梅が咲く季節になっても、寒い日には鍋を囲みたくなります。おいしい鍋に豆腐は欠かせないものです。



 ところが、3丁100円くらいの安い豆腐を鍋に入れると、煮るほどに鍋の表面に浮かんできます。食べてみると、スポンジ状に“す”が入っていてスカスカになっています。

「煮すぎてしまったからしょうがない」とあきらめてはいけません。豆腐には、煮れば煮るほどスカスカになるものと、逆に軟らかくなるものの2通りあるのです。

 凝固剤として昔ながらの「にがり」を使用している豆腐は、鍋で煮ると軟らかくなり、冷めるとまた硬くなります。しかも、にがりを使用した豆腐は何度でも軟らかくなったり硬くなったりするのです。

 にがりは、成分表示欄に「塩化マグネシウム(にがり)」「塩化マグネシウム含有物(にがり)」「粗製海水塩化マグネシウム(にがり)」といった表記がしてあります。

 一方、煮るとスカスカになってしまう豆腐は、凝固剤にGDL(グルコノデルタラクトン)を使用しています。

●大豆のおいしさ

 お年寄りのなかに「昔の豆腐は硬くておいしかった」と言う方がいます。戦時中、にがりは軍需品だったため、豆腐に使う凝固剤は主に硫酸カルシウムでした。硫酸カルシウムを使用すると、舌触りの良い軟らかい豆腐ができるため、以降しばらくそれが主流になりました。一方で、食感だけは良く大豆のうまみが少ない豆腐が多く流通しました。
確かに現代でも、軟らかくて大豆のおいしさを感じないものがあります。

 豆腐は大豆、水、凝固剤からつくられます。豆腐メーカーはおいしい水を求めて工場を建てるので、おいしい水の出るところに豆腐メーカーがあります。逆にいえば、おいしい豆腐メーカーのある地域の水はおいしい場合が多いのです。

 昔の豆腐店は、にがりを用い、大豆を多く使って豆腐をつくっていました。1俵(60kg)の大豆から400丁程度しか豆腐をつくることができませんでした。ところが、GDLを使用した3丁100円くらいの豆腐は、1俵の大豆から700丁以上の豆腐をつくることができます。ただし、味は薄くまずくなってしまいます。

●にがりを打つタイミング

 にがりを入れると豆乳はすぐに固まるので、豆乳を絞って、にがりを“打つ”タイミングが職人芸になります。豆乳の温度を見計らってにがりを打ち、豆乳が入っている容器に衝撃を与えます。この衝撃が豆腐のおいしさを決めるのです。

 大きな豆腐メーカーでは、完全に自動ライン化されてにがりを入れる作業も機械が行っています。
大型機械でもそれなりの豆腐はできますが、豆腐職人が豆乳の入った大きな容器の表面を見ながらにがりを打つ姿は、「おいしい豆腐に出合える」と感じさせます。

 にがりを使用している豆腐を食べてみると、わずかに塩味がします。本来、豆腐はにがりの塩味がするので、何も付けずにそのまま食べてもおいしいものなのです。

 ちょっと意外に思われるかもしれませんが、もしおいしい豆腐に出合ったら、ぜひ少量の砂糖をかけて食べてみてください。筆者が中国を訪れたときに知った食べ方なのですが、驚くほどおいしいのでお勧めします。

 スーパーマーケットでは、最近は数多くの豆腐が売られています。ところが安い豆腐の多くは、肝心の栄養成分表示がされていません。豆腐は、栄養成分表示を確認して、タンパク質の数値が高く、凝固剤ににがりを使用している商品を選ぶことが秘訣です。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)

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