この連載企画『「だから直接聞いてみた」 for ビジネス』では、知ってトクもしなければ、自慢もできない、だけど気になって眠れない、世にはびこる難問奇問(?)を、当事者である企業さんに直撃取材して解決します。今回は脚本家の林賢一氏が、吉野家の牛丼に関する謎に迫ります。



【ご回答いただいた企業】
吉野家お客様相談室

 牛丼を初めて食べたのはいつだろう。おそらく中学生、高校生の時は食べていない。大学生になって、安い昼飯として食べ始めたのが最初ではないだろうか。それ以来、約20年にもわたって食べ続けている。

 そう考えると、ずっと味の変わらない吉野家は驚異的である。メニューは増えているものの、基本的には牛丼のあの味を求め、お客さんが来店し続けている。

「味が変わらない」と記したが、長年通っている身からすると、正確には微妙に味が違うときがある。それは、肉を煮込んでいる時間に関係している。

 鍋に肉を入れた直後では味が薄く、煮込んでいれば濃いという当たり前の話が当然、吉野家でも起きる。それゆえ、状況によって本当に微妙ではあるが味が違う。個人的には濃い味が好きなので、注文する度に「濃くあってくれ!」と心の中で願ってはいるのだが、こればかりはどうしようもない。

 奇跡的に濃すぎる牛丼がでてきたときの歓びは筆舌に尽くしがたい。
逆に、薄いときはガッカリしてしまうのだが、文句を言うわけにもいかない。だが、無理を承知でこう思う。「なんとかならんか」と。

●牛肉に味が染み込んだタイミングを知る方法はある?

 そこで、吉野家お客様相談室に直接聞いてみた。

「牛丼の肉に味が染みこんでいる時といない時があるのはどうしようもないのでしょうか」

担当者 煮上がりが不完全なときに、肉に味が染みていないのだと思います。

――行くタイミングによって、味の濃さは多少違いますね。

担当者 そうですね。煮上がってから商品を提供するまでに時間が経過しますと、逆に味が付きすぎたり、煮崩れを起こしたり、といった現象も見られるかと思います。

――自分としては、濃い味が好きなのですが、あまり濃すぎると廃棄の対象になるのでしょうか。

担当者 そうですね。ただ、通常のマニュアル通りの味付けができていれば、長く煮ても必要以上に味が染みるということはありません。

――味の濃さには、一定の上限があるのでしょうか。


担当者 そうですね。

――どれくらいの頻度で鍋の入れ替えを行っていますか。

担当者 入れ替えというのは基本的にありません。

――継ぎ足しているのですか。

担当者 はい。肉がなくなってくれば追加し、煮上がった段階で全体をかきまぜるという流れです。そして、またなくなれば、さらに新たに肉を入れ、煮上がったら撹拌して盛り付けをするという繰り返しです。

――良い具合に肉に味が染みこんだタイミングを狙いたいと思っているのですが、時間帯などで煮上がった頃を判断することは可能でしょうか。

担当者 同じ店舗であっても、販売状況が毎日同じというわけではありません。どのタイミングで煮るかというのは、肉の残量や販売状況などによって判断します。それは毎日変わってきますので、情報を提供するのは難しいです。

――では、朝と、タレが結構使われた後の時間帯とでは、どちらのほうが濃い傾向にあるでしょうか。


担当者 本来、煮肉を行うことでタレの味を確認しています。当然、煮詰まってくるような状況であれば、水を足して調整を行うように指導しているので、どこかの時間帯では濃く、また別の時間帯では薄いということは、あってはならないことです。

――やはり、いつ行っても同じ味というのが前提なのですね。

担当者 そうですね。やはりチェーンストアとしては、それが前提になってきます。

――ありがとうございました。

 残念ながら、「濃い味のタイミングを狙いたい」という希望を実現する策などなかった。何時にタレと肉を入れ替えるといったシステムではなく、状況に応じて肉を入れ、水を加減して味を調整しているのだ。

 濃い味を狙えないのは仕方ない。だが、逆の発想で、より楽しむことならできる。「今日の吉野家は濃いかな? それとも薄いかな?」と、ちょっとしたギャンブル気分を胸に秘めながら店に行くのだ。くじを引くような感覚だ。
「もし濃ければラッキー」――。それくらいの気持ちでこれからも通おう。それも含めて“変わらぬ味”だ。
(文=酒平民 林 賢一/ライター)

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