富山市で創業し、富山市に本社を置く東証1部の総合機械メーカー不二越の本間博夫会長が、「富山で生まれ育った人は極力採らない」「閉鎖された考え方が非常に強い」と発言して物議を醸した。トンデモ発言で知名度は高まったが、反響が大きく後処理に追われた。



 不二越は7月5日、富山市の富山商工会議所ビルで2017年5月中間期の決算発表を行った。そこで本間会長は、富山と東京の2本社体制から、8月に本社を東京に一本化すると発表。その説明のなかで、富山県人は閉鎖的な考えが強いので採らないといった趣旨の発言が出たのだ。

 地元経済界は「富山県民を侮辱している」と怒り心頭。富山県と富山労働局が、「本人の適性や能力を基準に公正に採用するよう」要請を出す異例の事態に発展した。

 本間会長は7月25日、不二越のホームページで「発言の一部に不用意で不適切な発言があった」と謝罪した。

 不二越は採用に関する考え方や方針を7月13日のホームページ上で公表した。「生産拠点が富山に集積しているため、富山県出身者から多く応募がありますが、さらに広く全国から募集して、分け隔てなく、人物本位で採用しております」と強調した。

 添付されている資料によると、不二越の従業員約3400人(17年7月時点)のうち富山出身者が約2650人(富山県出身者比率78%)。新卒採用者(13~17年の5年累計)540人のうち富山出身者は315人(同58%)。確かに、富山県出身者が多い。

●自動車用産業用ロボットメーカーへ変身

 富山県人を排除するような発言が飛びだしたのは、危機感の裏返しといえる。


 フランス、英国の両国政府は、40年までにガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出した。電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCEV)の普及が進み、エンジンや変速機の需要が減る。その結果、不二越が得意とするベアリング(軸受け)の受注が落ち込むのは確実だ。16年12月期のベアリングの売上高は728億円で全売上高2114億円の34%を占める主力部門だ。

 そこで、生き残りをかけ産業用ロボットメーカーに転身することにした。

 不二越は20年度に売上高4000億円、営業利益600億円の目標を掲げる。16年の実績比で売上高は1.9倍、営業利益は5.4倍(16年の実績は111億円)。海外売上高比率は50%を超える見通しとしている。この強気の目標をロボット部門の強化で達成するという計画を立てている。

 ロボット部門の16年の売上高は224億円。全社売上の1割程度にとどまる。16年にロボット事業を強化すべく人員を拡充した。
ロボット開発に50人、ロボット営業に90人、システム生産に100人の総計240人だ。

 産業用ロボットは工作機械などと並んで日本のお家芸といわれ、年間出荷額は世界一を誇る。溶接や組み立て、塗装などの作業をする産業用ロボットは多関節ロボットと電子部品実装機に大別される。人の腕のように複数の関節を持ち自動車の塗装に使われる多関節ロボットはファナックと安川電機、ドイツのクーカ、スイスのABBが世界の4強だ。

 ロボット部門の売り上げは、ファナックが1900億円、安川電機が1400億円(いずれも17年3月期実績)。不二越のロボット部門(224億円)のはるか先を行っている。ファナックや安川電機に追撃すべく、ソフトウェアに特化した大卒を積極的に採用する。

 富山が本社では人が集まらないので東京に本社を移す。「広く人材を求めるため東京を本社にする」といえば済むことなのに、「富山育ちは採らない」などと言わずもがなのことを口走ったのだ。

 不二越の18年3月の募集要項によると、ロボットや工作機械のなどの制御できる電気系、工具や機械部品の材料開発、熱処理コーディング分野の材料系、ソフトウェアの開発・設計に適する情報・数学・物理系を求めている。世界市場で業容を拡大するために語学が堪能なことが条件だ。

 本間博会長の失言で、知名度だけは高まった不二越。
はたして富山県出身者ではない多様な人材を集めることができるのだろうか。地元の富山大学工学部の学生にソデにされるといった、笑えない事態にならないことを願う。
(文=編集部)

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