ある会社の新入社員は、実はもともと志望していた会社に入れず、希望していた業界でもなかったため、入社当初は落ち込んでいた。だが彼は思い直し、「仕事があるだけ良かった」と気持ちを切り替えて、入社できた会社でがんばることにした。
最初、彼はほかの社員に挨拶ができず、先輩に叱られた。そこで「挨拶だけでもがんばろう」と、挨拶してみると、皆が挨拶を返してくれた。人間関係が少し良くなったように感じた。
「電話番は新人の仕事」と命じられていたが、最初の1週間は会社にかかってくる電話を取れず、先輩に叱られた。そこで彼は電話応対の方法を教えてもらい、積極的に電話を取るようにした。慣れてくると、電話は恐くなくなった。
最初の半月、彼は日報を書くのがへただった。日報だけではなく、そもそも文章を書くことが苦手だった。そこで彼は上司に頼み、日報について毎日感想をもらうようにして、次の日から改善するようにした。その結果、彼は日報を書くのに苦労しなくなり、文章力も少しずつ向上した。
最初の1カ月、彼はエクセルが苦手だった。依頼された資料をつくるのに、ほかの人に比べてかなりの時間がかかっていた。
最初の3カ月、彼は仕事をよく忘れ、先輩にこっぴどく何度も叱られた。「仕事の指示を受けるときにはメモをとるように」と指示されたので、彼は手帳を買って積極的にメモをとるようにした。それ以来、彼は仕事を忘れなくなった。
最初の半年、彼はよく頼まれた仕事の納期に遅延した。仕事を依頼されたとき、納期を確認していなかったのだ。先輩にたびたび叱られた。そこで、先輩がちょっとした頼みごとをしてきたときも必ず、「いつまでにやればいいですか?」と聞くようにした。時には、自分から「1週間後でいいですか?」と期限を聞くようになった。
●仕事の評価が高まり始める
また、彼はタスク管理をすることにした。
最初の1年、彼の仕事のクオリティはお世辞にも高いものではなかった。彼は困った時、周りの人に相談するのが苦手だったからだ。そこで彼は相談内容をいったん文書にまとめてから、不安なときは積極的に聞きに行くようにした。仕事は依頼者の満足のいくクオリティとなることが徐々に多くなった。
最初の3年、彼は上司の考えていることがよくわからなかった。「上司は理不尽なことばかり言ってくる」と不満に思っていた。そこで彼は「上司のことをもっとよく知らなくてはいけない」と考え、上司と共にランチを取り、飲みに行き、考えていることを理解しようとした。少しずつ、彼は上司の発言や態度から考えを理解できるようになった。副次的な効果として、顧客の考えていることもわかるようになった。
彼はまた、顧客に気に入られることが苦手だった。
最初の5年、彼はプロジェクトでの共同作業が苦手だった。相手が分担を忘れたり、こちらと相手の認識が違っていて、思った通りの仕事をこなしてくれなかったからだ。そこで彼は、きっちりと議事録を取るようにし、打ち合わせの後、必ずそれを相互確認するようにした。また、2回目以降の打ち合わせの冒頭では、必ず前回の宿題の確認をするようにした。
また、早めに顧客の意図、社内の意図を汲み、タスク管理を行い、納期順守と品質管理に力を尽くした。段々と、彼は人と働くのが苦にならなくなった。
彼は改善提案活動が苦手だった。
そこで過去の提案活動を調べ、何が採用されて何が採用されなかったかを分析した。さらに他社の事例などを人に聞き、自分のノートに書き留めた。手帳を持ち歩き、現場で気づいたことはすぐにメモを取った。それを続けるうち、彼は改善提案活動が得意になった。
彼はアイデアを出すのが苦手だった。卓越したアイデアを出すためには知識が足りないと認識し、通勤電車の中でたくさん本を読むようにした。好きだったゲームをやめ、寸暇を惜しんで本を読んだ。彼の出すアイデアは、徐々に良いものになっていった。
彼は後輩の指導が苦手だった。相手が何を考えているのか、よくわからない上に、こちらを不愉快にさせるような言動が多かったからだ。そこで彼は、後輩のニーズを汲み取るために話をよく聞き、後輩の求めていることをできるだけ提供した。
彼はいつの間にか、仕事ができるようになっていた。
(文=安達裕哉/経営・人事・ITコンサルタント)