猛暑続きで、つい熱中症に気を取られがちだが、カンピロバクターなどによる細菌性食中毒にも注意が必要だ。細菌性食中毒は昨年、バーベキュー(BBQ)シーズンの7~9月の3カ月間に、年間食中毒患者の4割も発生している。
そこで今回は、BBQでの食中毒の賢い回避法を検討したい。
●食中毒リスクの高い人が4~6割も
7月末、消費者庁はBBQに関する消費者意識調査の結果【編注2】を発表した。それによれば、食中毒になるリスクの高い人が、質問項目によっては4~6割もいるという。
まず、「BBQで気を付けているのは何か」との問いに対し、「調理直前まで食材を保冷剤やクーラーボックスで冷やしておく」と答えたのは、53.9%にとどまった。これが、なぜ問題なのか。
細菌は10~30分に1回程度、細胞が2つに分裂しながら増殖する。ただし、増殖には適度な温度と水分、栄養分の3つの要素が必要だ。なかでも問題なのは温度で、細菌は摂氏10~60度で増殖するが、特に25度以上で盛んになり、30~40度では急速に増殖する。そのため、肉などの食材はできるだけクーラーボックスで冷やし、10度以下に保つことが必要だ【編注3】。
●少量の細菌で食中毒が起こる
また「肉などを焼くときに使うトング(物をはさむ道具)・箸と、食べるときの箸を分ける」と答えた人は、55.7%だった。
生肉を扱うときと、焼き上がった肉を取り分ける・食べるときとでは、使うトングや箸を使い分けることが重要だ。使い分けをしないと、トングや箸を介して生肉から焼けた肉などに細菌が移る危険性がある。サラダなどの生野菜を取り分けるときにも、生肉を扱ったトングを使わないようにしたい。
それというのも、かつて食中毒は大量に増殖した細菌(腸炎ビブリオ1万個以上、ブドウ球菌10万個以上)の摂取で起こると考えられていたが、近年は、わずか10~100個程度でも食中毒を起こす少量感染微生物を原因とするケースが増えている。
昨年7~9月の場合、腸管出血性大腸菌(10~100個)【編注4】とカンピロバクター(100個以上)、サルモネラ(100~1万個)の3つの細菌が原因の食中毒は、全体の67.5%を占めた。つまり、少しの細菌でも食中毒を起こす危険性が高まっているのだ。
●肉中心部が桃色から白色へ変われば安全
また、「肉(ハンバーグや結着肉を含む)が中心までよく焼けているか、食べる前に肉や肉汁の色を確認する」と答えた人の割合は、40.2%にすぎない。
BBQなどで肉を強い火で焼くと、表面は食べ頃に見えても、肉の中心はまだ生ということも多い。そのような状態で肉を食べるのは非常に危険だ。
昨年の食中毒原因菌最多のカンピロバクターは、家畜やペットなどに広く分布し、牛の保菌率は数~40%、鶏は50~80%と非常に高い【編注5】。2番目に多いサルモネラの場合、市販されている挽肉の調査【編注6】によれば、サルモネラが検出された比率(陽性率)は牛挽肉1.5%、豚挽肉2.8%で、特に鶏挽肉は51.9%と極めて高い。いずれにしても、肉はなんらかの細菌に汚染されていると考えて、しっかりと焼くべきだ。
カンピロバクターは60度で1分程度加熱すると、ほぼ死滅するという。調理実験では、肉の中心部が65度になれば、ほぼ死滅していた。しかし、BBQの場で、いちいち温度計で図るのもわずらわしいし、興ざめだ。
「焼き鳥、肉団子、鶏の唐揚げなど、焼く、煮る、揚げるなどの調理をする場合、肉の中心部の色が桃色(生の肉の色)から、白く変わるまで加熱すればよい」【編注7】。
肉の中心が白くなっていれば、すでに中心温度が60度以上になっていると推測できる。
なお、特に肉や脂をつなぎ合わせた結着肉などの合成肉やハンバーグ、あるいはタレなどに漬け込んだ肉などは、細菌が中心まで入り込んでいる危険性があるため、特に注意が必要だ。
●「おにぎり」は素手で握るべからず
さらに、「BBQで食べたことがあるものは?」との問いに対する回答は、「切り身(一口大)の肉(牛、豚、鶏など)」が89.5%でトップ、「生野菜(包み菜、サラダ、浅漬けなどを含む)、生フルーツ」が79.8%で第2位、「タレなどに漬け込んだ肉」が56.5%で第3位、「おにぎり」が49.4%で第4位、「ステーキやローストビーフ(チキン)、ラムチョップなどの塊肉」が39.5%で第5位だ。
特にここで問題にしたいのは、半ばBBQの定番メニュー化した「おにぎり」である。おにぎりは、昨年7~9月の食中毒原因菌の中で4番目に多かった黄色ブドウ球菌に関係する。
カンピロバクターなど、他の食中毒原因菌が肉などの食物に由来するのに対し、黄色ブドウ球菌は自分を含めた人間由来という変わり者だ。
黄色ブドウ球菌は化膿した傷口や、おでき、ニキビ、口、鼻などに生息しており、食中毒は手指からの汚染の可能性が高い。そのため、特に手に傷があるときなどに素手でおにぎりを握ると、菌が付着しやすい。
しかも、黄色ブドウ球菌の場合、カンピロバクターなどのように増殖した細菌で食中毒を起こすのではなく、細菌がつくり出す耐熱性の毒素によって食中毒を起こす。問題なのは、毒素が加熱しても無毒化されない点だ。
そのため、「おにぎりは素手で握らず、ラップやビニール袋で握る」【編注8】のが正解ということになる。なお、たとえ焼きおにぎりにしても毒素は無毒化されないので注意が必要だ。
●“にわかBBQ奉行”には任せない
アンケートでは、「自宅であまり調理をしないが、BBQでは調理を担当」と答えた人が24.2%もいた。これは鍋奉行ならぬ“にわかBBQ奉行”が結構いることを示す。
そのためか「自分や家族、あるいは参加者全員などを食中毒にしてしまうかもしれないと思ったことがある」と答えた人は16.3%に上り、さらに「BBQで食べた物が原因で体調を悪くしたことがある」と答えた人は6.6%(うち2度以上が1.7%)いた。
調査概要には、こんなコメントが付けられている。
「普段調理をしない人は、普段調理をしている人と比較して、衛生的に気を付けることが少ない傾向も見受けられます」
家族などを食中毒の危機にさらす“にわかBBQ奉行”の汚名をそそぐためには、普段からキッチンに立つことが重要だといえよう。
(文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト)
【編注1】『平成26年食中毒統計調査』総務省統計局「統計表一覧」
【編注2】消費者庁ニュースリリース「バーベキューにおける食品衛生に関する消費者意識の実態調査」2015年7月14~17日実施。対象はBBQ経験のある全国の16~65歳男女、インターネットモニター・有効回答数2000人
【編注3】『第2章 基礎的な管理(管理の基盤)』食品産業センター「HACCP基盤強化のための衛生・品質管理実践マニュアル」2014年3月、内閣府食品安全委員会「食中毒予防のポイント」、『食中毒を起こす微生物』東京都福祉保健局「食品衛生の窓」など
【編注4】東京都福祉保健局「食中毒の予防について」2015年6月26日
【編注5】『知って安心~トピックス~』東京都福祉保健局「食品衛生の窓」
【編注6】『市販されている挽肉の食中毒菌汚染実態調査結果』2010年度~2014年度、厚生労働省医薬食品局食品安全部「正しい知識で食中毒対策を!」
【編注7】『カンピロバクターのより詳しい説明(Q&A)』東京都福祉保健局「食品衛生の窓」
【編注8】【編注2】と同じ