ストーカー事件など女性の一人暮らしを狙った犯罪は後を絶たないどころか、認知件数は確実に増えています。今回は不動産の専門家としての視点や経験から女性の一人暮らしの防犯対策について考えてみたいと思います。



●女性の一人暮らしは要注意!

 以前、ご自宅を購入した一人暮らしの女性のお客様から、引っ越しの挨拶をどうすればよいかという相談がありました。確かに女性の一人暮らしの場合、近隣への挨拶は意外と問題になるようです。

 隣近所へ挨拶をすれば、女性が越してきたことがわかってしまいます。特にワンルームなど、一人暮らしだとわかるような場合、危険を招く可能性もあります。一方、近隣への挨拶をしないことが原因で近隣住民との関係が築けず、嫌がらせを受けるようなこともあり得ます。こう考えると本当に悩ましい限りです。

 一人暮らしの女性が最も気になる点は、隣の住人が男性の一人暮らしか否かということになるかもしれません。

 筆者の知人が経営する不動産会社が管理しているワンルームアパートで、1階に住むある独身男性が原因で、周りの部屋に住む独身女性が3人退去したことがありました。

 この男性の隣に住んでいた女性は、防犯に対する意識が高く、カーテンを閉めていたにもかかわらず何度も窓越しに覗かれる被害に遭い退去。反対隣に住んでいた女性も、隣の人物の犯行というはっきりした証拠はないものの、干していた下着を盗まれた。また、スイッチを入れると外を見ることができるタイプのインターホンだったため、男性はそのインターホンで隣室の女性の外出・帰宅の様子を確認していたようで、それを気味悪がって退去した。この2人の女性は退去にあたり、「あの部屋の人が原因」と男性を指摘していたそうです。


 もう1人は、原因となった人物を指定したわけではなかったものの、最終電車などで遅くに帰宅した際、特徴のある服装の男性に何度かアパートまで後をつけられたことが遠因となって退去しました。後日、管理している不動産会社の担当者がその問題といわれていた男性居住者と会う機会があり、その時の男性の服装が女性の説明していた服装と酷似していたといいます。

 そのアパートは当初、住人の半分は女性だったのですが、その後すべて独身男性になったようです。

 この例では、結果的に住人女性たちが退去したため、大きな犯罪には至らなかったのですが、特にワンルームなどのマンションやアパートでは、やはり女性が1人で住んでいるという情報を近所に知られたくないというのが実情だと思います。

●引っ越しの挨拶はどうすればいい?

 では、女性の一人暮らしの場合、引っ越しの挨拶はどうすればよいのでしょうか。

 まず、基本的にマンションやアパートでは、引っ越しの挨拶は最低限「上下左右」の部屋へしたほうがいいといわれています。共同住宅では、音の問題などがあるので、自分が影響を及ぼしそうな範囲である上下左右の部屋へ挨拶することが基本と考えられています。ちなみに、引っ越しの挨拶時には、手土産を持参しなくても問題はありませんが、手ぶらは気が引けるという場合は1000円程度のあたり障りのないもので十分でしょう。

 2DKや2LDK以上のファミリー向けの住宅なら、基本的に挨拶しても大丈夫だと思われます。

 一人暮らしの女性がワンルームのマンションなどに引っ越す場合は、賃貸住宅であればアパートやマンションを管理している管理会社(またはオーナー)に、近隣に挨拶をするべきか否かを相談するといいでしょう。挨拶する場合、どの範囲の部屋に伺うかも聞いてみましょう。また、分譲マンションの場合、マンションの管理人または建物管理会社に相談してみるといいでしょう。
ちなみに、一戸建てなら自治会の人に相談するという方法もあります。

 その場合、「女性の一人暮らしで、下手に挨拶すると今は怖い時代なので」と説明して相談に乗ってもらえば、親身になって教えてくれるでしょう。

●日々の暮らし方

 引っ越しの挨拶ひとつとっても、女性の一人暮らしは十分に注意を払う必要があります。ということは、ほかにも注意すべき点があるはずです。そこで、女性の一人暮らし向けに注意するべきと思われる点を挙げたので、参考にしてください。

【住宅の位置】

 部屋を選ぶ際に、1階よりも上階が安全と考える方がいるようですが、2階以上だからといって安全とはいえません。周りからの目線、すなわち部屋の中から見て外にいる人と目線が合うような場所がないかどうか、また建物の外部からベランダなどへ進入できる経路がないか、洗濯物が外部から見えない高さにあるかなどに注意しましょう。

【錠】

 分譲系マンションなどに多いのですが、エントランスがオートロックだからといって安全ではありません。従って、自分の部屋の玄関はできれば、ダブルロックがいいでしょう。もともとドアにダブルロックが付いていなくても、自分で2つ目の錠を付けることもできます。

【周辺環境】

 駅からの帰り道に街路灯はあるか、車や人通りがそれなりにあるかなど帰宅の道のりの安全性にも注意を払っておきましょう。

【引越し】

 最近、多くの引っ越し業者では女性が担当する「レディースプラン」などがあるので、そのようなプランを選ぶことで引っ越しの際のトラブル軽減にもなります。


【入居中の注意点】

 入居中は、生活に慣れてくると隙がでてくるものです。以下のようなことに注意しましょう。

・洗濯物…洗濯物を夜間に出しっぱなしにしない。また、男性物の衣類を一緒に干すという方法も有名ですが、女性物の下着は外から絶対に見えないようにすることが大切。部屋に浴室乾燥機や室内干しできる器具などがあると便利。

・戸締まり…近くのコンビニエンスストアへ買い物に行くなど、わずかな時間の外出でも戸締まりを忘れず、また夜寝る前は必ず玄関、窓などすべての出入り口の施錠をチェックすること。マンションの最上階でも屋上から侵入される事件も多いので要注意。

・エレベーター…エレベーターは自宅に帰ってきたという安心感から意外と油断しがち。密閉空間になるので、同じ共同住宅の住人でも男性と2人きりになるのは避けたいところです。2人きりになりそうなときは、携帯電話に電話がかかってきたフリをしてエレベーターを降りるなど回避するようにしましょう。エレベーターに乗る前には、常に周りを1度見渡すクセをつけるといいでしょう。

・ゴミ出し…個人情報がわかる書類はシュレッダーで裁断するなど注意。
また、着古した下着などをゴミに出す場合は、ゴミ収集車が来る直前のタイミングで出し、できるだけゴミ集積所に置いておく時間を短くするように心がけましょう。

・表札…最近はファミリーでも表札を出さない家庭も多い。特に女性の一人暮らしの場合はマンションの集合郵便受け、玄関ともに表札を出さないほうがいいでしょう。

・郵便物…郵便物は毎日確認してポストに長い間放置しない。異変があれば、郵便局に確認して、問題があれば警察へ連絡する。

・電話…最近は一人暮らしの場合は携帯電話のみで固定電話を引かない方が多いと思いますが、固定電話がある場合は在宅中でも常に留守番電話にしておくこと。相手の声を聴いて、知人であることを確認してから電話に出るといいでしょう。
(文=秋津智幸/不動産 コンサルタント)

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