ここ数年、景気回復により企業の採用意欲が強まり、学生側に有利な売り手市場が続いている。リクルートキャリアが昨年10月に発表した「就職プロセス調査(2018年卒)」によると、10月1日時点の大学生の就職内定率は92.1%。
一方、企業側は採用難となっており、学生の内定辞退に頭を悩ませている。同じく「就職プロセス調査(18年卒)」を見ると、昨年10月1日時点での内定辞退率は64.6%。内定を出したとしても、かなりの学生に断られてしまう状況なのだ。
こうした学生優位な売り手市場のなか、企業は優秀な学生に興味を持ってもらうべく試行錯誤を続けている。そのひとつが、通常とは違った評価基準で学生を選考するユニークな採用方法だ。
例えば、ソフトバンクが行なっている「No.1採用」では、スポーツや学術などなんらかの活動でNo.1になった学生のみが応募できる。また、スマホコンテンツ事業やアドテクノロジー事業を展開するユナイテッドでは、1泊2日のサバイバル合宿や、新たな事業案を考え選考官にプレゼンするなど、さまざまなユニーク採用を行なっている。
ではなぜ、近年このような一風変わった採用活動が増えているのだろう。株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役社長で人事コンサルタントの増沢隆太氏に話を聞いた。
●優秀な学生の発掘と自社PRを兼ねる
「まず、近年の新卒採用の動向について、企業側の採用意欲は強いです。それに対して学生の数は決まっていますので、学生が優位な環境というのは今年度就活が終わった人たちも、これから就活をする人もだいたい同じトレンドです。
やはり「売り手市場」というのは間違いないようだ。ではなぜ、近年ユニーク採用を導入する企業が増えているのだろうか。
「もともとは富士通が11年に『Challenge & Innovation採用』という一芸採用を始めた辺りが最初だと思います。というのも、企業が官僚化・大組織化していくと、採用の際、応募者を一人ひとり時間をかけて見ることができません。そこで、まずは学歴フィルターで学生をふるい落す。大卒といっても偏差値がそこそこの大学もあれば、優秀なところもありますからね。ただ、学歴で切ってしまうと、成績に現れない能力を持つ学生が落ちてしまいます。そこで、そういった優秀な学生をすくい上げるという目的で始まったのが、一芸に秀でた学生を募集する一芸採用といったユニークな採用方法です」(同)
また、企業側がユニーク採用を行う目的として、「自社のPR」という側面もあると増沢氏は言う。
「PRにも2つありまして、採用そのものに苦戦している会社が多いですから、話題性のある採用方法で人気を集めたいというのがひとつ。ネットニュースなどに取り上げられれば、広告効果やマーケティング的な価値を得られますからね。また、IT系の企業でありがちですが、自社のサービスを売りたい。
では、企業側にユニーク採用を行うことのデメリットはあるのだろうか。
「デメリットというほどのデメリットはないと思います。そもそもまったく名も知られていない会社がユニーク採用をやっても学生には伝わらない。話題になっているところも、ソフトバンクなどそれなりに知名度が高いところですよね。強いて言うならどうやって評価するかが難しい点でしょうか。『けん玉でNo.1です』と言われても、どのくらいすごいかわからない。評価ポイントが相当難しく、その一芸が実際の業務においてどんな成果につながるかがわかればいいですが、結局のところはなんともいえません」(同)
高学歴だからといって、入社後に活躍できるとは限らない。同様に、学歴は低くとも優秀な学生はいるだろう。ユニーク採用は、自社のPRをしながら網から漏れた能力のある人材を探し出すことができるのかもしれない。
●学生は恋愛同様に草食化の傾向あり
では逆に、ユニーク採用を受ける学生側のメリットはなんなのだろう。
「大学名不問なので、偏差値が高くない学生にとっても入社できる可能性があるということ。
確かに今の学生は保守的・安定志向といわれている。
「今の学生は非常にナイーブで、落とされるのをとても嫌がる。安定志向はもちろんですが、自分が否定されるのをものすごく嫌って、否定される前に辞めてしまう。恋愛でも振られたくないから告白しない、付き合わないという人が増えているといわれていますが、同じように就職活動でも積極的にチャレンジしない学生は増えています。だから今の学生には、『就職は結婚や恋愛と同じ』という教訓が通じないんですよ」(同)
草食化の波は恋愛に限らず、キャリア選択にまで及んでいるのだ。では、ユニーク採用の学生側のデメリットはあるのだろうか。
「PRも兼ねているという点を理解して応募する分にはデメリットはないですね。そもそも、それで100人採用するわけではないのですから。ユニーク採用にすべてをかけるような無謀なことをしなければ、そんなにデメリットはないと考えていいでしょう」(同)
企業側と同様に、ユニーク採用は学生にとってもそこまでデメリットはないようだ。ただ、消極的な学生が増えているというように、応募する学生はそこまで多くはないのかもしれない。
●優秀な学生にとっては楽な“売り手市場”が続く
最後に、増沢氏に今後の採用活動についての見通しを伺った。
「アジアでの戦争勃発など激しい環境変化がなければ、今の人手不足の状況は変わらないので、採用自体は学生にとって有利な売り手市場が続くと思います。そうはいっても企業側が欲しいのは、“自分たちの考える優秀な人材”。売り手市場だからといって、誰でも採るということはしない。そのことを学生は勘違いしないようにしてほしいです。また理工系学生のニーズは引き続き強い一方、銀行が社員をリストラするなど、企業の組織構造が昔と変わってきています。文系の需要がなくなることはないでしょうが、新卒正社員でなくともすむ事務系より、サービス系需要が強まっています。(同)
理系学生とは違い、文系の学生にはアピールすべきスキルがないことが多い。その対策として資格の取得をする学生がいるが、増沢氏は「スキルや資格はあまり役に立たないかもしれない」と続ける。
「採用側としては、司法試験合格など超難関の資格ならまだしも、誰でも取れる程度の資格はたいして重視しません。むしろ企業の市場環境や商売の仕組みを理解しているといった企業研究のほうが重要。学生の多くが広報や企画をやりたいと言いますが、仕事を取ってきているのは営業です。
売り手市場は今後も続くと予想されるが、有利なのはあくまで“企業が欲しいと思う”学生だ。ユニーク採用を利用すればチャンスは広がるが、かといって就職活動が楽になるわけではないことを、今の学生は肝に銘じておくべきだろう。
(文=日下部貴士/A4studio)