●カシオ計算機
カシオ計算機は、創業者の「樫尾4兄弟」の三男、樫尾和雄社長(86)の長男・和宏取締役専務執行役員(49)が新社長に就く。6月26日に行われる定時株主総会後の取締役会で正式決定する。
和雄氏は1957年、4兄弟の長男・忠雄氏らと共にカシオを創業。シリーズ累計1000万台を売り上げた電卓「カシオミニ」のヒットに貢献した。競争が激しい携帯電話事業から撤退し、近年はデジタルカメラ、デジタル腕時計、電子辞書など事業を多角化してきた。
新社長に就任する和宏氏は慶應義塾大学理工学部卒業後の91年4月にカシオへ入社し、米国販売会社に赴任、新規事業の立ち上げに汗を流した。経営戦略担当、DI事業部長などを経て、14年5月に取締役専務執行役員コンシューマ・システム事業本部長に就いていた。
カシオは08年3月期に売上高6230億円を上げていたが、携帯電話事業の失敗で業績はジリ貧に陥り、一時3000億円を割り込むまでに落ち込んだ。事業多角化で再建に取り組み、15年3月期の連結売上高は前期比5.2%増の3383億円、営業利益は38.3%増の367億円と2期連続の増収増益となった。
和宏氏の経営課題は、新3カ年計画の最終年度である18年3月期の売上高を15年期比1.5倍の5000億円、営業利益を2倍の750億円にすることだ。和雄氏は「新社長と二人三脚で全力を尽くす。1年間でメドをつけ、新社長の体制に完全移行させ、その後の経営は新社長に任せる」と述べた。
●久光製薬
貼り薬「サロンパス」でおなじみの久光製薬は、中冨博隆前社長(78)の長男、一栄前副社長(42)が5月21日付で新社長に就任。実に34年ぶりの社長交代だ。博隆氏が社長就任当時に大卒で入社した社員が、そろそろ定年を迎えるという異例の長さだ。
博隆氏は代表権のある会長に就いた。一栄氏は帝京大学経済学部卒。創業家の4代目だ。15年2月期の連結売上高は前期比4.1%増の1567億円、営業利益は7.3%増の205億円と増収増益だった。経営体制の若返りを図り、後発薬の利用促進や薬価の改定など製薬業界をめぐる環境変化に、新体制で対応する。ドル箱である湿布など「貼る治療薬」の海外展開の加速が一栄氏の経営課題だ。
久光中興の祖は、4代目社長の中冨正義氏。11年11月、106歳で亡くなった。
●引き際がわからなくなる
大企業は役員定年制を取り入れている企業が多く、社長70歳定年が普通だ。とはいっても、老いてはますます盛んな高齢経営者は多い。現役として活躍している70代後半から80代の有名企業の経営者は以下の通り。
【有名企業の高齢経営者】
※以下、企業名:役職、氏名、年齢
・サンリオ:社長、辻信太郎、87歳
・カシオ計算機:社長、樫尾和雄、86歳
・スズキ:会長兼社長、鈴木修、85歳
・ウシオ電機:会長、牛尾治朗、84歳
・セブン&アイホールディングス:会長、鈴木敏文、82歳
・キヤノン:会長兼社長、御手洗冨士夫、79歳
・フジ・メディア・ホールディングス:会長、日枝久、77歳
非創業者、非オーナーにもかかわらず長期政権記録を更新し続けたのが、オリックスの宮内義彦氏(79)である。1980年12月、45歳の若さで社長に就任して以来、14年6月に会長兼グループCEOを退くまで33年間トップの座にあった。オリックス創立50周年を節目に宮内氏は取締役から退き、経営の第一線から外れたが、新しく設けた役職「シニア・チェアマン」に就き、経営陣への助言を行う。プロ野球球団のオリックス・バファローズのオーナーは続ける。完全に引退したわけではない。
宮内氏は「会社のことを世界観で語ってきた経営者が、70歳過ぎると、自分中心の言動を取るようになる。こんな人を何人も見てきた」と再三語っていた。周囲が見えなくなり、自己中心的な行動を取る。自分もそうなるかもしれないと恐れた宮内氏は、70歳までに後継者に交代する考えでいた。
キヤノンの中興の祖といわれた賀来龍三郎氏は、御手洗冨士夫氏に社長を譲って退いた時、引退を決断した理由をこう語っている。
「(年を取ると)最後に残る楽しみが会社だけになってしまう。(私も年を取った)今では御手洗(毅=創業メンバー)前会長が身を引くことができなかった理由がよく分かる。世間一般の企業でも年寄りが辞めない理由がよく分かる。私も、もうあと数年たてば自分では引退の決断をできなくなっただろう」(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/1997年3月15日号>より)
賀来氏の後継者だった御手洗氏は「社長は10年」が持論だったが、自ら引退を決断するタイミングを逸した。
経営者が自分で引退を決断するというのは、思いのほか難しいようだ。
(文=編集部)