(A)『あなたの未来がわかるって言ったら、どうする?――彼女の秘密を知ったとき、きっと最初から読み返したくなる』
(B)『彼女の秘密を知ったとき、きっと最初から読み返したくなる――「泣ける」読書メーターで大反響!』
書店で目にした本の帯に(A)と(B)の2パターンがあったら、あなたはいったいどちらを手に取るだろうか?
ライトノベル作家・七月隆文氏の一般文芸デビュー作となる『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(宝島社)は、昨年10月に増刷した際、帯を(A)から(B)に変えたところ、売れ行きが10倍に跳ね上がったことで話題を呼んでいる。冒頭の文言は、帯の中の一部分だ。
帯の内容が本の売り上げを左右することを示すようなエピソードだが、一方では特に気にせず、本を買ったらすぐに帯を捨ててしまうという人も少なくないだろう。本の帯とは、そもそもどんな役割を果たしているのか、書籍編集者に聞いた。
●売れていない本が帯を変えたらブレイク、はあり得るのか
「すでにある程度売れているので『今、売れています』とアピールしたいときや、書店の店頭での印象を変えたいときには、帯を作り直すことが多いです。また、著者が賞を獲ったときや、テレビに出演するなど大きなイベントがあるときは、増刷はしなくても帯だけをリニューアルすることもあります」
売れ行きが落ちてきた本の場合、「帯を作り変えるので、また売り場で大きく展開してほしい」と書店に交渉することもあるという。では、冒頭の例のように「帯を変えたら、メガヒットに!」というのは、よくあることなのだろうか?
「著名人の推薦文入りの帯にしたら売れ始めた、というケースはあります。ただ、それももともとある程度売れていた場合が多く、売れていなかった本が単純に帯を変えただけで大幅な売り上げ増につながるということはほぼないでしょう。そこそこ売れていた本の帯を変え、さらに大きな販売促進を仕掛けるなど、さまざまな要因が重なってやっと売り上げが上がるのが現実です」(同)
ちなみに、デザインや文言など、帯の内容を考えるのは、基本的に著者ではなく編集者の仕事だ。また、流通しているほとんどすべての本に帯がついているのは実は日本くらいで、帯のない欧米の本ではカバー自体に推薦文や宣伝文が入っているという。
前出の書籍編集者は「コストの関係から、増刷のたびに帯の内容を見返して作り直す、ということはしていない」と語る。帯はあまりコストをかけられない宣伝ツールのため、本のカバーより使う色数を減らしたり、紙の質を落としたりするなど、地道なコスト削減が行われている。
今は世に出る本のほとんどが初版止まりで、増刷は少ない。2刷目で帯を変えた『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』も、もともと増刷するだけの人気があり、かつ帯も含めた販促でブレイクした、というのが実態だろう。
また、帯につきものの著名人の推薦文については、出版社によって方針が異なるという。
「弊社では、帯に推薦文をあまり入れていません。推薦文を書いてもらうだけで謝礼が発生するのが慣例なので、編集者としてはやはり名の通った影響力の強い人物にお願いしたいというのが心情です。しかし、そういう人は多忙なため、断られるケースも多いです。あるいは、本の内容に共感できないためNGということもあるかもしれません」(同)
一方、著者としては自著の帯に推薦文を入れて、少しでもPRにつなげたいものだ。そのため、著者自ら推薦文を書いてくれる人物を探したり、知り合いの著名人に依頼するというケースも増えている。現在は出版不況といわれるものの、年間の新刊出版点数は増加しており、無名の著者が本を出す機会も増えている。著名人の威光にあやかりたい著者と、さらっと感想を書くだけでウン万円もらえる著名人をつなぐ「帯ビジネス」が存在しているのだ。
●本の「帯買い」は存在する
本の販売現場で働く書店員にも話を聞いたところ、CDの「ジャケ買い」ならぬ本の「帯買い」が存在すると語る。
「映画化やドラマ化で帯が変更され、主演俳優の顔写真が大きく載るケースがあります。それがジャニーズ系の役者だったりすると、普段は本を読まなそうな女性が買っていくことは確かです。
書店にとっては、来店した客を「素通りさせない」ことが販売への第一歩となる。そのため、端的なキャッチコピーや著名人の感想など、読者目線の言葉が入っている帯は、本と読者との距離を縮め、書店で客の足を止める効果があるという。ただし、売り上げ増を帯だけに任せておくわけにもいかないので、書店としては「帯プラスアルファ」の努力をしているという。
「出版社がつくった帯を見て『制作者側の感覚で作られているな』と思ったときは、書店側で作ったPOPに読者目線の情報を入れるなど、お客さんがより手に取りやすくなる環境作りをしています。もちろん、そうした施策は書店としても『力を入れて売りたい』と思う本に関して行うので、すべての本にやるわけではありません」(前出の書店員)
文庫本の場合は、棚に入れる際に少しでも多く本が入るように、帯を外すこともあるという。60~70冊入る棚の場合、帯を外すと2~3冊は多く入るからだ。
普段、何気なく目にしている本の帯には、著者、編集者、書店員、推薦人などのさまざまな思惑がからんでいる。今度、本を買うときには、その小さな帯にも着目してみてはいかがだろうか?
(文=石徹白未亜/ライター)