ロート製薬といえば、世間的には目薬の会社だと思われているだろう。筆者などは子供時代に聞きなれた「ロート、ロート、ロート~」というメロディがすぐに思い浮かぶ。



 そのロート製薬が、いつの間にか化粧品メーカーともいえるほど化粧品事業の割合が大きくなっていることは意外と知られていない。2016年3月期の決算をみると、目薬などアイケア事業の売上高が287億円なのに対し、肌ラボ(肌研)などスキンケア事業の売上高は1019億円と全体の67%も占めているのだ。2000年代の初めに比べて化粧品事業は4倍もの成長を達成しているが、既存の化粧品メーカーが苦戦するなかでこの業績は見事といってよい。

●100年企業の風土改革
 
 長寿企業が突出して多い日本において、ロート製薬も100年の歴史を誇る老舗企業だ。奈良県生まれの山田安民氏が大阪で信天堂山田安民薬房を1899年(明治32年)に創業したのがその始まりだ。その弟である津村重舎氏は、東京日本橋に漢方薬局「津村順天堂」を開いているが、これが現在のツムラである。

 創業からちょうど100年後の1999年、ロート製薬の社長に就任したのが現会長でCEO(最高経営責任者)を務める山田邦雄氏だ。当時、ドラッグストアが台頭しはじめ、市販薬が価格競争に陥りつつある状況に危機感を覚え、山田会長は老舗企業の改革に舵を切る。肩書きで呼ぶのをやめ、役員室を撤廃し、意味のない序列を排除し、社員の意見を吸い上げようとしてきた。

 山田会長の机も、社員たちが仕事をしている大部屋の一角にある。社員は皆ロートネームというあだ名を持ち、山田会長は社員から「邦雄さん」と呼ばれている。「邦雄さん」は社内を歩き回り、気軽に社員に声をかけ、社員同士の雑談にも参加する。


●肌ラボの商品化

 商品としてはよく知られているが、それがロート製薬の商品だということはあまり知られていないものに肌ラボがある。実はロート製薬は化粧水では日本一のシェアを持つ。ロート製薬の化粧品事業が2000年代中頃から急速に伸びたきっかけも肌ラボだ。

 肌ラボも山田会長の改革がもたらした成果のひとつだ。04年に中途入社してきた村本由理氏が入社したその年に提案して実現したものだ。この時も、山田会長がふらっと雑談に参加し、村本氏が化粧水についてのアイデアを話したところ「いいんじゃないの」と背中を押した。開発チームは村本氏を入れて4名、そのうち3人は20代、しかも新入社員もいたという。それからわずか半年後、商品化にこぎ着けている。

 当時まだあまり知られていないヒアルロン酸をたっぷり入れて保湿効果を高めつつ、価格は求めやすい1000円に抑えている。コストを削減するため、化粧品には常識であった外箱をなくし、成分を記載したシンプルなパッケージとし、香料・着色料を一切使用していない。化粧品の常識に挑戦するものであった。

 結果は、わずか半年で15億円を売り上げるヒット商品となったのである。
10年後には140億円を売り上げるまでに成長したが、そのきっかけは山田会長がふらっと立ち寄って加わった雑談だ。

●草の根レベルのオープンイノベーション-副業を許容する-

 そのロート製薬がまた新たな試みを発表した。社員の副業を認める「社外チャレンジワーク制度」だ。終業後の時間や休日を使って社外で働くことを容認するというものだ。この2月に入社3年目以降の国内正社員1500人を対象に応募を開始したが、60人強の応募があったという。薬剤師の資格を生かしてドラッグストアで働き始めた社員や、出身地の地ビールの製造販売を目指してベンチャーの設立準備を始めた社員もいるという。

 兼業は社外だけではない。社内で複数の部署や担当を兼務する「社内ダブルジョブ」制度も始めている。こちらは30人ほど応募があり、化粧品と目薬を担当したり、営業部とマーケティング部、マーケティング部と人事部を兼務したりする社員も出始めた。

 企業はさまざまな理由から兼業禁止をうたっているところがほとんどであろう。その一方で、オープンイノベーションを口にしたりする。社外での副業や社内での兼業を許容するというのは、企業がオープンイノベーションに真剣に取り組んでいる証拠なのではないだろうか。

(文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授)

【参考文献】
1.「ロート 副業60人強 新制度応募『社内兼務』には30人」、日経産業新聞2016年6月15日

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