丸八真綿グループの持ち株会社、丸八ホールディングス(HD)が4月8日、名古屋証券取引所2部に上場する。インターネットビジネス全盛時代に、訪問販売という人海戦術で稼ぐ企業が上場するのだ。



 丸八真綿といえば、人気力士・高見山(後の東関親方)を起用したテレビCMを記憶している人が多いだろう。高見山がしゃがれ声で発する「マルハッチ」「2倍、2倍! 2枚、2枚!」のキャッチフレーズはブームになった。1977年に始まったこのCMは、CMの歴史に残るヒット作といわれている。以降、同社は有名人をCMに起用し続けてきた。

 だが明るい話題ばかりではなかった。丸八真綿は2012年、過労やパワハラなど雇用関連問題を多く抱えた企業を選定する「ブラック企業大賞」にノミネートされた。候補に挙げられた理由は次のようなものだ。

「丸八真綿は08年4月、製造部門のベテラン社員O氏に退職勧奨を行ったが、O氏が管理職ユニオン東海に加入して抵抗すると、『森田店』という訪問販売部門を新設し、そこに他の組合員2名とともに異動させた。

 さらに同社は09年2月、会社分割により新設した子会社『エム・フロンティア』に森田店の業務を継承。この会社にO氏を強制転籍させると、実体のある事業を何も始めないまま7カ月で同社を解散し、O氏は整理解雇された。

 現行の会社分割制度では、労働者は分割子会社への転籍を拒めないとされる。だが、O氏は、エム・フロンティアは従業員解雇のみを目的とするダミー会社であり、自分の転籍も無効と主張。
整理解雇後の未払い賃金・賞与の支払いなどを求めて会社を提訴した。

 11年3月24日、裁判所はO氏の主張をほぼ全面的に認めるかたちで和解を勧告。丸八真綿もこれをのみ、O氏に解決金(未払い賃金・賞与のほか、定年までの約2年分の将来賃金・賞与を含む)を払うことで解決した」

 裁判は丸八真綿の完敗であった。

 布団の訪問販売は、「押し売り商法」「クーリングオフ妨害」などの問題を業界全体で抱えている。上場会社となれば、社会から向けられる目は一層厳しいものになる。果たして丸八真綿は大丈夫なのか。

●経営陣は第2世代に移行

 丸八真綿グループは62年、岡本八二氏と岡本一八氏が静岡県浜松市で丸八織物を設立して布団の製造を始めた、寝具メーカーである。69年、丸八真綿に商号変更。全国に直営の販売店を設け、自社工場で生産する羽毛布団、羊毛敷き布団などの訪問販売のほか、ホテル・旅館向けの外販にも取り組む。布団のクリーニングやレンタルなど寝具関連サービス「おうちdeまるはち」をインターネット上で展開している。

 12年に丸八真綿による株式移転の方法で持株会社、丸八HDを設立。営業部門の丸八真綿、製造部門の丸八プロダクトなどグループ会社を統括する体制を整えた。
現在は持ち株会社を中心に31の子会社が、布団に関する一貫した業務を展開している。

 上場するのは、持ち株会社の丸八HD、社長は瀧口陽夫氏だ。丸八グループでは、訪問販売で実績を上げた社員がグループのトップに就くケースが多い。瀧口氏は生え抜きで、09年に丸八真綿の社長となり、12年の持ち株会社の発足と同時にHD社長に就いた。

 生え抜き社長とはいえ、丸八HDは創業一族の岡本家の同族企業だ。岡本典之会長は岡本一八取締役相談役の長男で、岡本八大副会長は岡本八二氏の長男だ。

 出資比率は一族の資産管理会社の洋大が63.93%、岡本八大氏が5.29%、岡本一八氏が4.56%、静岡銀行が3.14%、ほかに自己株式が13.65%ある。

 16年3月期決算の売上高は前期比5%増の220億円、純利益は20%減の10億円を見込み、配当は年30.0円を予定している。

 株式の公開価格は1株680円に決定した。だが、業態は地味で、取引所も名証2部と地味なため、初値が大きく上昇することはないだろうと証券関係者はみている。名証はチェックが緩いといわれている取引所だ。上場によって調達した資金は、寝具・リビング事業の生産設備の整備と不動産賃貸事業への投資に充当する。


 はたして、株価は「2倍、2倍」といくだろうか。
(文=編集部)

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