ジャパネットたかた(以下、ジャパネット)のテレビショッピングにおいて、まさに看板であった創業者の高田明氏の姿は1月15日が見納めとなってしまいました。1年前に社長を退任し、長男の高田旭人氏に会社の全権を委ねた際に「あと1年をめどにテレビ・ラジオへの出演はやめる」とコメントした通りの結果となったわけですが、独特の言い回しなどを多くの視聴者が惜しんでいることでしょう。



 こうした魅力的なキャラクターを失ってしまったことは、ジャパネットにとって大きな問題ではあるものの、今後もしっかりと業績を維持していくと思われます。なぜなら、ジャパネットは単に個性的な社長のテレビ出演という一本足打法的経営ではなく、しっかりとした稼ぐ仕組みが構築できているからです。

●徹底した消費者志向

 ジャパネットのテレビショッピングを見ていて強く感じることは、徹底した消費者志向です。一般的に小売店は、メーカーから配布される販促のためのリーフレットなどに基づき、消費者に対して商品説明を行うことに終始している印象です。

 しかしジャパネットでは、主たるターゲットとなる比較的年齢層の高い消費者の立場に立ち、こうした人たちに対して販売しようとしている商品はどのような価値を提供できるのかということを、開発したメーカー以上に考え抜き、視聴者に対して情報提供を行っているように思えます。

 たとえば、ICレコーダーの場合、通常は会議やインタビューなどの録音を想定しますが、ジャパネットでは枕元に置き、寝る前に今日の出来事、明日やらなければならないことを簡単に録音できるといった使い方を訴求していました。確かに、ある程度の年齢になると、そうした使い方に対して多くの人が魅力を感じるだろうと感心しました。

●温かい雰囲気のテレビショッピング

 ジャパネットのテレビショッピングに、どことなく温かい雰囲気を感じる視聴者は多いと思います。それは、なぜでしょうか。もちろん、高田明元社長のあの独特の口調も大きな影響を与えているでしょう。しかし、そのほかにもさまざまな要因が考えられます。

 まず、自社のスタジオで、自社のスタッフにより番組が制作されている効果は大きいでしょう。
もともとはテレビ局のスタジオなどを借りて制作されていましたが、目まぐるしく変化する商品の入れ替えに迅速に対応するため、本社にスタジオを設置しました。当時のジャパネットにとって大きな投資だったことでしょう。このように、当初はスピード重視で自社スタジオを設置したわけですが、筆者は自社で撮影する副産物として、和気あいあいとした雰囲気を醸し出せていると捉えています。

 また、管理部門はもちろんのこと、スタジオやコールセンターを擁する本社が長崎県佐世保市という地方に所在していることも、東京などの大都会とは異なり、どこかほんわかとした雰囲気をつくっているのかもしれません。ずいぶん昔のことですが、筆者は学生と共に本社を訪問させていただきました。大きな本社ビルは土足厳禁で、スリッパに履き替えたことを今でも鮮明に記憶しています。スリッパに履き替えての業務は、多くの人が憧れるのではないでしょうか。想像するだけでも心地よい感覚になりますね。些細なことかもしれませんが、こうしたこともテレビショッピングにおける、温かさの創出に影響を与えていることでしょう。

●システマティックな商品の絞り込み

 テレビ広告には大きなコストを伴いますが、かなりの時間をかけてひとつの商品を紹介する場合も多く見受けられます。したがって売り上げ不調で大赤字になる場合も多く、リスクの高いビジネス・モデルだと筆者は捉えていました。ところが、こうしたリスクを最小化させるシステムがジャパネットでは構築されていたのです。


 ジャパネットといえばテレビショッピングのイメージが強いですが、新聞折り込み広告(ビラ)、ラジオ、BSテレビ、インターネットなどを通じても販売が行われています。新聞折り込み広告の場合、低コストで多くの商品を紹介することができます。以下、ラジオ、BSテレビ、通常のテレビと、消費者への影響力は高くなるものの、コストが嵩んでいきます。そこで、まず新聞折り込み広告で売り上げの良かった商品をラジオに、さらにラジオで反応の良かった商品をBSに、という具合に商品の絞り込みが行われています。その結果として、テレビでは売れる可能性の極めて高い商品が紹介されるというシステムが構築されているのです。

 もちろん、商売に対してシビアな面も抜かりはありません。ジャパネットでは、さまざまなモノが主たる商品にセットされて販売されています。これらを単純に「おまけ」と捉え、喜ぶ消費者も少なくはないでしょう。また、しっかり者の消費者に対しても、「おまけ」が他の小売業者との価格比較を複雑化させ、ひいては価格比較を放棄させることに大きな効果を発揮していることでしょう。

 こうしたジャパネットの稼ぐ仕組みを考慮すると、高田明元社長のテレビ出演がなくとも、堅調な業績は今後も続いていくでしょう。

 ちなみに、テレビショッピングへの最後のレギュラー出演となった1月15日の会見で、高田明元社長は従業員に対して「客を感じる心を持ってほしい。そのためには人間力を磨いて」とエールを送っていますが、消費者志向とはまさにこういうことであり、それを愚直に貫いてきた結果、今のジャパネットがあると強く感じた次第です。

(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

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