9月30日、筆者の新刊『恋愛しない若者たち ~コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー21)が出版された。テーマは「恋愛しなくても、結婚はできる!」。



 ここ数年、20代男女から、「恋愛は面倒」「コスパに合わない」との声をよく聞く。一方で、9割の若者は言うのだ。「いつかは(恋愛)結婚したい」と。

 この矛盾を解消するためには、「結婚に恋愛は要らない」と、いったんスパッと切り離して考えるしかない。それが本書を執筆したきっかけだった。

 本連載前回記事『若年女子の7人に1人にセフレ?セックス離れする若年男子、年長者にも体を許す女子』において、若い女性の7人に1人に「セフレ(セックスフレンド)がいる」と紹介した。20代男女への取材でも「ソフレ(添い寝フレンド)」がいると答えた人が少なからずおり、「恋人とは別腹の異性」だと書いた。

 ところで、彼らは「恋人」と「別腹の異性」を、どう見分けているのか。ズバリ、それが「告白」であろう。

 当然ながら、告白にはリスクがある。何より最大のリスクは「振られる」ことだ。ブライダル情報サービスなどを提供するリクルートマーケティングパートナーズによる2014年の「恋愛観調査」で、「振られるリスクを思うと、告白したいとは思わない(友達のままでもよい)」との回答は、20代男性で32%、20代女性で49%に上った。
これは男女いずれも、30~40代より高い数値だった。

 またユニリーバ・ジャパンが、高校生・大学生と20代の社会人男女に聞いた調査(11年)でも、気になる人ができた場合、「すぐには告白できない」男性が8割。その理由を見ると、

・第1位 「自分に自信がない」(70%)
・第2位 「相手の気持ちがわからない」(63%)
・第3位 「振られたくないから」(29%)

となっていて、3位だけでなく1、2位も、いわば「振られたくない」とほぼ同義である様子が見てとれる。ただでさえ失恋リスクがある告白だが、いまや告白が持つ意味は昔以上に「重く」なっているようなのだ。

 それはなぜか。「ゼクシィ」(リクルート)編集長の神本絵里氏は、「20~30代半ばの男女は、学校でも職場でも『男女平等が当たり前』とされている世代だからではないか」と推測する。

 すなわち、20数年前のバブルの時代なら、「異性と約束して2人で出掛ける」となった時点で、ある程度はお互いに「いいな」と思っているという意思表示になったはず。告白の前段階から、暗に「好きか嫌いか」をうかがい知ることもできたろう。

●振られないために、告白しない

 しかし、今の20代は男女平等で友達感覚が当たり前。異性の友達とも食事や映画はもちろん、一泊旅行なども普通に行く。仮にどちらかが「恋人気分」になっても、基本は割り勘だから、キスやセックスにまで発展しなければ、付き合っているといえるかどうか極めてわかりにくい。

 となると、告白は昔以上にハードルが高いうえ、「僕(私)たち友達じゃないよ、恋人だよ」との認識を示すうえで、やっぱり必須事項となるのだ。


 では逆に、告白がなかった場合はどうか。

 今回、拙著『恋愛しない若者たち』の取材で「セフレがいる」と話した女性たちのなかには、「もし彼(男友達)が告白してくれたら、付き合っていたかもしれない」との声が何人かから漏れた。セフレ持ちの女性が目立ってきた背後には、どうやら「告白できない男」の存在もあるようなのだ。

 もっとも、筆者も今の時代の男性に生まれていたら、告白には相当なプレッシャーを感じただろう。

 男女平等が当たり前の時代だから、女性も堂々と「イヤです」と拒否権を発動するし、下手に告白すれば、セクハラやストーカーに間違われるかもしれない。あるいは、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で「なんでコクった(告白した)の?」「空気読めねぇな」なんて、袋叩きに遭うかもしれない。

 だったら、あえて告白せず「友達のまま」でいよう……そう考えたくもなるのも無理はない。

●欧米では告白をしない?

 それに、なぜ「男女平等」といわれる現代なのに、こと恋愛や告白となると、相変わらず男性陣は「男から告白すべし」と男らしさを要求されるのだろうか。男性には、納得がいかないだろう。

 さらに驚くことがある。

 冒頭でも触れたとおり、告白文化は世界的にみれば、非常に珍しいもののようだ。国際恋愛や国際結婚にも詳しい、中央大学の山田昌弘教授によると、なんと「告白してから交際する」という文化や概念は、欧米にはほとんどない。
アジアでも、日本以外では「貞操観念」が残る、韓国や中国ぐらいだというのだ。

 山田教授いわく、「西洋の多くは、ちょっといいなと思ったらまずデートや食事に誘い、アイコンタクトやボディランゲージから恋愛に発展する。その前提として、誰か1人に絞って告白するのではなく、複数の異性と並行して付き合うという文化がある」のだそう。

 恋愛文化を生んだ地とされるフランスをはじめ、ヨーロッパ諸国の多くが「告白せず、まず食事やデートをして、その流れでキスやセックスへ」と、なんとなく流れていくのが一般的とも山田教授は言う。これならば、日本のように告白ハードルは感じず、恋愛が重いものにもなりにくいだろう。

 またアメリカでも最近は、かの「プロム」が、親や地域が見守る「街コン」や「親同伴の恋活」といった様相を呈しているようなのだ。

 念のため補足するとプロムとは、高校や大学の卒業記念などに行なわれるフォーマルなダンスパーティ。アメリカに行ったことがない人でも、古くは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『キャリー』、最近では『ハリー・ポッター』や青春ドラマ『ゴシップガール』(ワーナー・ブラザース)、『glee』(20世紀フォックス)などでご覧になった人も多いだろう。

 参加は、原則として男女1対1のペア。「一緒に行こう」とパートナー候補を誘うのは、圧倒的に男性だ。長年、これを事実上の告白と見る向きも多かった。

●カップリングを大人が後押し

 だがよく調べると、近年はそのプロムの裏にも「大人」が介在しているらしいことがわかってきたのだ。


 たとえば、事前に学校の先生や親たちが、「あの子を誘ったら?」とけしかける、あるいはプロムの前後に、女子の両親が「うちに遊びにいらっしゃい」「ご飯を食べて行ったらどう?」などと誘うという具合だ。さらに最近は、学校が専用のフェイスブックページを立ち上げ、そこでイベントの計画やカップリングの様子を見守る(見張る)ことがあるらしい。

 つまり、恋愛に奔放で「自由」「放任」に見えるアメリカでも、実は若者がハメを外さないように、あるいはモテ格差が開いていじめにつながらないようになど、ある程度大人が後押しするシステムが存在している。

 だからこそ、あえて若者が「プロムに誘って断られるかな」などとドキドキ、プレッシャーを感じなくても、ある程度は自然にカップリングができるわけだ。

 いかがだろう。こうして見てくると、「告白は必須」なうえ「親や地域は、ほとんど後押ししてくれない」という現代の日本が、いかに恋愛ハードルを上げているかがわかる。今の文化を一から変えていくのは、やっぱり大変だ。ならば、「恋愛→告白→セックス→プロポーズ→結婚」という一連の流れや手間を、そろそろ断ち切ってもいいのではないだろうか。

 先日、とても幸せそうな「交際0日婚」の夫婦を取材した。妻は「付き合うとか面倒だし、同じ職場で人柄は信頼できたので」と笑顔を見せる。そう、すでに「結婚に交際は要らない」とする男女も出始めたのだ。今こそ、恋愛や結婚の概念を見つめ直すときだ。


 それに、実は恋愛や交際には、現代ならではの大いなる「リスク」が付き物であることもわかってきた。詳しくは次回みていきたい。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役 編集=平澤トラサク/インフィニティ)

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