国立・千葉大学の工学部に在籍していた学生が、女子中学生を連れ去り2年間監禁していたことが発覚し、波紋を広げている。

 この事件に敏感に反応した大学側の対応も異例なものとなった。

容疑者は3月23日に大学を卒業していたが、千葉大は事件発覚後の同月31日に、「卒業認定および学位授与を一旦取り消し、卒業を留保することを決定した」と発表したのだ。これは、実質的には学位(学士号)の取消処分にあたる。

 事件の内容も衝撃的だが、大学がとった対応が非常に厳しく、一部からは批判も出ている。そもそも、学業とは関係のない学外の犯罪を理由に、大学は学生や卒業生に不利益処分を課すことはできるのだろうか。

 大学の法律問題に詳しい、四谷国際法律事務所の甲本晃啓弁護士は、次のように解説する。

「例えば、在学中に万引きなどをした場合に、短期の停学処分をするということは珍しくありません。停学処分の結果、所定の単位が取得できず卒業できなくなることや、卒業に必要な単位を取得していても、事件が重大なために退学処分がなされ、学位の授与が受けられなくなることもあります。どのような処分をするのかは大学の裁量ですが、犯罪の内容と処分の内容が相応するものであれば処分は適法です」

 一方、停学・退学のような在学生に対する処分ではなく、一旦与えた卒業資格認定を取り消したり、あるいは学位を剥奪したりする処分は、たとえ事件が重大であっても難しいという。

「一旦与えられた卒業認定や学位を剥奪するというのは、法的安定性を著しく害することになるので、このような処分ができる場合も限定的に考えるべきです。私見ですが、このような特別な処分が許されるのは、本来、卒業資格認定や学位授与の基礎とされた事実に虚偽や不正があった場合に限られると考えるべきでしょう」(同)

 具体的に、どのような場合が卒業資格認定や学位授与の基礎とされた事実に虚偽や不正があったといえるのか。

「例えば、学位論文に重大な虚偽が認められる場合や、他人の業績を自己の業績として申告した場合などが、これにあたるでしょう。他方で、本件事件は社会的非難を浴びることは当然としても、大学の処分との関係では、考慮すべきでない事項を不相当に加重して考慮した『他事考慮』にあたり、その適法性には疑問が残ります」(同)

●手続き面では問題なしか

 また、仮に処分内容が適法だったとした場合、手続きに問題はなかったのかという疑問もある。


 容疑者は、まだ逮捕されただけで有罪判決が確定したわけではない。大学は、この段階で処分をすることができるのだろうか。

「現行犯的状況で逮捕された場合にように、誰の目にも事件内容が明らかな場合には、刑事裁判による司法判断を待たずに処分をしても差し支えない」と甲本弁護士は言う。

「確かに、今回の女子中学生監禁事件は、現行犯として逮捕されたわけではありません。しかし、被害生徒が容疑者宅から逃走して発見されたという状況等から、容疑者宅が監禁の現場であったことは明らかです。また、犯行発覚後に容疑者が逃亡して自傷行為に及んでいることなどを踏まえれば、事件の犯人である可能性は濃厚といえます。また、容疑者本人は成年であって、犯行を認める供述をしているといわれています。このような具体的状況からすれば、事件の違法性は明らかですから、逮捕段階でも大学は処分ができるでしょう」(同)

 今回の事件は、報道されている内容が真実であるなら、女子中学生を長期間自室に監禁するというセンセーショナルな内容で、大学に対する評価と信頼に少なからずマイナスの影響を与えたことは否定できない。手続きには問題がなさそうだが、卒業の可否は学問的な成果で決まると考えるならば、千葉大の決断が適切かどうかは疑問が残る。
(文=Legal Edition)

【取材協力】
四谷国際法律事務所
甲本晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
知的財産やインターネット上の問題に詳しい理系弁護士。企業や大学の法律顧問も手がける。

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