現在開催中のリオデジャネイロオリンピックで、日本のお家芸である柔道に復活の兆しが見えた。8月13日に終了した男女柔道で、日本は過去最多の12個のメダル(金3、銀1、銅8)を獲得、特に男子は7階級制となったソウル大会以降、初めて全階級でのメダル獲得という快挙を成し遂げた。
2012年のロンドン大会では、メダル7個だった日本柔道。金メダルは女子57キロ級の松本薫だけに終わり、男子は初のゼロという屈辱的な結果に終わったが、今大会で復権を印象付けた。スポーツライターが語る。
「やはり、白眉は男子。これまで“鬼門”といわれていた90キロ級で初めてベイカー茉秋が金メダルを獲得した上、100キロ級で羽賀龍之介が銅メダル、100キロ超級で原沢久喜が銀メダルと、日本柔道の象徴でもある重量級で結果を残したことが大きい。
特に、初出場の原沢は大きすぎるプレッシャーを背負う中、決勝ではロンドン大会金メダリストのテディ・リネール(フランス)に指導ひとつの差で惜敗したが、組み手を嫌って逃げ回るリネールには会場からブーイングが浴びせられており、『原沢は試合に負けて勝負に勝った』というのが記者たちの共通認識。男子の選手は7人中6人が20代前半で、4年後の東京大会に向けても大きな希望が持てる内容だった」
●不祥事続きの柔道界を救った井上康生
また、柔道に詳しいフリージャーナリストは「リオ五輪での好成績は、単純に『復活』というだけでなく、暗い話題が続いていた日本柔道界に光明を見いだしたという点で、大きな意味を持つ」と語る。
ロンドン大会での惨敗後、その責任を取るかたちで男子の篠原信一監督が辞任し、現在の井上康生監督が誕生した。13年には女子の園田隆二監督が選手15人から暴力問題を告発されるパワハラ騒動が勃発して辞任に追い込まれた上、吉村和郎強化委員長は助成金の不正流用疑惑が発覚して退任するなど、全日本柔道連盟の不祥事が続いた。
さらに、15年1月には柔道界の精神的支柱だった斉藤仁が死去、引退して参議院議員となっていた谷亮子氏は12年と15年に二度も不倫疑惑を報じられるなど、日本柔道の威信が崩されるような出来事が続いた。そんな中での日本柔道の再浮上は、「井上監督の理知的な指導によるところが大きい」(フリージャーナリスト)という。
●天才肌の篠原信一は監督としては“無能”?
「井上監督は就任時に日本柔道の弱さを受け止め、課題を見極めることで論理的に男子柔道を引っ張ってきた。
篠原氏が徹底した長時間練習と精神論のみで選手を鼓舞していた姿勢とは対照的ですが、これは井上監督が引退後にスコットランド留学で指導法などを研究していた経験が生かされているのではないか。
篠原氏は、その体格と圧倒的なパワーに目が奪われがちだが、技のキレやタイミングは天才的だった。そのため、自分の感覚を他者に伝えるという点ではうまくいかない部分があり、正直なところ、監督としては『無能』といっても過言ではない。ちなみに、同じく天才肌という理由から、柔道初の五輪3連覇を果たした野村忠宏氏も、指導者には不向きなタイプといわれている。
しかし、井上監督は、シドニー大会で金メダルに輝いた後のアテネ大会では連覇を期待されながら惨敗、現役終盤はけがで思うような柔道ができないなど、苦渋を味わった時期もあった。そのため、選手との信頼関係の構築にも力を注いだことが、ベイカーの『井上監督に恩返しできた』という発言にもつながっている」(フリージャーナリスト)
井上監督は帰国後の会見で「畳の上で選手たちが『日本柔道ここにあり』ということを世界に示してくれた」と喜びを表したが、4年後については「こればかりはわかりません」と語るにとどまっている。しかし、東京大会でも再び井上監督率いる男子柔道の躍進を望む人は多いのではないだろうか。
(文=編集部)