Mr.Childrenの名曲「抱きしめたい」がパクられた――。

 歌手・平浩二の楽曲「ぬくもり」の歌詞が「抱きしめたい」に酷似していることが発覚した問題が、波紋を呼んでいる。

「ぬくもり」は平が5月に発売したシングル「愛・佐世保」のカップリング曲で、作詞家の沢久美氏が作詞を手がけている。

 最近になってインターネット上で歌詞の酷似が指摘されると、発売元の徳間ジャパンコミュニケーションズはCDの自主回収および購入者への返金を発表。平は、同社のホームページで「全く寝耳に水のことであり、本当にそのようなことがあるのか信じられませんでしたが、歌詞の内容は確かに酷似しており、大変驚愕いたしました」「ご心配、ご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます」と謝罪した。

 同社では、「ぬくもり」の歌詞に「抱きしめたい」と同一フレーズが複数あったことを認め、著作権侵害に相当すると判断しているようだ。また、この問題について、一部で「責任は作詞家にある」「歌い手である平は、ある意味で被害者」との声が上がっているが、実際の法的責任はどのようなものになるのだろうか?

 弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPCの弁護士の児玉政己氏は、「作詞家だけでなく、歌手や発行元も、民事上の損害賠償責任のみならず、刑事上の責任(10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその併科)を問われる可能性があります」と解説する。

「まず、前提として『著作権』という名称の権利はありません。著作権法上は、『著作物』を伝達するためのさまざまな行為(例えば、楽曲という『著作物』をCDに録音したり、歌って聴かせるなど)を、『著作者』が独占的に行うことができる権利が定められており、それぞれの行為態様に応じて『複製権』『演奏権』などの名称が付されています(以下、便宜的にこれら個別の権利を総称して『著作権』と呼称する)。

 今回、問題となっている<『ぬくもり』の歌詞>は、既存の著作物である<『抱きしめたい』の歌詞>を『盗作』したものであるとされています。まず、<『抱きしめたい』の歌詞>が著作物であることは疑いようがないでしょう。

 そして、<『ぬくもり』の歌詞>が<『抱きしめたい』の歌詞>の『盗作』にあたる場合、歌詞を紙に印刷あるいは歌を録音する行為は、<『抱きしめたい』の歌詞>の著作者が有する複製権の侵害となります。また、歌唱する行為は<『抱きしめたい』の歌詞>の著作者が有する演奏権の侵害になると考えられます。

 このように、今回の問題は作詞家のみならず、実演家である歌手やCDを制作した発売元に対しても、著作権侵害の責任を問われる可能性があるのです」(児玉氏)

●過去にもあった歌詞盗作騒動

 その結果、前述のように、最大10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科という刑罰を科される可能性があるという。


「もっとも、過失行為によっても成立する民事上の不法行為責任とは異なり、著作権侵害の罪の責任を問うためには、行為者にその罪を犯す意思(故意)が必要になります。

 この点、歌手および発売元は、問題発覚の当初から<『盗作』がされた事実を知らなかった>として、その複製や演奏が著作権侵害となることについて、故意の存在を否定し続けているため、彼らに対して著作権侵害の罪の責任(刑事上の責任)を問うのは難しいかもしれません」(同)

 歌詞の盗作騒動といえば、06年に勃発した歌手・槇原敬之と漫画家・松本零士の問題が思い返される。槇原が作詞を手がけたCHEMISTRYの楽曲「約束の場所」の歌詞の一部が、松本の『銀河鉄道999』(小学館)のセリフを盗用したものであるとして、裁判沙汰になった一件だ。

「この問題は、槇原側から『著作権侵害の事実がないことの確認』などを求める訴訟が提起された上で、槇原側の勝訴というかたちで決着がついた(一審の判断。その後控訴され、控訴審において和解により終了)ものの、著作権侵害の事実の有無については判断されていません(東京地方裁判所、平成20年12月26日判決)。

 もっとも、裁判所は当該事件で、名誉毀損における『摘示された事実が真実であるか』という争点についての判断において、槇原が『漫画の台詞に<依拠して>歌詞の創作を行ったか』という点の判断をしています。

 それによれば、裁判所は、漫画のセリフは非常に短い文章であり、仮にこれに触れたことがあるとしても、必ずしも当該表現に注目し、記憶に残るとは限らないこと、また、そのような短文の両表現を比較する際において『裏切ってはならない』と『決して裏切らない』というような表現上の差異は必ずしも小さいものではなく、特徴的な部分が異なっているといえる両表現の相違は大きいといえ、酷似しているとまでは言えないこと、などの理由から、『槇原の歌詞が漫画のセリフに依拠したものと断定することはできない』との判断を示しています。

 前述の通り、著作権侵害を判断する上では『依拠性』『同一性』の要件についての判断が必要になるため、当該事案における裁判所の判断方法は、『歌詞の盗用』の著作権侵害の判断に際して、参考になるものと考えられます」(同)

 今後、「ぬくもり」の騒動がどんな展開を見せるのか、成り行きが気になるところだ。
(文=編集部、協力=児玉政己/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP LPC弁護士)

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