行動には、どうしても摩擦が伴う。組織の中であればなおさらだ。

どうしたら摩擦を少なく、よりうまく仕事を進めることができるだろう。ひとつのエピソードを紹介したい。

 ある会社の社長から「社員にひとり問題児がいる」との相談があった。だが、問題児はどの会社にもいるので、さほど珍しくない相談だ。そこで、「どんな問題を起こすのですか?」と聞いたところ、「周りの意見を聞かず、勝手に仕事を進めてしまう」という。

 私はそれを聞き、ひとつの疑問が浮かんだ。社長は普段から、「社員がなかなか自分から動かない」と言っていた。「もっと指示を待たずに、自分から動いてくれるといいのに」とも言っていた。しかし、実際にそのような人が出てくると、今度は「周りの意見を聞かず、勝手に仕事を進めてしまう」という。

 では、その境界はどこに存在するのか?

●「自分から動ける人」と「勝手なことをする人」の差

 これはぜひ聞いてみたい。私はその社長に、「『自分から動いてくれる人』と、『勝手に仕事を進めてしまう人』の差とは、なんですか?」と聞いてみた。

 社長は考え込んでいたが、ゆっくり話し始めた。


社長:うーん、はっきりとした言葉にするのは少し難しいけれど、こちらの安心感があるか、ないかの違いかな。

私:具体的には、どのようなことですか?

社長:「指示を待たずに自分から動いてくれ」というのは、もちろん条件がある。ひとつは与えられている権限をきちんと理解しているか。勝手に契約などされては困る。この人は権限をきちんと理解しているという安心感があれば、こちらの指示を待つ必要はない。

私:なるほど。それはそうですね。

社長:あとは、周りの人への配慮ができる人かどうか、かな。勝手に動くということは、人によっては反感を持つ人もいる。これは私がどんなに「自分から動いてくれ」と言っても、一定数は保守的な人がいるものだ。そういう人へ配慮しつつやってくれることが望ましい。揉め事を起こせば、周りからその人が孤立してしまう。
それは困る。

私:なるほど。ということは、「自分から動いてほしい人」と、「勝手に動いてほしくない人」がいるということですね?

社長:そのとおりだが、そのように社内にアナウンスはできないだろう。平等という観点からいっても無理だ。

●「自分から動け」は真に受けないほうがいい?

 実際、このように「自分から動け」を真に受けないほうがいいことは、賢い大人なら誰しも知っている。ただ、自分が「自分から動いてほしい人」にカテゴライズされているか、「勝手に動いてほしくない人」にカテゴライズされているかを知るのは難しい。さらに「勝手に動く人」は、得てしてそういうことを気にするほど繊細ではない。

 ということは、賢い人はその賢さゆえに「指示待ち」となり、勝手な人はその鈍感さゆえに「問題児」となる。サラリーマンとしては、結果的に「指示待ち」が増え、一部の問題児が浮き彫りになるのは必然だ。自分から動き変化を起こすには、前述の社長が言うように以下の2点をキッチリ押さえることに尽きる。

・自分自身の権限を知ること、すなわち「会社のルール」を熟知すること。公式のルール、暗黙のルールを含め、誰に情報を持たせるかを考えること。


・保守的な人物への配慮を怠らないこと。ルールを守っていても反感を持たれるケースは多い。したがって、保守的な人物に対する感情面のケアや付き合いなどを利用すること。

 つまり、これが「報告・連絡・相談」が重要視されるゆえんだ。
(文=安達裕哉/経営・人事・ITコンサルタント)

編集部おすすめ