「(吉本興業の)幹部と社長に、今僕は『謝れ』と言われている。僕の意志としては謝らない。

僕も覚悟を持ってやってますので。すごいんですよ、騒ぎ方が。会社と先輩と」

 5月28日放送の『らじらー! サンデー』(NHKラジオ第1)でのオリエンタルラジオ・中田敦彦の「謝らない」宣言が波紋を広げた。

 事の発端は、2月25日に脳科学者・茂木健一郎氏が「トランプやバノンは無茶苦茶だが、SNLを始めとするレイトショーでコメディアンたちが徹底抗戦し、視聴者数もうなぎのぼりの様子に胸が熱くなる。一方、日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン」(※原文ママ)とツイッターで発言したことだ。

 これに対して、ダウンタウン・松本人志が3月19日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、「(茂木さんには)笑いのセンスがまったくないから、この人に言われても刺さらない」とコメント。翌週、ゲスト出演した茂木氏は「お笑いが本当に好き。エールのつもりで言ったのですが、誤解を招いてしまい、すみません」と謝罪する格好となった。

 事態は収束したかに思えた4月15日、中田のブログに「オリラジ中田、茂木健一郎の『お笑いオワコン論』支持!」という記事が掲載された。

「茂木さん負けるな!と思っていたところ、大御所の番組に出演して大御所に面白くないと言われ公開処刑をされてしまいました。大御所にセンスがないとか価値を決められてしょげ返っている様子こそが茂木さんの意見通りだったのに。
茂木さんの指摘、当たってたのに。なんで『ほら、これですよ』と言えなかったのだろう。まあ、あの場では言えないか。怖いですもんね」

 名前こそ出していないものの、明らかに『ワイドナショー』での松本の発言を指している。お笑い界は、30年以上も「ビッグ3」と呼ばれるビートたけし、タモリ、明石家さんまが一線で活躍し続けており、世代交代が起きていない。

 1980年代後半から90年代にかけて、とんねるずやダウンタウン、ウッチャンナンチャンなどの「お笑い第3世代」が出現し、冠番組で高視聴率を獲得していった。しかし、ビッグ3という権威を引きずり下ろすまでには至らなかったのが現実だ。

 今回の中田の発言は、上が詰まり過ぎているお笑い界に風穴を開ける提言だと思われた。しかし、大きく打ち上がった花火はすぐに消え去り、話題はほぼ収束してしまった感がある。今回の騒動の背景について、芸能記者が話す。

「確かに、中田に松本を超えるおもしろさがあるかといえば、素直にうなずけないとは思います。ただ、25年以上もダウンタウンを超える芸人が吉本興業から出てきていないのは、テレビ番組の構造にも原因があると思います。


 今のお笑い番組は、ひな壇形式のチームプレーばかり。昔はザ・ドリフターズ対萩本欽一、萩本欽一対ビートたけしのように、集団がはっきりと分かれていて対抗戦形式でした。しかし、最近はライバル視して突っ張るよりも、相手の懐に入って仲良くしたほうが結果的に得するのです。だから、大物芸人が誕生せずに小物ばかりが増えていった。

 根本的な原因は、ひな壇番組の繁栄にあるのです。内輪からはみ出すようなことを言うと、チームから外れることになる。おとなしくして食い扶持をつないでいたほうが安全。つまり、同業者から批判が出てきづらい構造になっているんですよ」

●中田の革命は成功するのか?

 中田は、前述のラジオ番組でこうも言っていた。

「どういうことになるか楽しみじゃない? あの松本人志さんを批判する吉本の若手いなかったじゃない? でも俺にとって、このスタンスこそが、俺のお笑いなのかなと思ったんだよね。いろんなおもしろいってあるじゃない? いろんなつまらないってあるじゃない? 茂木さんが言ってる『バラエティつまらない』というのは、固定化された力関係を見せられてもつまらない、という意味もあると思うんですよ。言葉のおもしろさとかね、ネタのオチとかのおもしろさもあると思うよ。でも、この固定化された関係つまらないな、というところでいうと、俺はおもしろいんじゃない? どう茂木さん? というのは問いたいよね」

 中田は、30年以上も固定化されたお笑い界に風穴を開ける存在になれるのか。
結論を出すにはまだ早い。数年後、「革命は成功した」と語られるような現実は訪れるのだろうか。
(文=編集部)

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