米経済誌「フォーブス」は3月8日、一代で10億ドル以上の資産を築いた世界の「たたき上げ女性長者」ランキングを発表した。ランキングは国際女性デーに合わせて発表されたもので、今年は56人(前年は42人)がランクインし、アジア勢は29人を占めた。
人材派遣会社大手、テンプホールディングス(HD)創業者の篠原欣子名誉会長が11億ドル(約1250億円)で、日本人で初めて48位に入った。
フォーブスの日本版「フォーブスジャパン」は、「日本で最も成功した女性起業家、テンプスタッフ篠原欣子の人生」とのタイトルで、以下のように報じている。
「今から約40年前、高校卒業後にイギリスとオーストラリアの企業で秘書職を経験した篠原欣子は、自宅の一室で人材派遣業のテンプスタップを創業した。現在82歳の彼女は、日本で最初の資産10億ドルを超える女性起業家となった。
篠原は2013年にテンプスタッフの持ち株会社のテンプHDの会長職に就いた。昨年の同社の売上高は45億ドル(約5100億円)。ここ1カ月ほどで株価は11.5%の上昇となり、同社株の25%を保有する篠原の資産額は10億ドルを突破した」
●保有株の半分を売却、福祉教育事業に充てる
篠原氏の人生は苦難の連続だった。1934年10月19日、神奈川県横浜市に生まれた。8歳で学校の校長だった父親が病死。助産師として働く母を見て育ち、自立した女性像に憧れたという。高校卒業後、三菱重工業などでOL生活をした。転機は、結婚に失敗し32歳でスイス、イギリスに留学したことだ。
帰国した篠原氏は73年にテンプスタッフを資本金100万円で設立。東京・六本木にわずか8坪の住宅兼オフィスを借り、電話と事務机ひとつでスタートした。38歳という遅咲きの起業家だった。篠原氏は、国内の人材サービス市場をつくりあげた立役者のひとりだ。
篠原氏の最大の決断は、2013年にテンプHDが人材紹介サービスのインテリジェンスHDを買収したことだ。純有利子負債を含めた買収総額は680億円と巨額案件だった。
改正労働者派遣法が背中を押した。12年10月に施行された派遣業への規制と労働者保護を強化した法律だ。派遣先企業の多くは、規制強化を懸念して直接雇用に切り替えるなど派遣離れが進み、人材派遣業界は極端に少なくなったパイを奪い合う状態となった。
篠原氏は市場が縮小していくなかで、さまざまなリスクを検討した。
結果は、賭けに勝った。テンプHDの17年3月期の売上高は前期比14%増の5900億円、営業利益は16%増の325億円、純利益は1%減の171億円の見込み。首都圏を中心に事務派遣が好調で、米人材会社との合弁会社も業績に寄与し、営業利益は2ケタ増となった。子会社の商標権を減損処理したため、最終利益は微減となる。
株価は正直だ。13年の株価の安値は349円(1月7日)だったが、17年3月31日の終値は2074円と5.9倍に上昇した。篠原氏が保有しているテンプHDの株式の価値が高まったことで、世界の「たたき上げ女性長者」ランキングに入った。
テンプHDは2月17日、篠原氏が最大2800万株を売却すると発表した。17日の終値(2030円)で算出すると、売却額は568億円になる。
篠原氏は16年6月、テンプHD会長を退任し名誉会長に退いた。14年に篠原氏は持ち株の5%を投じ、篠原欣子記念財団を設立。看護師、デイケアスタッフ、ソーシャルワーカーを目指す学生らに奨学金を贈る活動を行っている。篠原学園専門学校理事長として指定保育士、診療情報管理士の育成にもあたっている。
篠原氏は再婚もしておらず、子供もいない。財団の基本財産は現在200億円。保有株の売却で得た資金は、財団の基本財産、学校の運営につぎ込まれることになる。
(文=編集部)