近年、雑誌の販売部数が激減している。それに伴い、2015年だけで「週刊アスキー」(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス<11月30日発売の特別編集号で復活>)、「宝島」(宝島社)、「CUTiE」(同)などの有名誌が、相次いで休刊に追い込まれた。



 一方、切手専門誌の「郵趣」(郵趣サービス社)、「愛石」(石乃美社)、「養豚の友」(日本畜産振興会)、「ねじの世界」(ねじの世界社)など、特定の分野や業界に特化した「専門誌」は多く、根強い人気を集めている。

 最近も、お坊さん向けの専門誌「月刊住職」(興山舎)の内容が「攻めすぎ」と話題になり、全国紙で紹介されたほどだ。メジャーな雑誌が次々に休刊する中、こうしたマニアックな雑誌は、なぜつぶれないのだろうか。

 独特の輝きを放つ専門誌の一部を紹介すると同時に、存続できる理由を考えてみた。

●日本唯一の「自動認識技術」専門誌

 まずは「月刊自動認識」(日本工業出版)を紹介したい。

「自動認識」とは、機器を使ってバーコードやICカード、RFID(RFタグのデータを読み書きする非接触システム)などのデータを取り込み、内容を認識することだ。

 しかし、非常に専門的な分野だけに、雑誌を手に取って記事を読んでも、内容がディープすぎて一切わからない。しかも、掲載されているのはあくまでも専門的なニュースや情報だけで、写真も少なく、いわゆる読み物などはまったく見当たらない。まさに「ザ・専門誌」といった感じだ。

「主な読者層は、バーコードをはじめとする自動認識に関わっている商社やユーザー、バイオメトリクスやICカード、音声認識技術などを扱っている会社の方たちです。年間購読をしてくださっている企業も多く、年間発行部数は1万4000部です。一般的なIT雑誌ではできないような、ディープなテーマや切り口に絞り、あくまで『自動認識』に特化した情報を掲載しています」

 こう語るのは、同誌編集部の吉田さんだ。
自動認識技術を扱う企業では、新入社員が「月刊自動認識」の記事を読んで基礎技術を学び、ベテラン社員もシステムの最新情報をチェックするなど、業界にとってなくてはならない雑誌になっているという。

 創刊は1988年で、当初は「月刊バーコード」という誌名だったが、その後、生体認証やICカードなどの技術が急速に発展したため、バーコード以外の自動認識技術にも対応するべく、04年9月号より現在の誌名に変更された。

●教訓が満載!「朝礼」のための専門誌

 一方で「いったい、どんな人が読んでいるのだろうか」と気になるのが、84年創刊の「月刊朝礼」(コミニケ出版)である。

 同誌は9割以上が教訓や、議論のきっかけとなるようなエピソードが書かれたエッセイで占められている。15年11月号では、1日から30日まで、1日ごとにテーマを設け、朝礼やスピーチのネタとなるような「いい話」を紹介している。

 例えば、「11月12日(木)」の項では、「あなたの定時」と題し、『大学生がインターネットの質問箱に、「毎日、定時で帰れる仕事を教えてください」と書いていました。あなたならどう答えますか』と疑問を投げかけ、時間にとらわれずに熱意を持って仕事に打ち込むことの重要性を説いている。

「主に『どのように社員教育をして誠実な人材を育てればいいか』に悩んでいる、製造業やサービス業の経営者が購入されています」と語るのは、コミニケ出版の出版事業部の橋本さんだ。

「当初は個人的に購入していた経営者が、内容に感銘を受けて社員全員に勧めることもあるようです。病院の待合室の読み物としても購入されており、中でも反響の大きいコーナーは『大人の極意書』です。論語を英語で学ぶコーナーなのですが、あまりの反響に書籍化されました」(橋本さん)

 同誌は、全国2000社以上の企業が朝礼などに使っており、発行部数は月間1万5000部だ。また、コミニケ出版は14年、10月10日を「朝礼の日」と制定し、一般社団法人日本記念日協会に認定された。
それを受けて「朝礼川柳」を実施しているが、2回目の昨年は応募総数が4922句に達したという。

 同誌の場合、「朝礼」というニッチな分野にテーマを絞っているが、特定の業界の人向けの情報源というより、まるでビジネス書のように読まれているわけだ。

●完全にネタ本? 世にも珍しい「タニシ専門誌」

 最後に、発行元によると創刊50年の老舗で、世にも珍しいタニシ専門誌「月刊タニシ」(GOCCO)を紹介しよう。

 誌名を見る限り、タニシの養殖業者向けの専門誌と思うかもしれない。確かに、同誌も「業界団体に属するタニシ養殖業者向けに発刊してきた」と謳っている。

 しかし、雑誌を手に入れて読んでみると、巻頭は「夏休み絵画コンテスト」なるタニシをテーマにしたイラストを表彰するほのぼの企画で、その次に「タニシの増えるBGM」という音楽レビュー、「タニシ体験談」という意味不明の読者投稿が続く。

 おまけに、誌面の大半を占めているのは「レッドドラゴン」という、タニシとはまったく関係なさそうな漫画だ。

 実は、タニシの養殖業者向けの専門誌というのは単なるネタであり、実際はサブカル系の面白ミニコミ誌なのである。インターネット上で「マニアックすぎる」と反響を呼び、昨年9月にはテレビでも紹介された。

 同じ専門誌を謳っていても、その中身は「月刊自動認識」や「月刊朝礼」とはまったく別物である。

 ただ、3つの専門誌に通じるのは、「自動認識」「朝礼」「タニシ」というニッチな分野に着目し、その濃い内容で支持されている点だ。マスではなく、コアに向けて情報発信していることが、雑誌存続の理由といえるのではないだろうか。


 ニッチでディープな世界に興味を持った人は、ほかにもあるさまざまな専門誌をチェックしてみてはどうだろうか。
(文=高橋明日香/清談社)

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