「疑似科学(ぎじかがく)」という言葉をご存知でしょうか。エセ科学、ニセ科学、トンデモ科学などともいわれています。

疑似科学は、理論上は筋が通っているように錯覚するため、その正誤を見抜くことがなかなか難しかったりします。

 そして、一部の疑似科学は、消費者を騙すために悪用され、いわゆる悪徳商法につながっているケースもあります。

 今回、疑似科学を用いた商売にありがちなパターンについて紹介したいと思います。ちなみに、今回具体例として挙げたものが、すべて悪徳商法ということではありません。また、特定の企業を名指しで批判しているわけでもありません。できるかぎり多くの人が「聞いたことがある」「知っている」といった事例を取り上げて、疑似科学がどのように悪徳商法に利用されているかの理解を助けることが目的です。

 疑似科学を用いた商売のパターンは、次のようなかたちです。

(1)ものごとに白黒をつけて「善悪」を明確化する
(2)身の回りの話題に触れながら「不安や恐怖」を煽る
(3)都合よく不安や恐怖を解消する商品の宣伝

 では、順番に確認していきましょう。

●(1)ものごとに白黒をつけて「善悪」を明確化する

 まず、商売を始めるにあたっての前提条件や前振りとして、ものごとを「善」と「悪」といったかたちで白黒をつけてきます。

「プラスイオンは体に悪くて、マイナスイオンは体に良い」
「食品添加物や農薬は猛毒。無添加・無農薬の食品がベスト」
「活性酸素は万病のもと」

 ちなみに酸素に対応するかたちで「水素は体に良い」として水素がたくさん含まれている水というのもありました。このような煽りを見たり聞いたりしたことがある人は、多いのではないでしょうか。


 ポイントは、できるかぎりわかりやすく白黒をつけることです。人は、ものごとが単純化されると理解しやすくなります。ここでは、とにかく何が悪者なのかを、ひとりでも多くの人に知らしめることが目的になってきます。さらに、細胞実験や動物実験などのデータを切り貼りして、なんとなく科学的な説明(疑似科学)を付け加えることで、その悪役っぷりを強調してきます。

●(2)身の回りの話題に触れながら「不安や恐怖」を煽る

 ものごとに白黒(善悪)をつけて準備が整うと、次に身の回りにある具体的な事例を挙げながら、いかに悪いものが世の中に蔓延しているかを主張します。

「電子レンジで調理するとプラスイオンが大量発生」
「コンビニ弁当は食品添加物だらけ」
「スーパーの安売り食品に農薬汚染発覚」

 そして、その悪者に認定されたものが、体に悪影響を与えていて、さらに命が危険に晒されているなどと主張し、人を不安や恐怖に陥れます。このときにも、なんとなく科学的な説明(疑似科学)が活躍します。「風が吹けば桶屋が儲かる」の故事ことわざのごとく、こじつけや論理の飛躍を駆使して主張を信じこませます。さらに陰謀説を織り交ぜてくるなど、手の込んだ主張をしてくることもあります。

 具体的な事例が現実とかけ離れていたり、主張が論理的に破綻していたりしてもお構いなしです。ここでは、とにかく人を不安にさせたり恐怖を感じさせたりして、感情を揺さぶることができれば目的達成です。なぜならば、人は感情が揺さぶられると冷静な判断ができなくなるからです。


●(3)都合よく不安や恐怖を解消する商品の宣伝

 人は誰しも不安や恐怖を抱えたままでは安心して生活できません。なんとか不安や恐怖を解消すべく行動するのが人の常だと思います。ここで、都合良く願いを叶えてくれる商品の登場です。

「このマイナスイオン発生装置で活性酸素撃退」
「水素水で活性酸素消去」
「無添加・無農薬の食品で健康生活」

 商品を宣伝・販売している人物は、世の中の悪を退治する英雄さながらの演出をしてきます。「さらに真実を知りたい人はコチラへ」と、書籍の購入やセミナーへの参加を促すこともあります。ここでも、なんとなく科学的な説明(疑似科学)を用いて、いかに商品が体にとって良いものかが強調されます。そして気がつくと、本当に効果があるのかどうかもわからない、しかも冷静に考えれば明らかに実態とはかけ離れた高額な商品を勧められるがまま購入しているのです。

 これで、悪徳商法の完成です。

 では、なんとなく科学的な説明(疑似科学)を鵜呑みにすることなく、悪徳商法に騙されないようになるためには、どうしたらよいのでしょうか。

 次回は、その解決策・対応策について考えてみたいと思います。
(文=大野智/医師、大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄付講座准教授)

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