飲み会や残業などで終電を逃したとき、インターネットカフェのお世話になった人は多いのではないだろうか。ホテルよりも安く一夜を過ごすことができるので、年末年始や歓送迎会シーズンには、多くのビジネスパーソンの姿が見受けられる。
しかし、その利便性がゆえに、深夜になるとさまざまな人が集い、「汚い」「ホームレスが多い」「治安が心配」などという声が上がることも多い。昨今、大手チェーンでも閉店のニュースを耳にするが、それはこのようなマイナスイメージが原因なのだろうか。
インターネットカフェやマンガ喫茶の事業者団体である日本複合カフェ協会(JCCA)に話を聞いたところ、「ピーク時よりは店舗数が減ってはいるものの、複合カフェに対するマイナスイメージが原因ではない」という。
同協会によれば、2008年の調査では約2800店舗の複合カフェが存在していたが、14年は1916店、15年は1922店で、集計中の16年についても1900店台と推測されるという。
10年前に比べれば1000店弱が閉店しているが、過去の調査では個室ビデオ店などが集計に含まれていた。そのため、業界全体での店舗数も、集計方法を変えたことによる影響が大きく数値に表れているとのことだ。また、08年のリーマンショックやスマートフォンの登場が影響しているとみられている。
「複合カフェは空いた時間を過ごす場所、いわゆる暇つぶしとして使われてきました。インターネットが楽しめて、マンガや雑誌なども読めるという点がユーザーに支持されていたのだと思います。しかし、スマートフォンの普及により、どこでもインターネットが使えるようになったので、単なる暇つぶしとしての役目は終えたのかもしれません。
店舗数は2000年代のピーク時と比べれば減っていますが、それはブームに乗って出店しただけの企業が淘汰された結果ともいえます。ニーズに合わせた努力をしている企業は現在も継続して運営していますし、『汚い』『治安が悪い』などという問題点は、当協会でも議題に上がることはないです」(JCCA)
同協会に加盟している店舗は、利用時の本人確認が必須で、治安についての問題はほぼ完全にクリアしているという。
●女性でも利用しやすいシステムになっていた
それでも、10年前に比べれば店舗数が減少しているのは事実。同協会では新たなユーザーを獲得するために、動画共有サービス「ニコニコ動画」にログインすれば誰でも「ニコ生優先視聴」などのプレミアム特典が受けられる「ニコニコ@ネットカフェ」などのサービスを導入している。
業界全体ではマイナスイメージを受けていないとのことだが、実店舗ではどのように感じているのか。インターネットカフェ「自遊空間」を運営するランシステムに話を聞いたところ、「ここ数年は200店舗弱で推移しており、大幅に縮小していない」という。
「当社でも毎年、いくつかの店舗が閉店しています。しかし、その理由の多くは店舗の賃貸契約の終了や、施設の老朽化に伴うものです。フランチャイズ店では、オーナーの経営判断によって閉店することもあります。
一方で、新たにオープンする店もあり、全体の店舗数はほぼ横ばいです。都市部では増加する傾向にありますが、ロードサイド店はやや減っているかもしれません」(ランシステム)
都心の店舗や有名店が閉店したと報道されると、ネットなどでは「ネカフェ=オワコン」などという書き込みが見られることもあるが、実際には大きな打撃を受けてはいないようだ。
「実際に複合カフェを利用したことがない方は、今でも「暗い」「入りにくい」などと思われるかもしれません。しかし、当社を含めて業界全体で安心・安全・健全な運営を行うために、さまざまな取り組みを行っています。
たとえば当社では、接客や清掃などの基本を徹底し、清潔感の向上に努めています。また、女性の方でも利用しやすいように、専用のカードキーで入退室する女性専用エリアの導入も始めました。ここには男性スタッフも入りませんので、夜間も安心してご利用いただけると思います」(同)
さらに、店内の照明を明るくするなどの工夫をし、「10年以上前と比べると、初めて利用する方も入りやすくなったという声もある」とのことだった。
筆者も実際にネットカフェをよく利用するが、ブースの壁などを木目調に統一したり、白を基調としたインテリアを配していたりと、おしゃれな空間づくりがなされているのが印象的だ。シャワーブースも清掃が行き届き、気持ちよく使うことができる。
たまたま筆者の訪れた施設が「当たり」だったのかもしれないが、10年以上にわたり東京、仙台、名古屋、大阪などの大都市を中心に利用した感想としては、今のところ「ハズレ」はない。
また、カラオケやダーツなどのアミューズメント設備を導入する店舗も登場し、新たな楽しみを提供する場として生まれ変わりつつあるようにも感じる。ネットカフェをはじめとする複合カフェは成熟期を過ぎ、常にユーザーの立場になってサービスを追求する企業だけが生き残れる時代に突入しているのかもしれない。
(文=OFFICE-SANGA)