近年、地上波テレビ中継の視聴率低下や放送機会の減少もあって、プロ野球人気は低迷しているといわれてきた。さらに、今シーズンは開幕前に元スーパースター選手の薬物逮捕、昨年来の野球賭博による現役投手の失格処分などもあって、ファン離れの加速を心配する声が上がった。

ファンにそっぽを向かれて国民的娯楽の座から転げ落ちるプロ野球、という懸念が高まった。

 しかし、実際に球場に足を運んでみると、ちょっと様子が違う。試合が始まってから球場に着いた場合、自由席を確保するのは一苦労だ。ひと昔前には平日であれば可能であった、左右の席に荷物を置き、前の席に足を投げ出して観戦することなどできない。数年前まで当日券を買えたカードが前売り完売といったこともよくある。人気が低迷しているはずの野球場にファンがあふれているのだ。

 実は、観客動員を見ると、人気低迷どころか史上空前といってもいいほどの野球人気が訪れている。実数発表が始まった2005年、12球団合計で1992万4613人だった観客動員数は、東日本大震災後の落ち込みはあったものの、12年から右肩上がりになっている。

 昨シーズンは、過去最高となる2423万6920人に達した。かつて不人気とされてきたパシフィック・リーグも、14年に初の年間動員数1000万人を突破、昨シーズンも過去最多となる1072万6020人を集めた。セントラル・リーグの1351万900人は、1992年の1384万1000人や04年の1377万人には及ばないが、これらは主催者発表の「水増し分」があったといわれているため、実質的に過去最高といっていい。

 これらの傾向は、チケットの割引販売や来場ポイントの導入といった各球団のファンクラブの努力、チケットのネット予約が一般化するなど手軽に野球を観戦できるようになったこと、トイレの改修やスタジアムグルメを充実させるなど観戦環境の向上によって主に女性を中心に観客層が広がったこと、そして04年に起きた球団合併騒動以降に各球団が地域に密着した球団運営をするようになり、身近な存在になったことなどが挙げられるだろう。


 中継視聴率の低下に見られるように、野球そのものの魅力が上がったわけではないかもしれないが、各球団が地道なファンサービスに力を入れたことで、着実に集客効果が上がってきた。娯楽の多様化により、野球が「見るスポーツ」のオンリーワンから単なる選択肢のひとつになってしまったのは確かだが、そんななかでも有料放送でのテレビ観戦では飽き足らず、実際に球場に足を運び生のプレーを見ようという熱心なファンが増えているというわけだ。

●10年前との比較で見えてくる今季の盛況ぶり

 昨今の球場がどれだけ盛況か、各球団の本拠地での「平均収容率」を今シーズンの前半戦(7月13日まで)と06年シーズンとで比較してみた。

 収容率は、球場の収容人数に対する観客動員数の割合だ。動員数のカウント方法は球団によって若干の違いがあるようだが、原則として有料入場者のみをカウントしている。ただ、立ち見などもあるため、収容率が100%を超える試合もあり、逆に100%を割り込んでいてもチケット完売の札止めとなっていることもある。収容率が9割を超えていれば、どの席に座ってもほぼ前後左右に人がいる「満員状態」と考えてよいだろう。
 
 06年、1シーズンで185回だった収容率9割超の「満員状態」は、今シーズンは前半戦だけで173回もあった。読売ジャイアンツ(巨人)、福岡ソフトバンクホークスは平均収容率9割超、広島東洋カープ、横浜DeNAベイスターズ、阪神タイガースなども9割に迫っている。どうりでチケットがとりづらいわけだ。

 広島はチームが好調ということもあるが、06年と比べると平均収容率は倍増の勢いだ。09年に新球場なって以来、推し進めてきた米メジャーリーグ流のボールパーク化や、「カープ女子」などファン層拡大の施策が実を結んだ。


 長らくセ・リーグのお荷物的存在だった横浜は、10年前と比べ平均収容率は約36ポイント増し。親会社がDeNAに替わって以降、エンタテインメント産業らしくファンサービスに力を入れるようになった。放置状態だったファンクラブにテコ入れし、今シーズンはレギュラー会員は年会費3000円で、一般料金3900円のチケットが最大2枚ついてくる。球場に足を運ばせる仕組みをつくったことが功を奏した。これまでも、トイレの改修やボックスシートの導入など球場インフラの整備を進めてきたが、今年1月に本拠地・横浜スタジアムの運営会社を買収・子会社化し、さらなるボールパーク化を図っていく。

 地域密着に特に力を入れ、大谷翔平や中田翔といった観客の呼べるスターがいる北海道日本ハムファイターズの平均収容率が67.31%で12球団最低というのは意外だが、これはチーム名に北海道を冠しているように、観客動員の対象地域が広範なこともあり、平日の集客に苦戦しているためだ。満員状態になったのも開幕戦を除く8回が土日祝日で、休日に限れば収容率は88.24%にまで跳ね上がる。

 同じく地方都市を本拠地とし、後背地の小さい宮城・仙台の東北楽天ゴールデンイーグルスは、週末の爆発的な動員はないが、平日もまずまず集客し76.63%でソフトバンクに次いで平均収容率パ・リーグ2位につけた。球場に観覧車やメリーゴーラウンドを設置するなど大掛かりなものから、年会費10万500円から500円、子ども向け、女性向けなどニーズに合わせたファンクラブのコースを用意し、チケット購入や球場での飲食で楽天ポイントが貯まる仕組みも整えるなど、リピーターを増やすことに成功し、安定した集客を図っている。

 軒並み集客好調ななか、元気がないのが中日ドラゴンズだ。06年の平均収容率は阪神、巨人の人気球団に次いで3位の88.22%だったが、今シーズン前半は8割を割り込んだ。満員状態も開幕以降1度しかない。
監督が半強制的に休養させられるようなチーム状態では致し方ないということか。

 06年の中日は落合博満政権の最盛期で、リーグ優勝を果たしている。やはりチームが強いときのほうが、弱いときよりも球場に行ってみようというファンが増えるのは自然の成り行きではある。「チームは強いがファンサービスに消極的で、観客動員が伸びない」というのが、11年に落合氏が監督を退任した理由だったのは皮肉だ。
(文=石川哲也/Sportswriters Café)

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