

 これってライブハウスも似たような状況なんです。僕が若いころはライブハウスにはオーディションがあって、誰もが出演できる場所ではありませんでした。オーディションに受かるために必死練習して、お客を呼んだりして頑張ったんです。でもいまは違います。誰もが出演できます。CDが売れないいまでもライブハウスがやっていけるのは、バンドのおかげなんです。バンドから出演料というノルマを課すというビジネスになってしまっているんです。

――ライブハウスは確かに、行ってみたらお客がいなくてガラガラだったとか、フロアにいるのが客かと思ったら実は全員出演者だったなんてこともありますよね。

K:CDが売れない理由を挙げるのは他にもいくらでもあります。それこそインターネットやスマホの普及とか、YouTubeとか。だけど制作側の価値観、こだわりが薄れてきてしまっているのが一番の問題です。時代のせいにして軽く流れてしまう人が増えてしまっているのでしょうね。そこはもっと真剣に考えて、音楽に関わる人たちがしっかりとやっていかないといけないことです。

――大手CDショップなんかもずいぶん規模を縮小してきていますよね。

K:CDショップに関しても問題はあると思いますよ。『Holy Winter』がリリースされた直後、都内のCDショップに行ったんですよ。そこは駅前の好条件な立地にも関わらず、店内にお客がたくさんいるとは決して言えなかった。もっとお店に来てもらうような工夫とか、何かできないものなのかと感じざるをえなかったんです。

 それに、僕の『Holy Winter』にいたっても、手書きのポップが付いてはいたけれど、内容はレーベルが用意した宣伝文句そのまんま。店員が本当に聞いてくれたのかあやしいですし、店内で一度でも流してくれているかも疑問です。

 『Holy Winter』が出た当時、人気の女性シンガーのアルバム発売日とかぶってしまっていたので、店内は彼女のポスターで埋め尽くされていました。ビジネスなのは分かりますが、どうでもいいと判断されてしまった音楽と、売り出そうとしている音楽の差が違いすぎています。音楽は平等に扱われるべきです。CDショップは音楽全体の良さを伝えるようにする義務があると思うんです。「No Music, No Life」って言っているだけじゃダメですよ。

――特典商法で色々と議論が湧くアイドルの売り方についてはどう感じますか?

K:売れているアイドルのCDはトップの作家陣、有名ミュージシャンたちが参加していますよね。だからめちゃくちゃクオリティ高いんですよ。僕みたいなHR/HMが好きな人間でも、いいなって思う曲はたくさんあります。

 特典商法に関しては、売り手側のゴリ押しを感じることもなくはないですよ。だけどそれはあくまでビジネスの手法です。楽曲のクオリティが高いからこそリスナーも安心して買えるんですよ。1人で1,000枚買ってしまう気持ちは分からないですが、クオリティがいいから1枚買ってみようとする人が大勢いるのは納得できます。

――Kellyさんの今後の目標を教えてください。

K:やっぱり世界に出ていくことですね。僕はハッタリをきかすのが得意なんですよ(笑)。でもハッタリって実力がないとダメです。実力っていうのは単純に上手いという意味だけじゃなくて、インパクトを残せる実力があるということです。

 2013年のNAMMショーでのデモンストレーションで、思い切り弾いてきたんです。集まった観客を皆殺しにする気迫でね(笑)。そこでかなりの手ごたえを感じたんです。昔あこがれたミュージシャンに混じって自分がいることに違和感はありませんでした。20年前とは違い、もっと自分の良さを出して戦える手ごたえを得ました。

 僕が主戦場にしているネオクラシカルというジャンルでは、イングヴェイ以降、台頭してくるギターリストがあまりいないんですよ。だったら僕が再び世界に行くことで、イングヴェイと肩を並べられるくらいには頑張りたいと思っています。

 あと、アジア圏にももっと進出したいですね。台湾とか中国にもギタークリニックのツアーにいき、数百人は呼べるようになったんですが、まだまだ上を目指したいです。

――メジャーにこびずこれまで実力のみやってきた姿は、本来あるべきミュージシャン像とも思えます。若い子たちにも大きな影響を与えているのではないでしょうか。

K:これまで僕は散々叩かれて、苦い思いも辛い経験もたくさんしてやってきました。だから決して僕と同じようにやれとは言いませんが、僕と同じようなやり方でのしあがっていく若手が出てきたら嬉しいし、僕を目標にしてくれる若手がいるのなら、本当に嬉しいです。僕はレーベルを持っているので、そこから若手を世に送り出すこともしたいですね。ものすごい上手なのに芽が出ない子はたくさんいますから。
(文/構成=Leoneko)

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