黒木華、有村架純、高畑充希、蓮佛美沙子ら実績十分の主演女優から、松岡茉優、杉咲花、黒島結菜、芳根京子らの次世代ヒロインまで、“昭和顔”の女優が人気を集めている。

「地味」「あか抜けない」というイメージのある昭和顔が大活躍しているのは、なぜなのか? かつては、目鼻立ちのハッキリした顔が“華のある女優像”だったのだが、いつから変わったのか? トップ女優の顔にまつわる歴史を振り返りつつ、昭和顔女優の魅力をひも解いていく。



●親近感=人気を決定付けた『あまちゃん』

 まずはドラマ業界で、どんな顔の女優が人気と主演の座を獲得してきたのか、時系列で振り返ろう。

 ドラマの作品数が一気に増えた1980年代中盤で人気を集めたのは、“キュートなTHE アイドル顔”。歌手としての人気をベースにした中山美穂や斉藤由貴、大映ドラマのいとうまい子や伊藤かずえらの「アイドルのさまざまな表情を愛でる」という色合いが濃かった。

 80年代後半に入ると、“カリスマ性のある美人顔”が台頭。浅野ゆう子、浅野温子、沢口靖子らの化粧映えする端整な顔立ちの女優がドラマ界をけん引し、アイドルから脱皮した中山美穂もこの流れに乗った。

 90年代になっても美人顔の時代は続き、鈴木保奈美、清水美沙、仙道敦子らが発掘され、宮沢りえ、観月ありさ、牧瀬里穂、桜井幸子らの若手にまで拡大。その後も、瀬戸朝香、和久井映見、常盤貴子、菅野美穂、松嶋菜々子らの美人顔路線が10年以上続いた。

 2000年代に入ると、天海祐希、米倉涼子、篠原涼子らの“カッコよさが武器のハンサム顔”が、女性からの圧倒的な支持を獲得。その一方で、深田恭子、上戸彩、井上真央、綾瀬はるか、石原さとみ、長澤まさみ、堀北真希、新垣結衣らの若手女優が次々に主演を飾り始める。

 いずれも美しさは変わらないものの、彼女たちの特徴は“親しみやすさ”。不景気やインターネット普及の影響で、世間がタレント全般に「オーラやスキルよりも、親しみやすさを求める」ように変わったからだった。

 10年前後では、「仲の良さが売りのアイドル」嵐、「会いに行けるアイドル」AKB48の人気が爆発したように、さらに親近感=人気の時代になった。
ドラマ業界でそれを決定づけたのが、13年に放送されて国民的ドラマとなった『あまちゃん』(NHK)。

 有村架純が演じた“聖子ちゃんカット”の昭和顔キャラが、老若男女を問わず人気を集め、それ以降、昭和顔の女優が次々に台頭していった。

●汎用性が高くNHKに重宝される昭和顔女優

 昭和顔女優の特徴といえば、「薄めの顔立ちにもかかわらず、ナチュラルなヘアメイクをしている」ことだが、この飾らない姿勢が視聴者に親近感を与えている。イメージとしては、「無垢さ、控えめさ、奥ゆかしさ」などを持つ、古き良き日本人女性。感覚としては、昭和時代というより、普遍的な日本人女性といったほうがいいかもしれない。

 その普遍的な日本人女性のムードを若手女優が醸し出すのだから、制作サイドが起用したくなるのも当然。「何色にも染まっていない」「いい意味で個性がない」というニュートラルな立ち位置から、良い人や悪い人、明るい人や暗い人、熱い人、セクシーな人、怖い人など、さまざまなキャラクターの役柄に自分を振り、作品にスッと溶け込むことができる。

 そして、ひとつの作品が終わったら、またニュートラルな立ち位置に戻ってきて次の作品に備えられるのが強みだ。イメージが固定されにくいため、立て続けに連ドラ出演しても、CMが大量放送されていても、飽きられるリスクは少ない。

 主演でも助演でもOKだし、目鼻立ちのはっきりしたモデル出身の女優と並んで、相手を輝かせることもできる。さらに、演じられる年齢の幅も広く、ヒロインの生涯を追うNHK連続テレビ小説(朝ドラ)などの大作に最適……と次々に使い勝手の良さが挙がるように、汎用性の高さは特筆すべきものがある。

 朝ドラは、現在放送されている『とと姉ちゃん』の高畑充希に続いて、今秋スタートの『べっぴんさん』では芳根京子、来春スタートの『ひよっこ』では有村架純がヒロインを務めるなど、今や昭和顔の寡占状態。
着物、割烹着、もんぺ姿が似合う彼女たちは、大河ドラマや時代劇にも起用されやすいなど、とにかくNHKに重宝される。

「半年間にわたって週6日放送される」朝ドラ、「1年間にわたって毎週放送される」大河ドラマの両方で主演を務めた松嶋菜々子や宮崎あおいのように、国民的女優になれる可能性は十分なのだ。

●中高年視聴者を狙った昭和顔の起用も

 昭和顔は、若年層には新鮮さを、中高年層には懐かしさを感じさせるなど、年齢性別を問わず好かれやすい。特に男性は大半の人々が、昭和顔の女優に恋愛感情を動かされる。若年層は年齢相応のリアルな恋愛対象として、中高年層はかつてのクラスメイトや初恋相手の面影を見るなど、誰もが恋心を動かされるという意味では、究極のアイドル女優といえるのかもしれない。

 もう一点、追い風の強さを示しているのは、昨今のテレビ業界事情。録画機器や視聴デバイスの普及、エンタメやレジャーの多様化から、テレビ業界の主要顧客は中高年層になった。実際、「視聴率を左右する中高年層に好かれるために、モデル出身の女優ではなく、昭和顔の女優を起用する」という話をスタッフから聞いたことがある。

 モデル出身の女優のように顔の個性が強くない分、視聴者は物語に集中できるし、素直に共感できるため、「演技がうまい」と感じやすい。以前は“個性派=実力派”という見方が強かったが、現在は“脱個性派=実力派”が主流となっているのだ。

 昭和顔女優の活躍はしばらく続きそうだが、徐々に層が厚くなり、競争が熾烈になり始めているだけに、本人たちにとってはこれからが正念場。「ここ数年間で真の演技力を身につけられた女優が、その後のドラマ業界をけん引する存在になるのではないか?」と楽しみにしている。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

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