全国高校野球選手権大会、夏の甲子園は8月20日、「優勝候補筆頭」という前評判通りの強さを発揮して東海大学付属相模高等学校が優勝して幕を閉じた。神奈川代表と宮城代表という組み合わせの決勝戦の平均視聴率は、関東地区で20.2%、仙台地区では34.8%という高い数字を記録した。
大会100周年という記念であることも手伝って、大きな注目を集めた。また、早稲田大学系属早稲田実業高校のスーパールーキー・清宮幸太郎選手など、注目度の高い選手も多く現れたことで、特に高校野球ファンでない人も今年は甲子園の試合中継を何度も見たという声をよく聞く。
そのように華やかな甲子園の舞台に出場できた49校の裏には、当然ながら夢がかなわなかった多くの高校球児がいる。5月末時点で、高校野球連盟(高野連)に加盟している高校は4021校あり、3972校が涙をのんだといえる。
しかし、その涙をのんだ高校球児のうち、すべてが戦って敗れたわけではない。愛媛・新居浜東高等学校、宮城・東陵高等学校など、野球部員の不祥事が原因で対外試合禁止の処分を受け、そもそも予選に出ることすらできなかった高校がある。
野球以外の競技では、不祥事が起きたとしても対外試合や大会出場を禁止されることはほとんどない。社会的に大きな問題が起きた場合に、学校側判断で自主的に出場を辞退することはあるが、高校スポーツを統括する全国高校体育連盟(高体連)などが処分を下すことは基本的にない。例えば、サッカーで試合中に審判に暴力を振るったり暴言を吐いた場合など、限られた場面において、日本サッカー協会の懲罰規定が適用されることはあるが、競技場外の出来事に関しては各高校の判断に任されている。
●強大な権力を持つ高野連
では、なぜ高校野球だけは高校で独自判断ができないのだろうか。
その背景には、高野連の強大な権力がある。多くの高校スポーツが高体連の管轄下にあるのに対し、高野連は高体連への加盟依頼を拒否し続け、独立した運営をしている。
高野連は高体連よりも歴史が古く、金銭面でも大きな力を持っていることが権力の素地となっている。そのため、高野連は高校野球を商業利用しているとの指摘も多い。既得権益を維持するために加盟校に対して強権を振るっているのではないかというのだ。
例えば、全国高等学校総合体育大会(高校総体)などの会場では入場料はかからないが、高校野球では地方大会でも大人で500~700円程度の入場料がかかる。甲子園においては、外野席(アルプススタンド)で600円、内野席は1500~2000円もかかる。
入場料を中心に、高野連の経常収益は春夏の甲子園での事業収入を中心に毎年6億円超となっている。今年のように大盛況だった場合は、7億円に届く可能性もある。2014年度末時点での正味財産(純資産)は14億円を超えている。一時期よりは減っているものの、大きな資産を持った法人であるといえる。
高野連の運用を実質的に掌握しているといわれる4名の最高顧問は、参議院議員の松前達郎氏、朝日新聞社長の渡辺雅隆氏、毎日新聞社長の朝比奈豊氏、元日本高等学校野球連盟会長の脇村春夫氏だ。つまり、春夏の甲子園を主催する朝日新聞社や毎日新聞社の意向が強く働いているといえる。
●不祥事の際の処分は各校に任せるべき?
不祥事が起きた場合、厳密には高野連に処分権限はないが、高野連が処分内容を決めて日本学生野球協会へ上申している。同協会が最終決定をしているとはいえ、高野連の上申内容に沿った決定を下すことがほとんどで、実態としては高野連が処分しているのと同じだ。
高野連が処分することについては、関係者から多くの批判意見が挙がっているが、高野連の元理事は高野連が一律の基準で判断することのメリットをこう語る。
「学校に判断を任せると判断がばらつく。例えば、4番でエースの子に甘くなったりする可能性がある。そうなると、グラウンドではフェアプレー精神を説いているのに、それを歪めることになる。高野連は多くの前例を基に判断している。保護者のクレームから学校を守る意味でも高野連が判断するべき」
一方で、ある高校の関係者は「高野連の厳しい姿勢が高校球界を浄化してきたのは間違いないが、学校内でも処分を受けて高野連からも処罰されるのは、高校生にとって重すぎるのではないか」と疑問を投げかける。
また、一定のガイドラインを設け、そのガイドラインに従って各校で処分し、社会的影響が大きいと判断される問題については高野連の判断を仰ぐという流れを提唱する意見も支持を集めている。
現在、高野連加盟校で不祥事が起きた際の審議の流れとしては、学校はまず都道府県高野連へ報告し、同連盟が調査。続いて高野連の審議委員会へ報告し、同委員会で審議の後に日本学生野球協会審査室へ上申する。
対外試合禁止の処分は減る傾向にあるが、依然として「連帯責任」を求めるという高校野球の独自文化は根強い。高校球児に「清さ」を求める風潮がそうした文化を築いてきたわけだが、若者が一生懸命努力してきた結果を大人の事情で摘み取ってしまうようなことはあってはならない。
(文=平沼健/ジャーナリスト)
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