●三井物産

 今年最大のサプライズ人事の舞台は三井物産だ。4月1日付で安永竜夫執行役員が社長に昇格する。

序列が上の取締役や執行役員32人を飛び越した。財閥解体を経て1959年に現在の三井物産が再スタートしてから、最年少の社長が誕生する。

 1977年、経営の神様・松下幸之助翁から指名され、松下電器産業(現パナソニック)の新社長に就いた山下俊彦氏は、先輩役員24人を飛び越えての大抜擢だった。後世、“山下跳び”と語り継がれることになったこの記録を、今回、安永氏があっさり塗り替えてしまった。

 現社長の飯島彰己氏は在任6年となるため、交代の可能性は高いとみられていた。今年に入ると、各メディアは後継者の予想を一斉に報じた。

 鉄鋼や食糧を束ねる雑賀大介副社長執行役員、本社部門の木下雅之副社長執行役員、資源・エネルギーの加藤広之専務執行役員、化学の本坊吉博専務執行役員の代表取締役4人が横一線と報じられた。昨年、三井物産は取締役でない執行役員からも社長を選べるよう定款を変更したが、候補に挙がったのは生活産業の田中聡常務執行役員だけだった。社内外で安永氏を予想した向きは皆無だったといってよく、それほどのサプライズ人事だったわけだ。

 安永氏はロシア極東の巨大液化天然ガス(LNG)プロジェクト「サハリン2」など各地でエネルギーや石油化学プラントのプロジェクトを担当。昨年度に執行役員になったばかりだ。総合商社は古くは「ミサイルからラーメンまで」といわれたほど扱う商品が多種多彩だ。
トップ人事でも他業界とのバランスを重視する傾向があり、若手を大抜擢するというケースはほとんどなかった。今回の三井物産のトップ交代は業界の慣習を打ち破るものといえる。

 飯島氏は記者会見で安永氏を選んだ理由を「(社長の任期とされる)6年後も体力、気力を維持できる人を選びたかった」と説明した。現在、副社長以下の取締役は7人。最年少の人物でも57歳。飯島氏は58歳で社長に就いたが「(最近は)体力と気力が、きつくなってきた」と語る。

 今回のトップ人事が社内に与えた衝撃は大きかった。これまで60歳前後が社長適齢期とみられてきたが、一気に5歳若返った。序列が乱れたことで、社内の政治力学は大きく変わる。安永氏より年上の幹部は多数おり、当然反発が予想される。それを抑えるのが飯島氏の役目になる。

 飯島氏は会長に就き、現会長の槍田松瑩氏は4月1日付で取締役に退いた後、6月の株主総会後に顧問となる。
安永新社長が自前の役員人事を行えるようになるまで、飯島氏が院政を敷くことになると見る向きが多い。

●セブン&アイ・ホールディングス

 流通大手では9月に在任丸10年になるセブン&アイ・ホールディングス(HD)社長の村田紀敏氏の去就が注目される。次のトップは傘下のセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)が既定路線といわれている。

 セブン&アイHDの最高実力者である会長兼CEO(最高経営責任者)の鈴木敏文氏は、その先のことを考えている可能性もある。鈴木氏は自身の子息で執行役員の鈴木康弘氏を、インターネット上の消費と実店舗を組み合わせるオムニチャネル戦略を推進するCIO(最高情報責任者)に起用し、グループのコーポレートアイデンティティーを担当させている。ブランドや顧客戦略をどうやって構築するかという重要な役割を担うわけだ。そのため、鈴木氏が康弘氏をCIOに起用したのは「後継者にする布石」との観測がある。

 村田氏はオムニチャネルについて「次の世代への挑戦だ。これをやってすぐ大きく成長できるわけではない」と距離を置いている。鈴木氏が世襲に執着すると、内部分裂の芽をはらむことになるだろう。

 鈴木氏は現在82歳。カリスマ経営者と呼ばれているが、年齢には勝てない。
セブン&アイHDの社長交代を機に、5年後を見据えた諸々の人事を断行するのではないか、と大胆に予想する関係者もいる。

 井阪氏がセブン&アイHDの社長になる場合、セブン-イレブンの社長に誰がなるかという問題が出てくる。井阪氏がセブン-イレブンの社長を兼務する可能性もある。イトーヨーカ堂社長の戸井和久氏は昨年交代したばかりだが、同社を含めてセブン&アイHD傘下の複数の企業のトップが一斉に動くことになるかもしれない。もしそうなれば大ニュースである。

●イオン

 イオンは2月1日付で、主要3子会社の社長が交代した。消費増税の影響などで主力のスーパー事業が苦戦しているため、人事の一新で経営にテコ入れする狙いだ。中核子会社のイオンリテール社長にはイオンモール社長の岡崎双一氏が就き、ダイエーの社長には同社取締役の近沢靖英氏が昇格、イオンモールの社長には同社常務の吉田昭夫氏が就任した。イオンリテール社長の梅本和典氏、ダイエー社長の村井正平氏はいずれも代表権のない会長に退いた。岡崎氏は、イオンモールの社長として国内外で大規模な商業施設を次々と開発し、イオンモールをイオングループの稼ぎ頭に育てた実績が買われた。

●鹿島建設

 トップ人事の季節になると、毎年のように交代が取り沙汰されながら実現していないのがスーパーゼネコンの鹿島建設だ。中村満義氏が6月で社長就任から丸10年の節目を迎える。
創業家一族で事務系トップの現副社長、渥美直紀氏と営業担当の専務執行役員、石川洋氏の名前が“ポスト中村”として挙がる。実現すれば現相談役の鹿島昭一氏が社長を退任して以来、25年ぶりに“大政奉還”が実現する。

 鹿島家は女系家族である。鹿島家の婿取りで共通しているのは、いずれも名家で東京大学卒のエリート官僚を迎え入れていることだ。戦後、“中興の祖”と呼ばれる鹿島守之助氏は外交官出身。その娘婿で、6代目社長の渥美健夫氏は通産官僚、7代目社長で日本商工会議所会頭を務めた石川六郎氏は旧国鉄出身の運輸官僚。次期社長候補に挙がる直紀氏は健夫氏、洋氏は六郎氏のそれぞれ長男だ。

 本家と分家の思惑の違いを象徴するような出来事が、2005年の社長人事で起こった。大本命とされたのが直紀氏だった。夫人は中曽根康弘元首相の二女で、鹿島家と政界を結ぶ閨閥づくりといわれた。六郎氏は直紀氏の社長就任を迫ったが、相談役で本家の鹿島昭一氏の反対で大逆転。非同族の中村満義氏が専務から社長に昇格した。


 昭一氏は守之助氏の長男で8代目の社長。この時の本家と分家とのシコリが、いまだに尾を引いていると噂される。昭一氏は、長男の鹿島光一氏を後継者に据えたかったようだが、光一氏は13年、突然取締役を退任してしまった。当時、父親との確執が原因と取り沙汰された。

 現在、トップ人事の決定権者は“鹿島のドン”といわれる昭一氏である。今年、社長になれないと、直紀氏は副社長のまま終わるかもしれない。「次期社長もプロパーを起用する」(鹿島元役員)との見方は根強い。ここにきて、土木管理本部長を兼任する副社長の茅野正恭氏の名前も浮上している。

●大成建設

 長期政権が多いスーパーゼネコンの中で、新世代へのバトンタッチの先陣を切ったのは大成建設だ。取締役常務執行役員の村田誉之氏が4月1日付で社長に昇格する。就任8年目の現社長・山内隆司氏は、代表権のある会長に就く。

 これは、ゼネコンの業界団体である日本建設業連合会(日建連)の次期会長を想定した動きとみられている。
日建連の会長は鹿島建設、大成建設、清水建設の3社の会長による持ち回りで2期4年務めるのが慣例となっている。13年4月、鹿島建設が会長を置いていなかったため、中村氏は現役社長のまま日建連の会長に就いた。今春、中村氏が鹿島建設の会長になれば日建連の会長を続投するのは間違いないが、会長にならず現役社長のままであれば、続投は厳しいだろう。

 順番にいけば、次の日建連会長は大成建設だ。次期日建連会長のポストをにらんで山内氏は会長に就いたと推測されている。しかも、中村氏と山内氏が“犬猿の仲”であるのは有名な話だ。中村氏が任期半ばで、すんなりと日建連会長のポストを山内氏に譲るとは思えない。日建連の会長人事は、中村氏が鹿島建設の会長になるかどうかにかかっているのだ。

●清水建設、大林組

 清水建設社長の宮本洋一氏、大林組社長の白石達氏も、今年6月で就任8年となる。山内氏、宮本氏、白石氏は東京大学工学部建築学科の同じ研究室の出身で、宮本氏と白石氏に至っては同級生だった。鹿島、大成、清水、大林のスーパーゼネコン4社のトップ交代が一斉にあるのか、注目される。

●東京電力

 今年の新年早々、東京電力会長に関して衝撃的なニュースが報じられた。1月6日付産経新聞記事『東電会長、LIXIL社長の藤森氏で調整、政府が打診』は、15年6月に任期が切れる会長の數土文夫氏の後任として、東電の社外取締役で住宅設備機器最大手LIXILグループ社長兼CEOの藤森義明氏に打診していると報じた。同記事は「東電関係者によると、數土氏は体調不良を訴えており、後任の検討に入ったとみられる」と伝えている。

 數土氏は12年6月にJFEホールディングス相談役から東電の社外取締役に就任、14年4月に会長になった。

 宮澤洋一経済産業相は1月6日の閣議後の会見で「政府として後任の調整をしているといった話はございませんし、數土会長も大変お元気でお過ごしであると聞いております」と述べ、報道を全面否定した。藤森氏も同日午後、記者団に「政府からも、數土会長からも打診はない」と語った。加えて、2月上旬のLIXILの14年4~12月期の決算発表の席上、藤森社長は「LIXILの社長を続ける」と明言した。

 一方、數土会長は1月6日、記者団に「(東電再建や福島の復興へ向け)まだやるべきことがある」と述べ、6月以降も会長職を続投することに強い意欲をみせた。体調不良と報じられたことが腹に据えかねたのか、全国紙のインタビューで「体調は万全」と繰り返し発言している。

 これで東電会長の交代説は終息したように見えるが、火種は依然としてくすぶり続けている。數土氏の体調が本当に万全なら、今年6月の東電の株主総会で再任が決まる方向だが、“一言居士”といわれる數土氏を交代させたがっている勢力が政府筋にいるようだ。
(文=編集部)

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