7月中旬に発売される『日経キャリアマガジン 社会人の大学院ランキング2016』(日本経済新聞出版社)の中で、私は「有識者が推薦する国内MBA」というコーナーでインタビューを受けた。

「国内MBA(経営学修士)を選ぶなら、入試がしっかりしていて修士論文がある大学院をおすすめします」と答え、具体的な例として法政大学大学院や中央大学ビジネススクールなどを推薦した。

前者は自分の出身校(博士課程だが)で、ベンチャー論に定評があり、後者は経営戦略論に優れた先生方がいるからだ。

 インタビューでは、ほかに「社会人のための経営大学院は、『経営者になりたい人』が行くところで、『すでに経営者になった人』や幹部が勉強するところがない」という点を指摘した。同誌の企画趣旨からは多少ずれるので、掲載されないことは了承した。

 私はこれまで数校で招かれ特別講義などを行ってきたので、社会人の経営大学院についてはよく理解している。参加者の平均年齢は30歳前後で、役職的には課長になる前あたりが多い。たまに社長などもいるが、世代間のギャップより若手参加者との階層ギャップに戸惑っている。経営者の悩みや興味というのは、若手のそれとは違うということだ。

 向学心に燃える経営者の方が、2年間も平日夜と土曜日に通学して修士論文まで書いている姿を見ると、頭が下がると同時に少し違和感を覚える。

 また、学会で名刺交換をすると、名刺に「経営学博士」と書き込まれている方とごあいさつすることがある。それが大企業の現役の場合、不思議と閑職のような肩書が多い。学問に執着していると、かえってキャリア形成を阻害してしまうのだろうか。

 若手の経営者、特に2代目経営者を対象に絞り上げてきたのが、りそな総合研究所の研修プログラム「りそなマネジメントスクール」だ。
基本的に毎月1回開催され、年間11講で修了する同スクールは、現在28期目が進行しているので、30年近く続いていることになる。私も、同スクールで経営戦略の立案演習を何度か教えた。

 授業料は110万円だが、りそな総研の会員企業は88万円だ。東京、大阪で各50名の募集だが、いつも満員になるため、参加するにはりそな銀行の取引先が有利だ。

 実は、私自身も経営者や幹部を対象に半年間で7講のプログラム「経営者ブートキャンプ」を主宰している。こちらの授業料は38万円ほどだが、詳細はホームページで確認していただきたい。

●究極のプログラム「東大EMP」

 日本で社会人が学べるプログラムの中で、突出しているのが「東京大学 エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大EMP)」だ。

 東大EMP事務局によると、「40代というキャリアの折り返し点で、強靱かつ新たな思考能力を身につける」ことを目的としており、「MBAを超えた能力の醸成を目指している」(同)そうだ。

 東大EMPは4月と10月に開講され、半年間の毎週金曜日と土曜日の全日に授業がある。授業料は約600万円で、現在は第13期が開催されている。場所は、東京大学本郷キャンパスの赤門を入ってすぐの伊藤国際学術研究センターという素晴らしい施設だ。

 同センターは、イトーヨーカ堂グループの創始者である伊藤雅俊氏夫妻によって寄贈されたものだ。
また、元マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社長だった横山禎徳氏が、同プログラムの企画・推進責任者を務めている。

 東大EMPの授業は1コマ105分で、原則としてすべて異なるテーマが展開される。スピーカーは、現役の東大教授が圧倒的に多い。クラスの構成は「宗教」「国際・外交」「医療・健康科学」「生命科学」「脳科学」「IT」「メディア論」「物質科学」「宇宙・素粒子論」「建築」など、社会科学から自然科学まで幅広い。

「マネジメント知識」に分類されるコマもあるが、数が少ない上、興味深いことにおおむね人気がない。知識人は、自分の知らないことを知りたがるということだろう。

 上記のような分野を、現役の一流学者が講義する。そして、それぞれのクラスでは課題図書が用意される。当然、そのスピーカーが著した専門書だ。参加者は、このような授業を半年間で約150コマこなすそうだ。つまり、150冊の専門書を読むことになる。

 毎期の定員は25名で選考があり、いつも満員になるという。
参加者の構成は「大企業の中堅10名、ベンチャー・中小企業のトップ5名、中央・地方官僚5名、プロフェッショナル5名」が典型だという。みなさん、自費で参加されているのだろうか。

 私はこの説明を聞いて本当に驚き、興味を持つと共に「学びの快楽、ここに極まれり」と思った。こんなプログラムは、世界中を見渡してもほかにないだろう。

 だが、問題は「では、修了すると何が得られるのか」ということだろう。東大EMPを修了しても、MBAなどの学位や資格は与えられず、ただ修了証がもらえるだけだ。そして、驚いたことに“評価もつかない”という。つまり、通信簿がないということだ。

「評価は口頭でも文書でも行わない」とのことで、東大EMPが参加者に期待しているのは「Agenda-Shaping Leadership(課題設定・形成能力)の醸成」だそうだ。

 私は、「12期を終えて、卒業生が約300名出たわけですね。『東大EMPムーブメント』としては、何が起きたのですか?」と質問した。例えば、松下政経塾は多数の政治家を輩出しており、日本の政治シーンで大きな存在感を持つに至っている。
東大EMPの回答は、「まだはっきり説明できる段階にはなっていない」というものだった。

 今後、東大EMPの卒業生が幅広く活躍する状況を、ぜひ目の当たりにしたい。

 次稿では、楽天とヤマト運輸の提携について疑問を述べる。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)

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