男女で行動に大きな差があるということについて、多くの人は異論がないでしょう。また、こうした相違は、購買行動においても明確に存在していると多くの人が感じていることと思います。
たとえば、デパートで奥さんの買い物に付き合うことに疲れ果て、エレベーター横のベンチでぐったりとうなだれる旦那さん……という風景は、ドラマなどでもおなじみです。
こうした男女の購買行動の相違がわかれば、売る側にとってさまざまなマーケティング施策に活用できるため、極めて重要な情報となるはずです。しかし、多くの人がなんとなく感じているであろう、この男女の購買行動の相違に関して正面から取り組んだ研究はあまり目にしません。
そこで今回、筆者の開講するゼミの学生たちが正面からこのテーマに取り組みました。
●現地調査スタート
当初は、参考になる文献などがないか方々調べていましたが、適当なものが見つからず、「これはもう現地調査しかない」との結論に至りました。
まず、大学内のコンビニエンスストアで調査を実施することになりました。なぜ大学内のコンビニが選定されたのでしょうか。もちろん、近くて便利で融通が利くといったこともありますが、以下の通り大学内コンビニには調査対象として多くの利点があります。
調査するにあたって、男女の行動の差を比較するためには、男女双方をターゲットとする店でなければなりません。また、買い物に時間がかかる商品の場合、サンプル数を稼ぐことが難しくなります。
こうした点を踏まえれば、コンビニは極めて良い条件を備えています。さらに、なぜ大学内かという点に関しては、たとえば一般のコンビニにも数多くの男女が来店するでしょうが、年齢がばらつきます。
【男女の購買行動の数値化】
・買い物時間…男:1分18秒 vs. 女:2分44秒
・チェックした商品点数…男:2.5点 vs. 女:3.7点
・手に取った回数…男:1.6回 vs. 女:2.2回
・比較した回数…男:0.3回 vs. 女:0.6回
・買い物金額…男:163円 vs. 女:214円
このような結果になりました。大きくとらえれば、大方の予想通りといったところですが、それにしても数値化したうえで違いを示されると、なるほどと妙に納得します。筆者は、「ここまで大きな差があるのか」と大変驚いた次第です。その後、調査は大手総合衣料品店などでも行われました。総合衣料品店の場合、たとえば主婦が家族のために購入することもあり、そういう場合は調査対象から外すなど、かなりの苦労があったようですが、おおむね大学内コンビニと同じような結果を得ています。
また、調査においてチェック項目としなかったため数値化はできてはいませんが、男性の場合は「最初に見た商品を買うケースが半数を超えている」「ひとりでの来店が目立つ」「買い物が終わると足早に立ち去る」といったケースが多かったようです。一方、女性の場合は、「値札をしっかりと見る」「同伴者に意見を求める」「会計後も店内を見て回る」といった行動が目立ったようです。
●なぜ男女で購買行動に差が出るのか
「なぜ男女で購買行動に差が出るのか」――これはいまだ彼らの頭を悩ませている問題ですが、たとえば男性はリスクを過小視し、女性は過大視する傾向が強いといった研究もあるようです。そうなると、また新たに「なぜリスクに対する差が生まれるのか」「身体的な相違から生じるのか」「従来から続く社会における役割の相違からか」といった疑問が生じ、興味は尽きません。
購買行動に差があることはわかりましたが、実際、このような差をどう販売に生かせばよいのでしょうか。
たとえば、女性客に対してはリスクを和らげることができるように、店内のPOPで製品の特徴や他社製品との比較を詳細に記述するといったことが、販売対策として重要になるかもしれません。それによって、間違った、あるいは後悔する商品選択とならないようにすることができます。また男性客に対しては、その特性に従い、すっきりとして商品がわかりやすい売り場がマッチするでしょうし、逆に特性に抗う売り場づくりをしても他店との差別化につながる可能性もあり、興味深いところです。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)