東京駅から京葉線に15分ほど乗ると、もう千葉県だ。浦安市・舞浜駅の駅頭はとてもカラフルだ。
ところが、ディズニーリゾートとは逆側の北口から出て京葉線を追うように15分ほど歩くと、南口にある「夢の国」とは対峙するような舞浜の別の顔が見られる。
県道276号線で橋に出ると、左から流れてきている見明川が右側はもうすぐに海に続いている幅広な工業水路となっている。水路の両側には運搬船が接岸できる大型の工場がびっしり立ち並んでいる。
さらに左手に桜を愛でながら進むと、橋から数えて最初の交差点に「浦安鉄鋼団地」という大看板が見える。そこを右に入ると「鉄の国」が姿を現す。その町名は「鉄鋼通り」という。県道から入るわき道のはずなのに、左右4車線、幅広な道がずっと海まで続く。道には大型トラックが行きかい、道の左右には天井が高い大工場がびっしり並び壮観だ。
鉄鋼団地の入り口にある「浦安鉄鋼会館」で、浦安鉄鋼団地協同組合の加藤里行(のりゆき)専務理事に話をうかがった。
●東日本の鋼材需要を支えている「鉄の市場」
――すごい団地ですね。広さはどのくらいあるのですか。
加藤里行氏(以下、加藤) 約108万平方メートル(32.7万坪)ほどのなかに、270の事業所が入っています。団地で働いている従業員の数は4000人を超えています。
――東京ドームの23個分という広さですか。事業所というのは、すべて鉄鋼関係なのですか。
加藤 はい。ここは鉄鋼関係の団地として造成されたので、鉄鋼を加工する工場や鉄鋼を保管する倉庫などが集結しました。第1期が1968年に、第2期が79年に引き渡しされたのですが、第2期造成分には第1期ですでに進出していた会社のみが申し込めたので、全体での企業数は200社ほどになっています。事業所の「敷地コマ」は400坪が単位で、4コマを使用している工場も多くあります。
――2つの工場を持っている会社もあるわけですね。しかし、日本に工業団地は数あれど、同じ業態だけでこれだけの団地が造成されているのは珍しいですね。ほかに聞いたことがありません。
加藤 はい。
●鉄の秋葉原
――270もある鉄関連の事業所は、具体的にどんなビジネスをしているのですか。
加藤 川上である製鉄所というか鉄メーカーからは、板はもちろんパイプや棒状鋼、H形鋼などさまざまな形状の鋼材が出てきます。それらを在庫として保管販売する流通機能があります。それから、ユーザーの使い勝手によりそれらの素材を切ったり、曲げたりする加工機能があります。
――団地内の工場はクレーンを使うので、とても天井が高いのですね。
加藤 そうです。また、各工場では対応している加工が異なることがあるので、互いに加工委託しているケースもあります。加工といっても「切断」だけでシャーリング、ガス溶断、プレス抜き、レーザー切断などが、「曲げ」ではベンディング、ロールフォーミングなどの各種技術が駆使されています。その他にも溶接、切削などの加工があるのですが、各事業所で行っている加工範囲が異なっています。
――在庫、加工、流通、つまり魚でいうと築地市場ですね。
加藤 業種は違いますが、そうですね。当団地で流通している扱い量は、出荷ベースで年間約500万トンあります。これは全国で流通している鉄材の8%近くになるのですが、東日本だけでいえばその割合はさらに大きくなります。
――出荷先は首都圏だけではないのですか。
加藤 青森県や宮城県からも注文が来ています。遠くから大型トラックを仕立ててきても、鉄鋼団地に来れば鉄材が揃わないことはない、といわれています。
――それでは「鉄の秋葉原」ですね。
●東京五輪需要への期待と、その後の心配
――11年の東日本大震災の復興需要などで、建設業界の業績は絶好調です。鉄鋼業界も潤っているのでしょうね。
加藤 鉄鋼メーカーなどの川上はともかく、加工流通業界にはまだ十分に影響が及んでいないのが実情です。
――業界の皆さんは、市況をどう見ているのでしょうか。
加藤 団地の加盟社に「景況実感調査」を毎月しているのですが、月商額が対前年同月と比べて伸びている会社数は短期的には減少しています。
――当団地は発足半世紀で、足元の業況が思わしくないということですね。経営の後継者問題などで、事業者数は減少しているのでしょうか。
加藤 経営者は2世どころか、3世の世代に入っているところも珍しくありません。この団地は鉄鋼関連の会社でなければ入居できないのですが、事業所が減少しているということはありません。
――当団地の各社が直面している問題には、どのようなことがありますか。
加藤 他業界にも起こっていることでしょうが、人手不足が問題となるかもしれません。特に鋼材の配送は大型トラックを使うので、その運転手確保が心配です。また、問題ということではありませんが、当組合は近隣との融和を運営の最重要課題としています。
騒音や環境汚染の問題はありませんが、大型トラックが出入りしますので、交通事故を起こさないよう、各事業所に強く要請しています。また、近隣自治会とも互いに話し合える関係を構築しています。
――直近の新しいビジネス的な動きがあれば教えてください。
加藤 川上である鉄鋼メーカーが需要家に製品を直送する動きが出てきました。当団地としては、在庫と加工の両方の機能を担った流通基地としての位置づけをますます強化していかなければならないと思っています。それが需要家に対する当団地総体としての付加価値となるかと思います。
――ありがとうございました。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)