儲けのにおいをかぎつけて群がる投資ファンドを、別名「ハゲタカファンド」と呼ぶ。屍臭漂う東芝は、ハゲタカにとってはまたとない獲物だ。

東芝の第三者割当増資に、世界で荒稼ぎするハゲタカの面々が集結した。

 東芝は6000億円の巨額増資に踏み切り、12月5日に第三者割当増資を完了した。資金調達を担った主幹事は、米投資銀行大手のゴールドマン・サックス。ゴールドマンは、発行する株式すべてを海外のファンド60社に割り当て、200億円弱の手数料を得る。日本の投資家はまったく参加していない。1株当たりの発行価格は262円80銭となっている。

 東芝が公表した「第三者割当による新株式の発行に関するお知らせ」は83ページに及ぶ。そこにはアクティビスト(物言う株主)を中心とした強面ファンドが名を連ねる。

 今回の増資で最大の3.2億株(増資全体の14.0%)を引き受けたのは、シンガポールのエフィッシモ・キャピタル・マネジメント。1株262円80銭で計算すると、出資額は840億円に上る。出資比率は9.89%から11.34%に高まり、筆頭株主の地位を維持した。

 エフィッシモは旧村上ファンドの幹部だった高坂卓志氏ら3人が設立した資産運用会社。
米国の基金をはじめとする欧米の機関投資家から運用を受託している。日産車体、テーオーシー、東京鐵鋼、ハピネット、ジャパンディスプレイ、TASAKI、ユーシン、鳥居薬品、日東紡績、近畿車輛、第一生命ホールディングス、大阪製鐵、三井金属エンジニアリング、川崎汽船、リコー、ヤマダ電機、セゾン情報システムズなどに投資してきた。

 現在、もっとも注目を浴びているのは、エフィッシモが筆頭株主になった川崎汽船だ。2016年の株主総会で村上英三社長の取締役再任に反対。かろうじて可決される事態となり、会社側は胆を冷やした。それに懲りて、経営陣はエフィッシモの高坂卓志代表と面談。17年の総会でエフィッシモは社長の再任に賛成した。

 エフィッシモは今年3月、東芝の株式8.14%を保有する大株主として登場。その後、9.89%まで買い増した。さらに今回、第三者割当増資を引き受け、11.34%を保有する、文字通りの大株主となった。

●東芝に群がるハゲタカファンド

 ほかにも、投資の世界で存在感を増している大物がそろった。

 3億株、13.1%出資したセガンティ・キャピタル・マネジメントは、香港を拠点とする投資ファンド。
15年のヘッジファンド運用成績ランキング(ブルームバーグ調査)では、年率29.6%の投資リターンを得ており、3位だった。

 1.7億株、7.4%出資したハンター・パットンは、米ハーバード大学が所有するファンド。寄付金等を元に370億ドルの大学の基金を運用し、ハーバード大学の運営予算の35%を生み出している。同大学は米国の教育業界でもっとも資金力があるといわれている。

 うるさ型のファンドも顔を揃える。

 1.27億株、5.6%出資したエリオット・マネジメントは、「米国でもっとも成功したヘッジファンド」といわれている。平均して年間13.5%のリターンを達成している。

 エリオットはこれまで豪英資源大手のBHPビリトンに米石油事業の分離を要求、韓国のサムスン電子に30兆ウォン、3兆円近い特別配当の支払いを求めた。蘭塗料大手アクゾ・ノーベルに会長解任を求めたほか、アルミ大手アルコニックのCEOを辞任に追い込んだ。

 日本では米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)がTOB(株式公開買い付け)を実施している日立国際電気株の9%近くを保有し、揺さぶりをかけた。おかげでKKRはTOB価格の引き上げと期間延長に追い込まれた。

 3900万株、1.7%出資した香港のオアシス・マネジメントは、日本で売り出し中のアクティビストだ。
任天堂に対しスマートフォン向けに「スーパーマリオ」などのソフトを供給するよう戦略転換を求め、京セラに保有するKDDI全株の売却と売却額の半分に当たる5000億円の株主への還元を要求した。

 アルプス電気によるアルパインの完全子会社計画では、株式交換方式ではなく現金での買収への切り替えや価格引き上げを求めている。パナホームを完全子会社しようとしたパナソニックとの間でも対立した。11月には人材派遣大手のパソナグループに経営改善提案書を突きつけ、「創業者の南部靖之グループ代表の存在がコーポレートガバナンスの欠如につながっている」と指摘した。

 懐かしい名前も登場する。

 5350株、2.3%出資したサーベラス・キャピタル・マネジメントは、かつて西武ホールディングス(HD)を買収したことで知られる。西武HDは再上場を果たし、サーベラスはしっかりと稼いだ。

 5300万株、2.3%出資したサード・ポイントは「モノ言う株主」として有名なダニエル・ローブ氏が率いるヘッジファンドだ。ソニーに映画・娯楽部門の分離を求め、ファナックに大幅な株主への還元を要求。セブン&アイ・ホールディングスにイトーヨーカ堂を独立させ、米国法人の分離上場を求めたこともある。

 東芝の“なりふり構わない増資”で、普段は信託口など裏側に隠れている投資家が表面に炙り出された。原子力事業を抱える東芝のバックには経済産業省がついているので潰れる心配はなく、確実に儲かると踏んだのだろう。
兜町を歩いていると、「東芝の株価は最低でも400円はするとの読みがハゲタカ連中にはある」と伝わってくる。

 彼等にとって東芝の再建は二の次、三の次。目的は、いかに高値で売り抜けるかだけだ。株価上昇を狙って、採算性の低い事業の分離を求めてくるのは必定だ。稼ぎ頭の東芝メモリの売却中止を要求することもあり得る。

 ハゲタカファンドに食い散らされる東芝には、ペンペン草も生えないことになる。
(文=編集部)

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