先月26日、昨年の2冠馬ドゥラメンテと共に皐月賞、菊花賞の2着馬リアルスティール(牡4歳 栗東・矢作厩舎)のドバイ遠征が決まった。
世代屈指の高い資質を評価されながら昨年2月の共同通信杯(G3)以来、勝ち星に恵まれていないリアルスティール。
ところが、参戦するドバイターフ(26日、メイダン芝1800メートル)で、イギリスの名手ライアン・ムーア騎手とのコンビが決まると一転、リアルスティールのファンは大盛り上がり。
特に某掲示板では「俄然、チャンスが出てきたな」「真の力が解放される時がきた」「世界を驚かせに行くのはドゥラではなく、リアルスティール」など、本馬のG1初制覇が海外で成し遂げられる機運が高まっているようだ。
それもそのはず、ムーア騎手といえば世界でも屈指の名手。スノーフェアリーによるエリザベス女王杯(G1)連覇やジェンティルドンナのジャパンC(G1)勝利など、その卓越した技術は日本の競馬ファンの間でもお馴染みだ。昨年はモーリスとのコンビでマイルCS(G1)を勝つと、その勢いで香港マイル(G1)も制覇。モーリスを年度代表馬へと導いている。
そんな世界的名手とのコンビとなれば、リアルスティールの世界制覇へ期待が高まるのは、むしろ当然といったところか。
しかし、その一方で気の毒なのが、今までコンビを組んできた福永祐一騎手である。
「(福永)祐一には申し訳ないが、今回は世界と戦う特別な舞台なのでムーアにも乗ってもらう」
リアルスティールを管理する矢作調教師の「お前には無理」とも取れるあまりに厳しい言葉で、急きょコンビ解消となった福永騎手。昨年10月の落馬事故から復帰して間もないことも考慮されてのことだろうが、リアルスティールはデビューからずっと主戦を務めてきた馬だけに思い入れも深い。
それにリアルスティールが挑むドバイターフは、福永騎手が2014年に前身となるドバイデューティーフリーをジャスタウェイでレコード勝ちした舞台。
そういった事情もあってか、リアルスティールの鞍上変更の発表直後は、福永騎手に「かわいそう」と同情する声や「そんなことをするから日本人騎手が育たない」という非難の声があった。
ただ、同時に「仕方がない」という賛成の声もあったのも事実だ。
今回の乗り替わりを支持したファンからは、リアルスティールのイマイチ勝ち切れない現状を「騎手に問題があるせい」と受け止めている意見が大多数を占めていた。
実際に、今年初戦の中山記念ではライバル・ドゥラメンテの後方に位置し、結局一度も並びかけることもできずに完敗。消極的と判断されても仕方がない騎乗だけでなく、レース後に福永騎手自身が「本当はドゥラメンテの位置で競馬がしたかった」と発言したことで、ファンからは"鞍上チェンジ"の声が上がったほどだった。
以前からどこか「勝ち切れないイメージ」があった福永騎手だが、勝利が求められる海外遠征での非情な決断も受け入れる他ないのかもしれない。実際に復帰後2週間で4勝とまずまずの成績を収めているが、その一方で2着9回、3着7回と早くも"量産態勢"に入ってしまっている。
「福永騎手自身に原因があることも事実でしょうが、リアルスティールは一口馬主のサンデーレーシングが所有する馬。複数の馬主に権利があるため、どうしても結果を重視した判断が優先されがちです。実際にサンデーレーシング所有馬の非情な決断は今回だけでなく、オルフェーヴルの池添騎手をはじめ数多くありました。矢作調教師も決して本意ではないと思いますよ」(競馬記者)
馬主の意向で乗り替わるのが世界のムーア騎手とあっては仕方のないところではあるが、復帰後間もなく最愛のパートナーを失い、春のG1戦線での苦戦が予想される福永騎手。
しかし、世の中「捨てる神あれば拾う神あり」なのか。先日、27日の高松宮記念(G1)に参戦する有力馬ビッグアーサーとのコンビが決定。さらには前日の日経賞(G2)でも、昨年の有馬記念2着のサウンズオブアースとの新コンビが決定した。
日本を代表するトップジョッキーとして、今回屈辱的な乗り替わりを味わった福永騎手。ただ、入れ替わりのごとく続々と有力馬が集まる現状に、また「コネ永」と言われないか心配だが、そんなことを気にしている場合ではないのかもしれない。
新たな相棒らと共に、世間に自身の評価を見直させるリベンジを期待したい。