今クール(7~9月期)の連続テレビドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)が20日、放送された。
東林銀行世田谷北支店で派遣行員として働く原口元子(武井咲)は、すでに他界した親の残した借金を返済するため、夜も“派遣ホステス”として銀座のクラブ「燭台」で働いている。
元子はその金で銀座に念願だった自身のクラブ「カルネ」を開き、ママとなる。そして開店初日、「燭台」のママ・叡子(真矢みき)に連れられ、「燭台」時代の客だった楢林クリニックの院長・楢林謙治(奥田瑛二)、大手予備校・上星ゼミナールの理事長・橋田常雄(高嶋政伸)、さらには彼らと深いつながりを持つ衆議院議員秘書の安島富夫(江口洋介)らも来店し、元子の門出を祝うところまでが第1話で放送された。
豪華なキャストの顔ぶれやクラブのセットなど、画面からもテレ朝の力の入りようが伝わってくる。私は2004年に放送された米倉涼子主演版の『黒革』のファンだったので、今回も期待を持って見たのだが、「あれ? 何かが物足りない」というのが率直な感想である。
なぜそう感じるかを考えてみると、まず、米倉版『黒革』で流れていた重厚な空気感、悲壮感や人間のドロドロ感、そして登場する女たちが必死で世間を生き抜くために露わにする腹黒さやヒリヒリ感が、まったく伝わってこないのだ。
その要因のひとつは、例えば元子が銀行を雇い止めになるきっかけとなったのが、行員による客に関するTwitter投稿であったり、その投稿されるタレント役で斎藤司(トレンディエンジェル)が本人役で登場したり、楢林と叡子の店での会話で国有地払い下げの話題が出たりと、無理に今旬な話題が劇中に取り入れられている点が上げられるだろう。
視聴者との距離を縮めようという制作サイドの努力は理解できるが、かえって視聴者に媚びている印象を受け、さらに本来は重々しさが求められる『黒革』が、そしたシーンが挿入されるたびに白けてしまうのだ。
●軽々しい武井の存在感
そしてもう一つの要因は、武井から人間臭さが感じられず、借金を抱えながら職場でも冷遇される行員という悲壮感もなく、さらに計算深く強かなクラブのママにもまったく見えない点だろう。米倉涼子は、そうした“業”を抱えた“人生に影を持つ計算高い野心家”元子を見事に演じきり、脇を固める多数の大御所俳優陣と肩を並べる存在感を放ち、視聴者をドラマに没頭させる力があった。一方、武井はただの“今どきの若い素行のよろしい女の子”にしかみえず、違和感しか感じない。
思い返せば、米倉は『黒革』での成功をきっかけに女優として飛躍したが、『黒革』の米倉からは「絶対にこのドラマを成功させて、女優としてのし上がってやる」という強い覚悟が感じられた。しかし、今回の武井からは、そんな覚悟がまったく感じられない。表情もノッペリしてセリフも単調で大根女優ぶりを露呈させており、武井の『黒革』主役抜擢は完全に失敗だろう。
武井がどこまで女優としての殻を破ることができるのか、『黒革』が成功するかどうかは、ひとえにそこにかかっているのではないか。
(文=米倉奈津子/ライター)
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