「需要と供給のバランス」は、時に奇妙な景色を描き出します。どんなに良いものでも供給過剰、つまり「余って」しまえば売れませんし、それほど価値はなくても「珍しい」というだけでプレミアムがついている製品やサービス、そして人間はどこにでも存在します。
その点で見れば、現在の日本では「BtoB(Business to Business)マーケター」は希少な存在かもしれません。
広告関係の人まで含めて数えれば、日本にも数万人のマーケティング関係者は存在します。しかし、その大半はBtoC(Business to Consumer)、つまり、化粧品、アパレル、住宅、観光などの一般消費者向けマーケティングに従事しています。法人営業とも呼ばれるBtoBマーケティングに従事している人間は、ほんのひと握りでしょう。
私が代表を務めるシンフォニーマーケティングは1990年に、北関東で創業しました。地方都市で元気なのは、今も昔も建設業か製造業です。北関東は特に自動車関連の製造業が数多くありました。金型、試作プレス機、クラッチ、工作機械、建設資材……。こうした企業のブランディングや新市場開拓、新製品開発などさまざまなマーケティングプロジェクトを手掛けるうちに、気が付くと日本で最初のBtoBマーケティング専門プロ集団になっていました。今でもクライアント企業の60%が製造業です。
BtoCとBtoBの大きな違いは、「購買の意思決定プロセス」にあります。
それに対してBtoBには購買のプロセスが存在し、特に日本では「稟議」というシステムが企業内に深く根を張っています。稟議書の理由欄に「欲しくなったから」とは書けないので、
「なぜそれが必要なのか?」
「それが社内のどの問題を、どの程度解決するのか?」
「経済合理性はあるのか?」
「なぜ今なのか?」
「なぜそれなのか?」
「ほかに選択肢はないのか?」
「なぜその会社から購入するのか?」
「コストは妥当なのか?」
「メンテナンスはどうするのか?」
といった項目をすべてロジカルにクリアしなければ、稟議書にハンコが並ぶことはありません。
●世の中はロジカルではない事象であふれている
こうした環境で25年もビジネスをしていると、自然にロジカルな思考回路が研ぎ澄まされます。そこでこの連載では、そのBtoBマーケターの目から今の世の中はどう見えているかを解説してみようかと思います。案外それが世間に馴染みの薄い「BtoBマーケティング」を理解してもらう早道かもしれないと私は考えています。
当然ですが、今の日本はロジカルとはいえない事象であふれています。その多くは、ロジカルでなくても構わないものです。例えば私は、テレビで笑顔をふりまくアイドルの名前はほとんどわかりませんし、その人がなぜ人気があるのかもわかりません。また、最近の男性用スーツはなぜ細身であんなに窮屈そうなのかもさっぱりわかりません。でもそうしたアイドルのトレンドやファッションはロジカルである必要はないし、それが当たり前なのです。
一方、ロジカルでなければならないこともあります。本来そこはロジカルに語るべきだということが、ファッションや音楽のようにエモーショナルに語られています。人口問題、ロボットと人間との共生、ベンチャー育成の風土、企業の組織論、地方都市の中心商店街の衰退など、こうした事象はロジカルに語られなければ解決の糸口が見出せないものです。
本連載では、それをBtoBマーケターの視座から観える「景色」として、解説していこうと思っています。
(文=庭山一郎/シンフォニーマーケティング株式会社代表取締役)