突然だが、「セフレ」「ソフレ」をご存じだろうか。セフレは「セックスフレンド」、ソフレは「添い寝フレンド」の略だ。
まずセフレと聞くと、「どうせ異性関係にだらしない男女が、遊びで体の関係を持つことでしょ」と考える人も多いだろう。
ところが、女性誌「an・an」(マガジンハウス)の2011年の調査では、セックスするパートナーがいる女性(主に20~30代前半)のうち、「相手は彼氏(夫)以外(=セフレがいる)」と答えた女性が、14%と7人に1人もいた。
また今回、筆者が代表を務めるインフィニティと出版社のディスカヴァー・トゥエンティワン、およびマーケティング会社のクロス・マーケティングが20代・600人に行なった定量調査では、「(一夜限りも含め)交際相手以外の異性とセックス経験アリ」の独身男女が、男性で40%、女性ではなんと43%もいたのだ。
ではなぜ彼ら、特に20代女性は「セフレ」を欲するのか。
●セフレやソフレは恋愛よりラク?
本書を執筆するにあたって20代の独身女性にインタビューしたところ、次のような意外な声が次々と飛び出した。
・「突然、『あ、今日ちょっとエッチしたいかな』と思うと、彼を家に呼ぶ。家が近くてすぐ来てくれるし、ただの友達だから、言いたいことをなんでも言えてラクなんです」(21歳・女性)
・「(体の)相性も良かったけど、それよりお互い気心知れているから格好つける必要がない。彼氏じゃ、とてもそうはいかないでしょ」(27歳・女性)
・「ちょっと際どい体位とかプレイとか、お互いにふざけ半分でアイディア出し合ったりして楽しかった。初めて『セックスっていいな』と思えた」(27歳・女性)
取材時の印象では、20代女性の「3人に1人」ぐらいはセフレがいるニュアンスだった。
他方、20代男性がソフレを欲する感情には、女性とはまた違った、男性ならではの複雑な心境があるようだ。
・「彼女と寝るとなれば気を遣うけれど、ソフレとならイビキも寝言も、なんでもアリ」(23歳・男性)
・「ソフレには愚痴も弱音も吐けるし、横になって一緒に寝れば癒される。でも今の彼女は3つ年下で、なんでもこっちを頼るし何かとお金もかかる。
後者の「何かとお金もかかる」は、象徴的だろう。そもそも彼ら20代は、物心ついたときから「男女平等」教育を受けてきた。男性とすれば、ホンネでは「デートでも、割り勘が当然」と思いたいところだ。
ところが、現実にはなかなかそこまで割り切れない。たとえば、先日発表されたリクルート「ゼクシィ縁結び(ホンネスト編集部)」の、割り勘に関する意識調査(15年)。この調査で、独身男女に「初デートの食事は、割り勘にするか」と聞いたところ、女性で割り勘派は6割弱もいるのに、男性ではなんと3割強しかいなかった。
つまり、女性は「まぁ割り勘でも、仕方ないな」との割り切りもあるのに、男性はいまだに“対恋愛”では「男たるもの、初デートぐらい奢らないと」と、「男たるもの圧力」を感じている。昭和の価値観から、いまだ抜け出せずにいるのだ。
でもセフレやソフレは、いわば恋愛とは「別腹」の異性。必要以上に「奢らなきゃ」とか「彼女を気持ちよくしてあげなきゃ」と感じることなく、いい意味でマイペースや男女平等を貫ける。恋愛よりはるかに「ラク」なのだろう。
●女性主導の恋愛市場
女性も同じだ。
でもセフレなら、そんな必要はない。無理にプレイしなくていいから、「私って、ウソつきだな」など罪悪感を持たなくていいわけだ。
そもそも昨今の恋愛市場では、「男たるもの」「女らしさ」「男女平等」どころか、年々「女性主導」の状況がどんどん進行している。
たとえば、日本性教育協会が1974年から2011年まで計7回にわたって行った経年調査を見ると、74年にはキスや性交の経験について、いずれも男子高生が女子高生を上回っていたが、81年には双方とも男女の経験率が逆転。その後、高校生段階の男女格差が顕著となり、11年では「キス経験」では、男子高生37%に対し女子高生44%、「セックス経験」では男子高生15%に対し女子高生24%と、男子は7~9%も女子に水をあけられた。
また、今回私たちが行った600人調査でも、「18歳までにセックスを初体験した割合」(20代独身)は、男性20%、女性24%となり、やはり女性のほうが上だった。その背後には、5~10歳以上も年上の男性に初体験を許す、女性たちの存在もあったのだ。
一方、男性の恋愛市場では、女性よりさらに衝撃的な事実も判明した。それが「初めての射精(精通)」を経験する割合の変化だ。
●セックスを嫌悪する男性
先の日本性教育協会の、別の経年調査(11年)を見てみよう。ここで、男性が中学生のうちに「射精」を経験する割合は、99年には53%だったが年々減少に向かい、11年では36%にまで落ち込んだ。
セックスを嫌悪する20代男性も年々増え、いまや同男性の5人に1人が、セックスを「汚らわしい」とのニュアンスで見ている。取材でも、「本気の恋愛相手とは、セックスみたいな汚いことをしなくても平気」だと話す男性が、何人もいた。
なぜこんなことが起こったのか。『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)では、そのあたりを詳しく掘り下げているが、ここではひとつだけ紹介しよう。
「尾木ママ」こと、法政大学・キャリアデザイン学部教授の尾木直樹氏が挙げた、「ママ風呂男子」の存在だ。尾木ママいわく、「近年、親と10~20代男女の密着ぶりが顕著」で、「高校生や大学生の一部が、まだ親と一緒にお風呂に入っている」という。このことが、若い男性の性的欲求を封じ込めている可能性もある、と指摘しているのだ。
ただ、別の大きな要因は、9月25日付本連載記事『恋愛したくない若者たち!7割は恋人なし「面倒、デート疲れる…」でもふれた、「近年のIT化や進んだバーチャルサービスによって『チラリズム』が失われた」こと、そして現代の「歪んだ男女平等」社会にあるだろう。
すなわち、前述したとおり近年の恋愛やセックス市場では、「女性の早期体験」や「男性の意欲減退」が目立つ。女性主導であることも多い。それにもかかわらず、いざ「恋愛して付き合う」となると、男性は特に
・男から告白すべき
・男が気を利かせて、店ぐらい予約すべき
・男が全額、あるいは多めに支払うべき
など、「男たるもの圧力」を受ける。そんな旧態依然とした恋愛を、「バカらしい」「面倒だ」と感じ、やがて「恋愛スルー」になっていくのだろう。
だが、「告白が面倒」な若者たちよ、決して案ずるなかれ!
実は世界的に見ると、日本の「告白」文化は、あまりにも異例。欧米の多くの国々では、「告白スルー」でキスやエッチ、恋愛へと突入するというのだ。
そこで次回は、「恋愛に告白は必要か?」について、詳しく見ていこう。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役)