昨年度のプロ野球セントラル・リーグ覇者、東京ヤクルトスワローズ。今シーズンは投手陣の崩壊、ケガ人続出という、何年か前とよく似た状況で最下位に甘んじている。

そんなチーム成績に反して好調な数字を維持しているのが、観客動員数だ。

 公式発表によると、2015年は1試合平均2万3021人。チーム名に「東京」がついた06年以降、1試合平均の入場者数が2万人を超えたのは、14年ぶりの優勝を果たした昨年が初めてだ。その勢いは今シーズンも継続中で、日本野球機構(NPB)公式発表によると48試合を終えた時点で1試合平均入場者数は2万3738人。確かに、いつ神宮球場へ行ってもヤクルト応援席である1塁・右翼側は大勢のファンで埋まっている。

 近年、筆者は年間60試合ほどプロ野球を観戦しているが、初めて神宮球場で観戦した03年は、ふらっと行っても自分の好きな席で野球が見られるほど空いていたが、今はそうではない。日によっては、発売と同時にチケットを買っておかないと「完売」の文字がチラつくような対戦カードもある。チームが強ければ観客が多いのは当然だが、お世辞にも今年のヤクルトは「強い」とはいえない。それでも、ファンは神宮球場へ足を運んでいる。一度増えたファンを手放さないよう、球団はどのような戦略をとっているのだろうか。

 筆者は、「公式ファンクラブのIT化」と「バリエーション豊富なグッズ展開と、“一緒に戦う”応援スタイル」が大きいと感じている。

●公式ファンクラブのIT化

 公式ファンクラブの名称は「Swallows CREW(スワローズクルー)」。
昔はファンクラブの活動もあまりなく、何をしていたのかもわからなかった印象だが、08年にリニューアルされスワローズクルーの名称となってからシステムをIT化した。

 現在、スワローズクルーには有料プランと無料プランを含め6種類の会員プランがある。会員数が一定数に達した場合は受付終了となるが、16年はすでに無料会員を含めすべて入会受付が終了している。14年は9月7日、15年は8月24日と、ここ数年新規入会受付を終了するペースがどんどん早まり、今年も7月18日に終了した。ファンサービスにおいて、ファンクラブの充実に重点を置いた球団の努力が実を結んでいる状況がわかる。

 シーズン中に5回以上神宮球場へ足を運ぶ人には、ファンクラブの入会をお勧めしたい。実際、スワローズクルーメンバーになって良かったと思う理由は3つある。ひとつはチケット代が一般価格より500円安くなり、QRコードを使って当日球場でチケット発券ができること。プレイガイドで購入するときに発生するシステム手数料も、QRコード発券なら無料だ。

 2つ目は先行発売があるため、いち早く希望の座席を買えること。インターネットで先に購入できるので、前もって購入列に並んだりチケットを紛失したりすることもない。

 3つ目は、「スワレージ」という電子ポイントの付与だ。
チケットやグッズ購入時だけではなく、来場時、勝利時、自分の応援する選手がお立ち台に立った時にも付与される。塵も積もれば山となるといった具合に、ポイントが貯まれば限定グッズとの引き換えや、チケットとの交換もできる。2シーズンにわたって使用できるので、少しずつ使っても、貯めることに専念してレアグッズと引き換えてもいい。

 QRコードチケットや、ファンクラブサービスをIT化している球団は少なくないが、スワローズもそのサービスに参入したことで、新しい世代のファンを多く獲得している。

●バリエーション豊富なグッズ展開と、“一緒に戦う”応援スタイル

 スワローズは何年かに一度、球団の顔となる選手が必ず登場する。今でいえば、15年に3割・30本塁打・30盗塁の「トリプルスリー」を達成した山田哲人や、今季5年ぶりの復帰登板をした由規の存在も大きい。そんなスター選手が活躍したり、サヨナラ勝ちなどでヒーローが出たとき、「限定Tシャツ」を販売するようになった。そのTシャツには、お立ち台に立った選手の名(迷)言も入ったりするので、どんなデザインが登場するか楽しみにしているファンも多い。

 スワローズは、以前はグッズの種類が少なく、どちらかといえばダサいイメージがあった。特に女性ウケは悪かった。しかし、最近は多種多様なグッズが発売され、試合開催日の公式グッズショップはたくさんの人で賑わっている。

 根強い人気を誇る公式マスコット「つば九郎」のグッズだけでも、定番のタオルやTシャツをはじめキッチン用品やベビー用品、お菓子まで販売されている。
そして、収集欲をくすぐるガチャガチャも人気だ。スワローズの応援では必需品といえるビニール傘につける「傘チャーム」が入っているものもある。何種類も集めている人もいれば、お目当ての選手のものを出すために散財しているファンの姿も多く目にする。

 このほかにも、レプリカユニフォームが来場者全員に配布されるイベントや、選手の記録達成がかかった試合、そしてスワローズ選手にありがちな復活劇が期待される試合には、大勢のファンが来場する。得点すれば傘の花が満開となり、さらに選手と同じデザインのユニフォームを着用することで生まれる球場の一体感は、ファンに「一緒に戦っている」という気持ちを与える。

 これらの戦略は、球団だけで考えて展開しているわけではない。スワローズクルー宛に定期的に配信されるメールの開封率やアンケートの意見を参考に分析をし、常に試行錯誤しながらサービスを展開している。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)での発信だけではなく、ファンクラブもIT化し、ファンが求めているサービスにより近いものとなった結果が、近年のファンクラブ加入者数と観客動員数の増加として数字に表れているのだ。

 各球団それぞれに、特徴のあるファンサービスが見られるなか、ファンが求めるものはどんどん大きくなっていく。そんなファンを飽きさせないために、球団もさらなる進化が求められるだろう。

 さまざまな戦略を練り、集客しているとはいえ、やはり最大のファンサービスはチームの勝利だ。残り少なくなってきたペナントレース、満員の神宮球場で前年王者の意地を見せてほしい。

(文=唐沢彩野/Sportswriters Cafe)

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