1月15日、愛知県蒲郡市のスーパーマーケット「スーパータツヤ」が、ヨリトフグの肝(肝臓)を販売していたことが発覚し、保健所が回収命令を出すという事件が起きた。11パック販売されたうちの9パックは回収され、2パックは消費されていた(18日現在、愛知県発表)が、今のところ健康被害は報告されていない。
フグの肝臓は、どんなフグであっても販売も提供も食品衛生法で禁止されている。フグ中毒は死亡率が高く、特に肝臓に毒がたまりやすい。
ところが、このフグの肝臓の可食化に向けた試みが過去になされている。佐賀県は国に2回提案しているが、食品安全委員会は2回とも却下している。最初は2004年12月、佐賀県は構造改革特別区制度に基づき、養殖トラフグの肝臓の可食化を求める検討要請を内閣官房に提出した。それを受けて厚生労働省は、食品安全委員会にリスク評価を依頼した。このとき、佐賀県は次のように主張した。
「フグ毒のテトロドトキシンは、トラフグ自らが体内で産生するのではなく、ビブリオ・アルギノリチカス等の海中の細菌が産生し、食物連鎖により体内に蓄積すること、その上で、毒性のないトラフグの養殖技術とされる囲い養殖法を応用し、トラフグの餌となる有毒生物を遮断して養殖されたトラフグの肝は無毒である」
フグ毒はフグ自体が生み出すのではなく、細菌が含まれた餌を食べることで生み出されるから、囲いをした養殖場で無毒の餌を与えれば、フグの肝臓も無毒になるという理屈である。ところが食安委は「フグ毒によるトラフグの毒化機構は十分に解明されていない」「フグの毒化機構が解明されていない以上、養殖方法における危害要因及び制御するべきポイントを特定することが不可能である」「提案された養殖方法について安全性確認のための実験データが現時点では十分とは言い難いため、本養殖方法が恒常的にトラフグの無毒化に有効であるかどうかの判断が難しい」として、「食品としての安全性が確保されていることを確認することはできない」と結論づけ、05年8月、提案を却下している。
食安委は「確かに、餌が原因という説が有力だが、完全に解明されたわけではない。養殖方法も安全だという確証がない」としているが、これは当然のことである。
●フグのロシアンルーレット
さらに11年10月、佐賀県内の事業者が佐賀県に対し、毒性検査で有毒ではないことを確認した養殖トラフグの肝臓を可食化する提案を行った。佐賀県は第三者委員会を設置し、審議の結果妥当と判断し、事業者と共同で厚労省に提案書を提出した。それを受け厚労省は16年4月、食安委に「提案者である佐賀県内の養殖場において陸上養殖されたトラフグの肝臓の一部を1匹ずつ取って検査を行い、フグ毒が検出限界以下の場合、提案者のレストランに限定して提供する場合の安全性についてリスク評価」を依頼した。海ではなく、隔離された陸上で養殖し、しかも1匹ずつ肝臓の検査をするから問題ないという提案だった。
この提案に対し食安委は「フグの毒化機構は未解明で、陸上養殖されたトラフグの肝臓であっても、その危害要因及び制御するべき点を特定することができない」「個別の毒性検査の方法が、陸上で養殖されたトラフグの肝臓の安全性が十分確保されているとは判断できない」「肝臓の一部を検査することにより、肝臓全体の安全性を保障できるとは判断できない」「分析対象物質をフグ毒(テトロドトキシン)のみとすることが、陸上養殖トラフグの肝臓の安全性を確保する上で妥当とは判断できない」という理由で、「食品としての安全性が確保されると確認することはできない」と結論づけた。
この2回目の評価結果は、17年3月に出されている。まだ1年前のことだ。1回目の提案から10年以上経過した今でも、食安委はフグの毒化機構は解明できていないとしている。フグの肝臓全体が毒に汚染されているとは限らないので、「肝臓の一部を検査しても、肝臓全体が安全かどうかはわからない」というのも至極妥当な結論だ。
フグ毒は、同じ種類のフグであっても汚染度合いは異なる。
今回のように、スーパーなどの小売店で肝臓が販売されていることはないと信じたいが、禁止されていることを知りながら「客の求めに応じて提供する店がある」という噂は耳にする。フグの肝臓や牛の生レバーなど、禁止されると食べたくなる人もいるようだが、命知らずもはなはだしい。「フグの肝臓を食べるということは、生死にかかわる」ということを、肝に銘じてほしい。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)