4月18日、アサヒ飲料は俳優の神木隆之介と女優の芳根京子を起用した「三ツ矢サイダー」の新CM「僕らの爽快」編の放送を中止することを公式サイトで発表した。
同CMでは、トランペットを練習している芳根の背中に駆け寄ってきた友人たちがぶつかるシーンがあったが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では「楽器演奏中にぶつかるのは危ない」「唇にけがをする」「絶対まねをしてほしくない」と危険性を指摘する楽器経験者の書き込みが相次いでいた。
アサヒ飲料は、公式サイトで「この度、三ツ矢サイダーの新CM『僕らの爽快』編につきまして、お客様からたくさんのご意見を頂きました。配慮に欠ける表現がありましたことを、ここに深くお詫び申し上げます。皆様のご意見を真摯に受け止め、当CMの掲出を取りやめることと致しました。この度は誠に申し訳ございませんでした」と謝罪している。
アサヒグループホールディングス広報への取材によれば、視聴者から「あのCMで友人たちがぶつかるシーンがあり、非常に危険が伴う」という指摘があったのは、18日10時。急遽会議を開催し、同日18時50分に公式サイトの動画を含め、YouTube、ツイッターなどの同CMの広告宣伝を中止することを決定したという。
ツイッターでは、大阪交響楽団トランペット奏者の「全日本吹奏楽連盟のような大きな組織に動いて欲しい」という意見もあったが、同連盟に問い合わせたところ「当該CMについてコメントすることはない」という回答だった。
●歯が折れる、楽器がのどに突き刺さることも
そこで、吹奏楽団に所属する現役の楽器演奏経験者に話を聞くと、件のCMについては疑問視する声が多く聞かれた。
たとえば、東京都の演奏経験者は以下のように語る。
「そもそも論でいえば、ライターの方もそうだと思いますが、文章を書いているときに後ろからぶつかるということは、作業の邪魔になるはずです。なぜあのような演出をしなければならなかったのか、必然性が見えてきません。これは、常識の問題だと思います。
以下のように語るのは、神奈川県の演奏経験者だ。
「個人的見解ですが、どの楽器でも、吹いているときにふざけてぶつかれば、まずい状況になる可能性があります。さらに、楽器の特性上、マウスピースを口に入れている状況であれば、特に唇にけがする可能性がありますね。制作者がどういう意図で制作したのか、それは個々の判断に基いてのものだと思いますが、楽器をしっかり吹いているときは周囲の人は注意する必要があり、悪ふざけはやめるべきです」
続いて、千葉県の演奏経験者からは以下のような声が上がった。
「可能性としては、歯が折れたり転んでけがをしたり、楽器が破損することもあり得ます。偶然であれば仕方ないですが、楽器をやっている人からすれば、あのCMを見て『良し』とする人は誰もいないと思います。以前、私どもの楽団に、映画の撮影で『海を背景にトランペットを吹いている映像がほしいので、協力してほしい』という要請がありましたが、昔ならいざ知らず、『そんな塩っ気のあるところでトランペットは吹けない』と丁重にお断りしたことがありました。結局、CMやテレビでのトランペットを吹くシーンには、演出ありきというケースが多いのかもしれません。
日本は吹奏楽が盛んで吹奏楽人口が多いことから、このCMも注目されたのだと思います。また、制作陣に吹奏楽経験者が不在だったことが悲劇を生んだのかな、とも思います。
今後、アサヒグループホールディングスは広告制作のチェック体制をさらに強化し、複数の関連部門からなる社内審査機関による審査を、環境保全、安全面、法令・コンプライアンス遵守などの観点から、引き続き実施していく方針だという。しかし、演出ありきのCM制作が続けば、他社も含めてこうした事態は繰り返されるだろう。
(文=長井雄一朗/ライター)