料理レシピサイトを運営するクックパッドで、経営陣の退陣を求める社員が団結して労働組合を設立したというニュースが話題になった。経営方針をめぐり社内紛争が続いていたクックパッドの将来を不安視した社員が決起したという。



 クックパッドは、創業者の佐野陽光氏と社長だった穐田誉輝氏が昨年秋以降、経営方針をめぐり深刻な対立状態になっていた。最終的には、佐野氏が穐田氏を社長の座から引きずり下ろしたのだが、これに社員が猛烈に反発。現経営陣の退陣を求めた署名活動が始まり、国内240名超の正社員のうち8割以上の署名が集まったという。今回の労組結成は、さらに一歩踏み込んだ行動といえるだろう。

 経営上の重要な決定に対して労組が意見を通知した場合、団体交渉を行わなければならないのだろうか。労働問題に詳しい浅野総合法律事務所の浅野英之弁護士は、次のように解説する。

「労働組合には労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)が憲法で認められています。会社側は労働組合から団体交渉を申し入れられた場合、原則として団体交渉に応じる必要があるのです。もし、団体交渉を正当な理由なく拒否すれば、『不誠実団交』『団交拒否』として不当労働行為と認定され、違法となります」

 ただ、どのような場合でも団体交渉に応じなければならないわけではない。適切な方法で申し入れられ、その議題が義務的団体交渉事項に該当するものに限られる。では、団体交渉の対象となる義務的団交事項とは何か。

「義務的団交事項とは、組合員の労働条件、当該組合と会社との間の労使関係の運営に関する事項のうち、使用者に処分権限のあるものがこれに該当するとされています。
義務的団交事項の例は次の通りです。

・賃金、退職金
・労働時間
・休日、休憩、休暇
・労働者の地位
・残業代
・配置転換、異動
・セクハラ、パワハラの防止措置、職場環境
・掲示板貸与、組合事務所としての利用等の便宜供与」(同)

 これを見る限り、経営権のあり方は団交事項ではないといえる。そうすると、クックパッドの現経営陣は、労働組合と話し合いをしなくてもよいのではないか。しかし、浅野弁護士は「安易な切り分けは危険」と指摘する。

「『経営権』がどの範囲かという明確な定義があるわけではないですし、現に裁判例においても、『経営権』とされていても、組合員の労働条件に関係する場合には団交事項となる、すなわち、拒否した場合には不当労働行為となると判断したものがあります。クックパッドのケースでは、経営陣の内紛がプロジェクトの停止、保留等の形で現場従業員の労働環境にも影響しているとのことですから、労働条件に関係するという説明ができる場合もあるかもしれません」(同)

 クックパッドは、佐野氏の意向で人事を大幅に刷新したため意思決定に滞りが出始めているとの指摘もあり、かなり異例のケースとなっている。料理レシピサイトの和やかなイメージとは異なり、今後もクックパッド社内は、労使入り乱れての大混乱に発展することが否定できない状態になっているといえるだろう。
(文=Legal Edition)

【取材協力】

浅野英之(あさの・ひでゆき)弁護士

浅野総合法律事務所代表弁護士


労働問題・人事労務を専門的に扱う法律事務所での勤務を経て、四ツ谷にて現在の浅野総合法律事務所(東京都新宿区)を設立、代表弁護士として活躍中。
労働問題を中心に多数の企業の顧問を務めるほか、離婚・交通事故・刑事事件といった個人のお客様のお悩み解決も得意とする。
労働事件は、労働者・使用者問わず、労働審判・団体交渉等の解決実績を豊富に有する。

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