サンリオは6月22日、多摩市のパルテノン多摩大ホールで定時株主総会を開催した。1960年に山梨県の絹製品を販売する外郭団体を独立させ、山梨シルクセンター(現サンリオ)を設立して以来、辻信太郎氏は社長在籍56年目を迎えるが続投した。
5月18日に開いたアナリスト説明会は、信太郎氏に代わって朋邦氏が出席。「キャラクターのプロモーションを進めるとともに、参入が遅れているデジタルコンテンツの分野を注力していく。新しいサンリオをつくっていきたい」と語った。
サンリオは新しいキャラクターを次々と打ち出している。新しいキャラをお菓子などにつけるコラボ商品をつくることと、コラボ商品をネットショップで販売することを収益の柱に育てたいとしている。
2018年春にまとめる中期経営計画にどんな具体策が盛り込まれるかが焦点だ。だが、ハローキティをしのぐ人気キャラを生み出すのは至難の業だろう。創業家3代目にとって、とてつもなく荷が重いのではないのか。
●主力のライセンスビジネスが減収減益
日経平均株価は2万3000円を突破し、26年ぶりの高値になっているというのに、サンリオの株価は11月6日に年初来安値の1803円をつけた。
10月10日、18年3月期の業績予想を下方修正した。連結売上高は前期比5%増の657億円の予想から一転、4%減の603億円に引き下げた。営業利益は56%増の108億円を9%減の63億円、純利益は20%増の78億円から26%減の48億円と下方修正した。最終減益は3年連続となる。
当初の予想から54億円の減収、営業利益は45億円、純利益は30億円の、いずれも減益となる。年間配当は80円予想から25円減の55円に減配する。
従来の増益予想から一転して減益となり、失望売りが出た。年間配当を引き下げたのも嫌気された。
18年3月期の第1四半期(17年4月~6月)は惨憺たるものだった。売上高は前年同期比11%減の134億円、営業利益は37%減の12億円、純利益は18%減の10億円。国内事業は6.6億円の営業赤字。主力の物販とライセンスは減収減益。「サンリオピューロランド」のテーマパーク部門だけが増収だった。
海外では自ら商品を企画販売するのではなく、企業にハローキティなど人気キャラクターをライセンス供与して稼ぐビジネスが中心。海外でのライセンスビジネスが収益の柱となっていたが、そのビジネスモデルの見直しが急務となっている。海外事業は2ケタの大幅な減収・減益となった。
それでも、この時点では通期に関しては強気の予想を立てていた。だが、国内では直営店、大手量販店向けの物販が振るわない。米国では、世界最大の通販サイトのアマゾン・ドットコムが小売市場を席巻し、小売チェーンは次々と閉店に追いやられた。
サンリオがライセンスを供与している米小売チェーン最大手、ウォルマート・ストアーズが苦戦を強いられていることが大きく響いた。
好調なテーマパークや中国、香港、ASEANでのライセンス事業の寄与を見込み、通期の増収・増益を計画していたが、この甘い見通しが見事に外れた格好だ。
●ライセンス事業に替わるビジネスモデルを描けるか
サンリオの転換点は13年11月19日、サンリオの海外事業担当だった辻邦彦副社長が出張先の米ロサンゼルスで急性心不全のため死去したことだ。信太郎氏の長男で享年61。信太郎氏から社長の座を引き継ぐのが既定路線だった。それだけに社内に与えた衝撃は大きく、ここからサンリオの迷走が始まった。
サンリオは1990年代後半が黄金期だった。女子高生の間でハローキティのグッズを買い集めて自室に飾る“キティラー”現象が巻き起こり爆発的に売れた。99年3月期の売上高は1500億円、営業利益180億円まで増加した。
ブームが消えると売り上げは年々減少。2000年代の長期低迷の時代に副社長を務めていた邦彦氏は、ある人物をスカウトした。
2008年、鳩山氏は邦彦氏に誘われて、米国法人のCOO(最高執行責任者)に就任。10年、サンリオ本体の取締役事業本部長、13年4月常務取締役になった。
邦彦氏と鳩山氏は北米で物品販売からハローキティのライセンス収入にビジネスモデルを転換した。ライセンスビジネスとはハローキティの商標使用権を他社に供与しロイヤリティ(使用料)を得る事業だ。物販に比べて売り上げは減るが利益率は高い。
このビジネスモデルの転換は大成功で、4期連続の営業増益となり、14年3月期の営業利益は210億円。鳩山氏が米国法人に入社する直前の07年3月期の41億円から5倍となった。ロイヤリティ売り上げは349億円で全社売り上げの45%を占めた。サンリオはライセンスビジネスで稼ぐ企業に大変身した。株価は6270円(13年9月27日)に急伸。
その最中に邦彦氏が死去。鳩山氏は最大の後ろ盾を失ったことになる。ライセンスビジネスの立役者である鳩山氏に逆風が吹き付けた。
「販売を重視し、ライセンスビジネスでない方向に重点を置く」。14年5月、信太郎氏が機関投資家向けの決算説明会でこう発言したが、この発言に市場関係者は首を傾げた。ドル箱に育ったライセンスビジネスから、元のグッズ販売会社に戻るという“先祖返り”だったからである。
信太郎氏の方針で物販販売が強化され、ライセンスビジネスは後方に追いやられた。サンリオが16年6月23日に開催した株主総会で鳩山氏は常務を退任。信太郎氏の孫、朋邦氏が取締役に昇格。信太郎氏は最大の功労者の鳩山氏を切り、孫を後継者に据えた。鳩山氏はその後、LINEの社外取締役に転じた。
そして、今年6月22日の株主総会後の取締役会で朋邦氏はナンバー2に昇格。孫にバトンを渡すことを明確にしたわけだが、朋邦氏の経営者としての力量は未知数である。
今年90歳になる信太郎氏は血の継承にこだわった。邦彦氏の死後、邦彦氏の妻の友子氏を取締役にし、中国・香港・ASEANの事業を統括する海外事業本部を担当させた。次期社長候補を母親が取締役として補佐する構図だ。「まるで社長を母親が陰でコントロールしていたタカタのようだ」(外資系証券会社のアナリスト)と懸念が深まった。
負債総額1兆7000億円で経営破綻したタカタと酷似する構図に株式市場は拒否反応を示している。上場企業の次のトップを母親が“お守り”する姿は、開かれた会社とはいえない。
また、ライセンスビジネスから物販に切り替えたことは効果よりマイナス面が大きかった。
18年3月期の営業利益は63億円の見込みで、ライセンスビジネスで稼いでいた全盛期の営業利益(210億円)の3割にとどまる。創業者の高齢化に、次期社長と目されている孫の経営能力が未知数なことが重なる。投資家がサンリオ株を敬遠したとしても、何の不思議もない。
(文=編集部)