今や人気、知名度、収入のあらゆる面において、芸能人並みの存在となったユーチューバーたち。ヒカキンを筆頭に、動画再生回数の上位に名を連ねる超人気ユーチューバーの年収は1億円以上に上り、小学生や中学生が将来なりたい職業のランキングでもユーチューバーが上位にランクインするほどだ。
そして、同時に注目されているのがユーチューバーたちの懐事情だ。なにしろ、彼らの動画を見ていると1000万円単位の買い物をすることもザラ。いくら高額所得者といっても、お金の使い方が派手すぎるのである。
そこで浮上しているのが、「出費を経費として落としているのではないか」という見方だ。つまり、買い物などに使った多額のお金を動画制作の経費に計上することで「節税対策をしているのでは」というのだが……。実際のところ、ユーチューバーたちの散財は経費として認められるのだろうか。
●1000万円以上の買い物動画をアップするヒカキン
まず、ユーチューバーのビジネスモデルを確認しておこう。その名の通り、ユーチューバーとは動画共有サイト「ユーチューブ」に動画をアップし、その再生回数に応じて収入を得ている人たちのことだ。
ただし、再生1回当たりの収益は0.1円ともそれ以下ともいわれ、よほど注目されないと儲からない。年間1000万円から億単位の収入を得ているのは、ごくごく一部の超人気ユーチューバーだけで、多くの無名ユーチューバーは再生回数をアップさせるために、あの手この手を使って試行錯誤を繰り返しているのが実情だ。
そうしたなかで、最近目立ち始めたのが、一部の超人気ユーチューバーたちの派手なお金の使い方である。たとえば、ヒカキンは先日、人気ブランド同士のコラボ「LOUIS VUITTON×SUPREME」の期間限定ストアで総額1000万円以上の買い物をし、その様子を撮影した動画をアップ。
また、VALU【※1】詐欺疑惑で大炎上した自称“金持ち系ユーチューバー”のヒカルも、お金をかけた動画で有名だ。競馬で1000万円分の馬券を購入したり、視聴者へのプレゼント企画としてゲーム機のプレイステーション4を100台配ったりと、その豪快なお金の使い方がたびたび話題となる。
しかし、いくら彼らが億単位の収入を得ていて、その金にものをいわせた派手な企画で再生回数を稼ごうとしているにしても、ひとつの動画にこれだけお金をかけるのは尋常ではない。やはり、こうしたお金は経費で落としているのだろうか。
そこで、人気ユーチューバーが多数所属する事務所「UUUM」に問い合わせたが、「お金の話はダメ」ということで取材を断られてしまった。
真相は藪の中かと思いきや、「法律上は経費として計上することも不可能ではありません」と教えてくれたのは、野口五丈公認会計士事務所代表で税理士の野口五丈氏だ。野口氏の顧客のなかにはユーチューバーもいるという。
「一応、法律上では『業務として売り上げを上げるために必要な費用』であれば、経費として計上していいことになっています」(野口氏)
前述したように、ユーチューバーは動画の再生回数によって収入が決まる。多くの人に注目される動画をつくり、視聴者を増やすためにお金を使うのであれば、たとえ1000万円以上の大金でも理論上は経費ということになるわけだ。
「経費に限度額はありません。お金をかけてコンテンツをつくり上げることによって売り上げが増え、利益に還元されている。
●ユーチューバーの出費が経費になる3つの条件
もっとも、売り上げを上げるために必要な費用なのかどうかの判断は非常にあいまいで、特にユーチューバーの経費については明確な線引きが難しいという。しかも、仮に経費として計上できる可能性があっても、それは「自殺行為」だと野口氏は語る。
「『こうやって注目を集めて稼いでいるんだ』という論拠があれば、主張も理解できます。しかし、私は国税局が簡単に『はい、そうですか』と納得するとは思えません。派手にお金を使うのは、自ら『税務調査に来てください』と言っているようなもの。私の顧問先なら、おすすめしませんね」(同)
野口氏によれば、経費として認められるための条件は次の3点だという。
(1)経費の内容を説明でき、さらに他者から見ても納得がいく客観性
(2)文書や客観的な証拠で裏付けがとれている
(3)結果的に売り上げが上がっている、再生回数が増えたなどの合理性
客観性や合理性が問われる以上、たとえばギャンブル専門チャンネルをうたいながらアミューズメントパークを訪れた動画をアップし、そこでの出費を経費に計上しようとしても、認められる可能性は低くなる。
しかし、逆にいうと、上記の3点を満たして整合性が取れていれば、ヒカキンの1000万円以上の買い物も経費にすることは可能というわけだ。
そうなると、よからぬ考えも浮かんでしまう。たとえば、ユーチューバーでもなんでもない筆者が「動画制作のため」などといって以前から欲しかった商品を購入し、そのレビュー動画を「ユーチューブ」にアップさえすれば、無事に経費として認められるのだろうか。
「そこに客観性を示すことができるのであれば、認められる可能性はないとはいえません。
そこがあいまいであれば、『一回投資してダメだったのに、なぜ投資し続けるのか? それって仕事じゃなくて趣味だよね。だから、経費として認められません』という判断になるのではないでしょうか」(同)
念のために言うと、これらはあくまでユーチューバーがコンテンツづくりに使ったお金を経費に計上した場合の話だ。いずれにせよ、「どこまで経費で落とせるか」を知るためには、自らユーチューバーとなって確かめるしかないのかもしれない。
(文=藤野ゆり/清談社)
【※1】
個人の価値を仮想株式で売買するフィンテックサービスのひとつ