3月期本決算企業の集中開催に合わせて、久しぶりにいくつかの株主総会を訪問してみた。総会屋グループが陣取ってにらみを利かせていた1980年代のそれを知る者として、現在の総会がどのように変化したのか、興味を抱いたからだ。



 もっとも、ただ出席するだけでは芸がない。経営陣との質疑応答の際に、必ずなんらかの質問をすることにした。入場券にあたる議決権行使書は縁者、知己の協力もあって相当な数が集まり、取捨選択に悩んだものの、東芝、ソニー、東京電力など、不祥事や業績不振によって注目を集めている企業はあえて除外した。

 わざわざ出向かなくても、それらの企業の動向はマスコミが伝えてくれるからだ。

●商船三井(6月23日10時/品川インターシティホール)

 トップバッターに選んだのは、10年ほど前に出席したことのある商船三井だ。日本郵船と並ぶ海運の代表的企業である。会場は、品川駅前のインテリジェントビル群の中にあるホールだ。

 通勤ラッシュ時とあって駅構内や駅前はごった返し、想定より時間がかかり、開会10分前に到着した。手渡された株主番号は700番台で、会場前方はすでに満席状態だ。

 やむなく、会場の中央あたりに着席する。事業報告と決議事項の説明が30分ほどで終わり、質疑応答に移った。最初の質問は、会社側に原油や為替相場の見通しを尋ねるもので、次いで経営戦略の提案だ。
議長(武藤光一社長)以下、経営陣が並ぶ壇上からは距離があったため、勢いよく挙手すると、無事指名された。

 質問は「中国のバブル崩壊が懸念されている。決算短信のセグメント情報ではアジア市場に含まれている中国市場での総売上高に占める割合はどのくらいか」というものだ。

 担当取締役から「直接、間接的な取引を含めて(中国市場の売上高は)2割程度」との回答があった。以降、社外取締役の勤務状況、2014年春に起きた中国当局による船舶差し押さえの処理などについて、合計9名が質問した。10余年前には、いかにもそれ風の株主が総会を仕切る発言をしていた記憶があるが、至って平穏に1時間36分で閉会した。

●新日鐵住金(6月24日10時/ホテルニューオータニ)

 四ツ谷駅から会場に向かう道すがら、新日鐵住金の経営体質を批判するグループがビラを配布していた。かつては大手企業の株主総会の会場近辺でよく見られた風景であり、懐かしさを覚えると共に「少しは荒れるかな」と期待しつつ入場する。

 開会30分前だったが、さすがに51万人以上の株主を抱える巨大企業で、株主番号は2000番台だった。会場の最前列に空席を見つけて素早く着席する。

 質疑応答では、まず会場外のビラ配布グループへの批判が一番手で、次に名古屋製鉄所での事故に対する批判があった。この株主は、長々と発言をして議長(進藤孝生社長)からたしなめられる。
次いで挙手すると、好位置もあって、すんなりと指名を受けた。

 内容は、商船三井と同様に連結売上高の中国市場の割合だ。担当取締役から連結売上高の数%程度との回答と、その内訳について説明があった。どうやら、同社の対中依存度は低いようだ。

 それ以降は社外取締役の適性、業績見通しの開示要求と続いた後、冒頭のビラ配布への批判に対する応酬というべきか、元従業員という株主から企業批判があった。これも長い発言で、会場から「会社のことは会社内でやれ」とヤジが飛んだ。

 ただ、質問者も批判する側も今ひとつ迫力が感じられないせいか、緊迫した雰囲気にはならない。ここまでで2時間近くが経過して所用の時間が迫ってきたために、受付でお土産のリーフパイをいただいて中座した。

●東武鉄道(6月26日10時/東武ホテルレバント東京)

 こちらも10余年前の総会では、系列の労働組合が横断幕を広げるなど騒然としていたが、最寄りの錦糸町駅から会場のホテルまでの道のりは至って静かだった。

 ホテルの4階の会場まで、担当社員の笑顔に迎えられる。総会は順調に進み、質疑応答へ。ほかの2つの総会と比べて挙手する人が多く、5人の株主が次々にマイクの前に立ったが、出席したことを次第に後悔し始めた。


 内容が運行トラブルの対応への批判、某駅への急行停車の希望、乗客のマナーや乗務員のアナウンスへの苦情などで、鉄道会社と沿線住民の対話集会のようなのだ。

 気後れしながらも挙手を続け、筆者は6番目に指名された。「関係の深い武蔵学園(東武鉄道初代社長の根津嘉一郎が創立)の活用、とりわけ十分に実力がありながら認知度が今ひとつの武蔵大学のバックアップをしてはどうか」と提案した。

 この質問には、議長(根津嘉澄社長)自ら「学校法人は独立採算性なので、企業グループとしての支援は難しい」と回答があった。筆者の準備不足もあり、愚問だったようだ。

 それ以降も、過去の都営地下鉄との相互乗り入れ計画の進捗状況、系列バス事業の充実など、沿線株主の質問が相次いだが、正午を過ぎた頃、午後の所用のために中座した。すでに、会場の後方では空席が目立った。

●洗練された一方、質疑応答は低調に

 以上、各業種を代表する3つの企業の株主総会を巡り、発言した結果だ。

 全体の印象としては、よくいえば洗練された、悪くいえば形骸化した、と表すことができるだろう。総会屋が仕切っていた時代とは異なり、会場の前方で挙手すれば、誰でも発言できるようになったことは好ましい。

 しかし、一方で独特の緊迫感は薄らぎ、質疑の内容も低調になっているように思えた。

 ただ、感心したのはいずれの企業も、ひな壇に並ぶ経営陣が終始生真面目な表情を堅持していたことだ。
ある総会では、緊張と興奮のためか、発言の最中に入れ歯が外れてしまったらしい(途中から著しく言語不明瞭になった)シニア株主がいて、思わず笑ってしまったのだが、議長をはじめ壇上の面々は口元ひとつ緩めなかった。

 これも、ささいなきっかけで荒れた時代の総会を経験した世代ゆえだろう。
(文=島野清志/評論家)

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