「働き方改革」が叫ばれて久しい昨今、企業にはワークスタイルの多様化が求められている。
オフィス環境も進化する一方で、若手経営者率いるベンチャー企業のなかには、オフィスをファッション化してしまったかのような“トンデモオフィス”が増加中だという。
●席を自由化、オフィス内にカフェやラウンジも
会社内に個人のデスクを設けず、それぞれがパソコンを持ち込んで自由な席で作業をする「フリーアドレス」が注目を集めている。
昨年、東京・紀尾井町の新オフィスに移転したヤフーが導入したことで話題になったほか、コクヨやNTTドコモなどの大手企業がこぞって取り入れているワークスタイルだ。このフリーアドレスは海外発祥と思われがちだが、実はコストの高いオフィス空間を効率的に活用するために、1980年代後期の日本で考案されたものだ。
さらに最近では、都市部への通勤時間を短縮できる「サテライトオフィス」や、自宅やコワーキングスペースで作業をする「リモートワーク」も普及しつつある。
「より自由で多様化するワークスタイルに合わせて、オフィス環境も変化していくべきです」
こう語るのは、ワークプレイスコンサルティング会社・DOUMA代表の小澤清彦氏だ。小澤氏によると、現在、日本のオフィス環境は大きな転換期にあるという。
リクルートキャリアが運営する「就職みらい研究所」が2017年3月卒業の大学4年生・大学院2年生を対象に「働きたい組織の特徴」を調査したアンケートによると、「コミュニケーションが密で、一体感を求められる」という職場を「希望する」「どちらかといえば希望する」と答えたのは全体の80.3%。さらに「ウェットな人間関係で、プライベートでも仲が良い」職場を希望すると答えたのは76.2%と、いずれも7割を超えている。
「かつてのような、机を並べた同僚をライバル視するキャリア志向ではなく、互いに協力しながら成長できる環境を望むというのは、2000年以降に社会人となった『ミレニアル世代』の特徴といえます」(小澤氏)
20年には、労働力人口の過半数をこの「ミレニアル世代」が占めるという。かつての「モーレツ社員」「企業戦士」が流行した時代から、すでに半世紀以上が経過した。社会の中心となる世代の特性や求められるワークスタイルが変われば、オフィスの形態も変化するのが必然だ。
「最近では、フリーアドレスの導入によって余ったスペースを共用のカフェやラウンジとして活用するなど、社員同士がより気軽にコミュニケーションを図れるような場を設けるのが、オフィスのトレンドとなっています」(同)
小澤氏によれば、オフィス環境の改善によって社内のコミュニケーションが活性化すれば、結果的に生産性が向上。
「経営側にとって、オフィスはこれまで単なるコストとして認識されてきました。しかし、これからはオフィスを企業の業績に直結する“投資”として捉えることが重要になります」(同)
●グーグルやフェイスブックを真似して失敗?
このようなトレンドを踏まえて、最近では新興のベンチャー企業を中心に、斬新で派手なオフィスが増えている。社内にカフェスペースは当たり前、ビリヤードやDJブース、さらにはバーカウンターまで完備したオフィスも登場しているのだ。デスクがなく、ソファやベンチが置いてあるだけといった「いったい、どこで仕事をしているのか」と疑問を抱くようなオフィスもある。
「トレンド志向のIT企業のオフィスでは、話題性を先行させるあまり、オフィスデザインが単なるファッションになっていることが多々あります」(同)
こうした企業が憧れがちなのが、グーグルやフェイスブックなど海外企業の先進的なオフィスだ。
「初期のグーグルは、社員全員でのスキー旅行が毎年の恒例行事として行われていたそうです。これは、社内のモチベーションの維持やコミュニケーションの場になっており、グーグルにとって非常に重要なイベントでした。
こうした背景があるからこそ、ゲレンデをモチーフにした執務スペースやスキーリフト型の会議室などが特別な意味を持ち、グーグル独自のユニークなオフィスが生まれたのです。それを、ただ『見た目がおもしろい』という理由で真似をしても、社員に響くオフィスにはなりません」(同)
「オシャレだ」というだけでオフィスを“猿真似”しても、それぞれの企業が持つ個性や業績が上がるワークスタイルのあり方を見失ってしまうことになる。
「みんな仕事が忙しいので、カフェスペースの管理・運営にまで手が回るはずもなく、結局放置されている」「奇抜なオブジェは掃除しにくく、いつもホコリがたまっている」「フリーアドレスのおかげで、働く人と働かない人の差が開く一方」など、見た目やシステムだけを追求した結果、仕事の効率が下がっているというケースも少なくない。
オフィス環境の改善こそが「働き方改革」のカギと成り得るはずだが、理念も信念もない日本のオフィスには、まだまだ課題が多いのかもしれない。
(文=森江利子/清談社)