私たちは、いったい何を食べさせられているのだろうか――。
1月、「カレーハウスCoCo壱番屋」の廃棄カツが横流しされていた事件が発覚し世間を震撼させたが、廃棄ローストビーフも消費者の口に入っていたことがわかった。
2013年11月、メニュー表示偽装事件の渦中に発覚した結着剤使用ローストビーフ「京都吉兆 京都牛ロースト」の製造元が丹波ワインだった。このローストビーフは、いくつかの肉塊を結着剤で結合させたものだ。丹波ワインは、京都吉兆だけでなく自社でも販売していたが、食品衛生法を指摘され販売中止に追い込まれた。その時自主回収した約50kgのローストビーフを、保健所に「廃棄する」と報告していた。
ところが実際は一部は廃棄したものの、ほとんどは廃棄しないで冷凍庫に保管していた。そのローストビーフを14年4月から15年4月にかけて「赤ワイン煮込み」や「サンドイッチ」「牛ロースト丼」として販売していたのだ。
●食中毒の恐れ
なぜ結着剤入りのローストビーフが食品衛生法違反になるのかというと、食中毒のおそれがあるからだ。牛の生肉、脂身等を人工的に結着し形状を整えたものは「成型肉」と呼ばれる。成型肉には、丹波ワインのローストビーフのように肉の塊(ブロック)同士を結着剤で接合したものや、メニュー表示偽装で多く見られた牛脂注入肉、挽き肉状にした肉を固めた冷凍サイコロステーキなどがある。その際、結着剤として添加物(カゼインNaやリン酸塩など)や植物性たん白を使うことがよくある。
牛肉は、表面にO157などの大腸菌が付着していることが多い。丹波ワインのローストビーフのような成型肉は、肉の表面と表面を結着するので、結着された牛肉の内部に大腸菌が入る。牛脂入りの成型肉は、肉塊に針を刺して注入するので、表面の大腸菌が針と一緒に肉の内部に入る。
そうした成型肉を内部まで十分に加熱しないで食べると、内部に入り込んだ大腸菌が死滅せず食中毒を引き起こす可能性がある。だから、内部まで加熱しないで食べるステーキやローストビーフ、牛タタキなどは、肉の塊や肉の塊を切っただけのものでなければならないと食品衛生法で定められている。
廃棄カツも廃棄ローストビーフも、たまたま食中毒が発生していないが、表面には出ていない家庭内食中毒は発生していたかもしれない。日本の場合、複数の人が同じ店で同じものを食べて同じ種類の食中毒にならない限り、店や原因食材が特定されることはない。もちろん、あとから「あの店で食べた○○で食中毒になった」と言っても、証明できないので食中毒として集計されることはない。実際の食中毒は、統計の数字よりはるかに多いといわれている。
廃棄カツは、いったん解凍されているなど保管状態に問題があるので食中毒の心配もあるうえ、廃棄理由が異物混入ゆえに異物を食べてしまう危険性まであった。廃棄ローストビーフの場合、赤ワイン煮込みは中心部まで加熱が十分されたかもしれないが、サンドイッチや牛ロースト丼は十分加熱されていない可能性がある。
廃棄カツも廃棄ローストビーフも、幸いにも異物摂取や食中毒が発生していないにすぎない。
●機能しない行政
それにしても、事業者のモラルの欠如がはなはだしいのには驚かされる。壱番屋の廃棄物を食品として横流ししたダイコー、行政機関に対し廃棄を約束したのに使用した丹波ワイン、どちらも「捨てるより売ったほうが儲かる」という食の安全より利益を優先した行為だ。しかも、どちらも健康被害を与えていないということで、重大な法律違反に問われそうもない。
国や地方行政機関はなめられたものだ。ダイコーには愛知県が何度も立ち入り調査に入っているが、隠し倉庫の存在さえ見つけることはできなかった。丹波ワインは、保健所に廃棄すると報告しているのに、簡単に約束を反故にしている。
どちらも、食の安全を守るための法律の甘さと行政の力不足が引き起こした事件である。それにもかかわらず、国や行政から危機感は伝わってこない。このままでは、こうした事件の再発は防ぐことができないだろう。「廃棄食品を食品として流通させてはいけない」という法律をつくるべきだ。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)