再燃した野球賭博問題が、新たな騒動に飛び火している。

 3月9日、読売ジャイアンツ(以下、巨人)の高木京介投手が記者会見を開き、涙ながらに「野球賭博に関与していました」と謝罪した。

昨年10月に巨人の笠原将生投手、福田聡志投手、松本竜也投手の3選手が野球賭博に関与していたことが発覚したが、高木投手はその4人目というわけだ。

 その後、3選手は巨人を解雇され、日本野球機構(NPB)からは無期限失格処分を受けたが、笠原氏と松本氏は「週刊文春」(文藝春秋)誌上で「トランプや麻雀、練習中のノックでもお金を賭けていた」と暴露した。

 そして、高木投手の会見の数日後には、巨人の選手間で、試合前の円陣や練習のノックの中で金銭のやりとりが発生していたことが明らかになった。円陣の場合、試合に勝てば「声出し役」が各選手から5000円ずつ“ご祝儀”を受け取り、負ければ各選手に1000円ずつ払う、というものだ。また、ノックではエラーした際に“罰金”が発生していたとされる。

 3月18日現在、阪神タイガース、埼玉西武ライオンズ、福岡ソフトバンクホークス、広島東洋カープ、東北楽天ゴールデンイーグルス、千葉ロッテマリーンズでも同様の行為が発覚している。25日の開幕を前に、プロ野球のイメージは下がる一方だ。

●「ノックや円陣で賭けは当たり前」「球界の伝統だった」

 ノックや円陣での金銭授受について、有識者やスポーツライターは「賭博行為の入り口になる」「けしからん」などと批判しているが、元プロ野球選手の愛甲猛氏(ロッテオリオンズ<現・千葉ロッテマリーンズ>、中日ドラゴンズで活躍)は「この2つは、まるで違う問題だ」と反論する。

「マスコミは鬼の首を取ったように報道しているけれど、円陣や練習でのお金のやりとりは、モチベーションを上げるためだけのもの。エラーしないためには緊張感を持って練習することが必要で、その工夫のひとつだよ。

 キャンプのノックでは『(エラーしたら)1人1000円出す』などと、当たり前のようにやっていたけれど、これは『会社員が、飲み代を賭けて営業成績を競う』ようなもので、賭け事とは違う。

 円陣の件も、優勝したら報奨金が配られるのと同じで、大騒ぎするほどのことじゃない。
野球賭博と同じであるかのように報道するのは、間違っている」(愛甲氏)

 笠原氏と松本氏が「週刊文春」に暴露したことで、テレビや新聞は一斉にこの問題を報じており、中には「御用ジャーナリストか?」と思うようなコメントを寄せる人物すらいる。しかし、はっきり言えるのは、「野球賭博と円陣・練習での金銭授受は、まったく別の問題」ということだ。

 現時点で、この問題についてコメントするプロ野球OBは少ない。愛甲氏は、その理由を「球界の伝統だったから」と説明する。ちなみに、愛甲氏と同じ趣旨のコメントを寄せていたのは、漫画家のやくみつる氏だけである。

 競馬でも、アトサキ(どちらの馬が先着するかを賭けること)を行う騎手がいるが、同じように、円陣やノックでの“賭け”も「昔から存在する、モチベーションを上げるため方法」のひとつといえるだろう。

 また、「その金額が、一般社会とかけ離れている」という指摘もあるが、球界には1億円プレイヤーが多く存在し、年収は一般会社員の10~50倍にも達する。「球界と一般社会では、収入も違えば金銭感覚も違う。同じ物差しでは測れない」という愛甲氏の言葉もうなずける。

●野球人による野球賭博こそ、野球を冒涜する行為

「それより、俺が一番許せないのは“野球人が野球賭博をやったこと”だよ。マスコミは、そっちの問題をもっときちんと報じてほしいね」(同)

 麻雀や競艇など、現役時代から賭け事で勝負勘を磨いてきた愛甲氏だが、「野球人が絶対に手を出してはいけないのが、野球賭博。それこそ、言語道断だ」と力説する。


「俺はロッテ時代、『黒い霧事件』(1969~71年にかけて勃発した、プロ野球の八百長をめぐる騒動)に巻き込まれた稲尾和久監督に『ほかのギャンブルならまだしも、野球賭博だけには絶対に手を出すな』と教えられ、それを守ってきた。

 野球賭博のアガリ(収益)が裏社会の資金になったり、野球賭博そのものが球界のイメージを損なったりするという問題もある。だけど、そもそも、野球で飯を食わせてもらっている人間が野球を賭博の対象にするということは、野球を冒涜することなんだ」(同)

 引退後の今も子供たちに野球を教えている愛甲氏は、「グラブやバットは、きれいに磨きなさい。そうすれば、いつか必ずグラブに助けてもらえるからな」と説くなど、「野球人としての心の持ち方」を何より重視している。

「野球人なら、誰もが『うまくなりたい』『試合に勝ちたい』と思うよね。そんな時、モチベーションを維持するために練習や円陣でお金を賭けるのは、許されることだ。逆に、野球賭博をしても野球はうまくならないし、試合にも勝てない。この2つの問題には、そんな違いがあるんだよ」(同)

 笠原氏、福田氏、松本氏、高木投手の4人が手を染めた野球賭博は、同じプロ野球人が「生活をかけて一生懸命に戦っている場」を賭けの対象にした。それがどのくらい罪深いことか、愛甲氏は「“野球愛”で考えればわかることだ」と断罪する。

 今回の野球賭博問題を「平成の黒い霧」などと報じるマスコミもあるが、半世紀近く前の「黒い霧事件」と異なり、4人には「敗退行為(八百長のために、わざと負けること)」はなかった。

 日本プロフェッショナル野球協約の「賭博行為の禁止及び暴力団員等との交際禁止」に違反したことは間違いないが、敗退行為は認められない。そのため、最も重い永久追放ではなく、無期限失格(笠原氏、福田氏、松本氏)という処分が下された。


●高木投手の謝罪会見に残る謎

 高木投手が会見を行った後、愛甲氏はツイッターで、以下のようなツイートをしている。

「何かファンもマスコミも煮え切らない会見だったんじゃないのかな? 謝罪をするのは当たり前だけど、真実と言う言葉を使いながらも本質の根っ子が全然見えてない気がする」

 波紋を呼んだ、この発言の真意を聞いた。

「野球賭博のアガリは裏社会に回るけど、誰もそこには言及しない。裏社会に通じる人間が接触してきたことなど、わかっているのにね。警察から『話すな』と言われていたのかもしれないけど」(同)

「週刊文春」によると、福田氏は過去に暴力団の名前を出して「いくらでも動かせる」と発言していたという。そして、前述のように、笠原氏と松本氏は「週刊文春」誌上で内情を暴露している。彼らは、自分が「裏社会の資金集めの道具」にされていたことに気付いているのだろうか。

 野球賭博に関与したことを真摯に反省する姿勢を貫いていれば、今後も野球に携わることができ、わずかながらにプロ復帰の道も残されていたかもしれない。しかし、笠原氏と松本氏は、自らその可能性を遠ざけてしまった。

 逆に、高木投手は、接触してきた人物について、「笠原さんの野球賭博の相手」という言い方を貫いていた。涙の懺悔をする姿に、楽天会長兼球団オーナーの三木谷浩史氏や、球界OBの張本勲氏が「道を閉ざすな」という趣旨のコメントをしている。世間も同情を寄せており、現在下されている謹慎処分も「しばらくすれば解けるのでは」と温情ある裁定を予想する声も少なくない。


 プロ入り前からさまざまな遊びを経験してきた愛甲氏は、最後に嘆息しながらつぶやいた。「その昔、“高校デビュー”はバカにされたものだけど、今回はさながら“プロ野球デビュー”だね」
(文=小川隆行/フリー編集者)

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